いまだに弟が言うあの時のトロの味

遥か大昔の事であるが弟が一浪して何校も滑りまくって
ようやく合格した大学が岐阜の大垣の学校であった。
なんともへんぴな田舎であった。
一人暮らしを始めるということで引っ越しの手伝いに大垣まで出向いた。
引っ越し作業もひと段落したので晩ごはんでも食べに行くかという事になり
私は働いて2年目であったので小金は少し持っていたので
せっかくなのでここは兄貴の威厳をみせてやろうと
大学の合格祝いに寿司を奢ってやるから寿司屋にでも行こうぜ。
と人生で初めて弟と二人きりで寿司屋に行った。
もちろん回転寿司ではなくカウンターがあり大将が握るちゃんとしたお寿司屋さんである。
よし今日は合格祝いに奢ってやるからなんでも好きな物頼んでいいぞ。
最初は普通にマグロやハマチなんかを注文していたのだが途中で
せっかくなんでトロって頼んでみないか??
寿司屋でトロなんて注文したことないやろう一回食べてみようぜって事になり二人でトロを注文した。値段が幾らなのかドキドキしていたのは内緒である。
さすがにお寿司屋さんのトロなのでめちゃ美味しかったのであるが
弟は始めてお寿司屋さんでトロを体験したので
「トロってめちゃ美味いな、これ、ほんまに口の中でトロってするやん」とそれはそれは大興奮
「トロってこんなに美味いんや」と初めての体験に大喜びであった。
せっかくなんでじゃあ最後にもう1回トロを注文するかと帰る間際に再度注文。「高いからええよ」と遠慮した事をいう生真面目な弟であったが
イケイケの強引な私に押し切られて最後にトロを食べた
「これは美味いわ、マジありがとうな」と感謝され兄貴の面目躍如である。
ドキドキの支払を済ませて帰った昔の出来事があった。

それからもう何十年も経つのであるが年に数回実家で弟にも合う時にたまに宅配のお寿司を頼む事がある。お寿司を頼む度に弟は「あの時大学の入学祝いで兄貴に奢ってもらって食べたトロは最高に美味しかったんやでぇ」と毎回みんながいる前であの日のトロがめちゃ美味しかったんだと何回も何回も言う。
弟にとってはトロと出会った初めての感動がいまだに忘れられずいるみたいだ。
美味しいものの記憶は味なんかではなくて、
それをどんなシチュエーションで食べた環境や思い出なのかもしれない。

#MVN

2016年07月22日公開:2022年4月24日ShortNote閉鎖につき転載。

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