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営業向いていない公務員が営業向いてない上司にヴィーガン対応でコキ使われて病んだ

もう4年前にもなる。
コロナ禍真っ只中なのにやるかどうかもわからんスポーツの祭典全世界バージョンみたいなようわからん催しの担当部署へ飛ばされた時の話。

「ヴィーガンの対応をしなくっちゃ」

この時私は初めて「ヴィーガン」という思想の存在を知った。
肉を食わない人たち。
動物愛護とかそういう信条に則って草食の道を選んだ人たち。
「ハラル」と一緒に対応が必要だと上司が突然言い出した。

知らん。ごめん。
食事対応の大切さは確かにわかるけど、知らん。
これが本音だった。
そもそもそこまでうちらが考えることですか……?
宗教上気をつけないといけないハラルはわかるけど、自分で肉食わない選択をしたヴィーガンのためにそこまで?
てかスポーツマンなのに肉食わないの?タンパク質とりな?死ぬよ?
しかもどうせ運営とか全部委託業者にポーンと丸投げするんやん?と思ったけど、そのためにも自分たちが知識をつけて色々考えて契約仕様書を作らないといけないんだという。
まじめんどくさいこんなことしたくない公務員辞めたい。
そう強く思った出来事の一つ。

でも自分には関係ないことでも「該当する人のため」にやるのが公務員。
心の抵抗感と義務感のハレーションですっかり病んでいたであろう私は訳もわからず上司に付き添って、県内でヴィーガン対応をしてくれるお弁当屋さんにお話を聞きに行った。
ゆくゆくはそこでお弁当の作成委託をすることも踏まえて。

そのアポとりをするのは私。
外部と繋がることが本当に嫌だった。内向的すぎて。その時まだMBTIとか知らんかったけど、めちゃくちゃ「I」すぎて。
友達とご飯の約束も自分でできない女が見ず知らずの弁当屋に「スポーツの世界大会をやるので、ヴィーガン対応が必要だなって思っていて、そこですでに取り組まれてらっしゃる御社で詳しくお話聞かせていただきたいんですけど……」などと不躾な依頼を電話ですることのハードルの高さ。
あなたたちにはわからないでしょうねえ!!!!!!と思いながらした。
アポはとれた。

約束の日、呑気なシゴデキ上司2人と私の3人でお話を聞きに行った。
それはそれは素晴らしい取り組みだった。お弁当屋さんって給食みたいに一斉調理して同じもの箱に詰めるっていう流れがあるはずなのに、個別対応で相手に合わせてお弁当を作ることの手間を惜しまない。
しかもハラルとか、肉切る包丁やまな板も変えないといけないっていう手間があるのにそれもちゃんとやってらっしゃるし資格も認定も取ってらっしゃる。
本当にすばらしいお店。

呑気な上司は言った。

「じゃあ一度どんなお弁当なのか、どんな対応ができるのかうちの職員のお弁当として注文するのでお願いします。」

大迷惑な注文だなと思った。しかもなんか偉そう。
その取り次ぎをするのは私だ。私にもお店にも大迷惑。お前が全部やれよ。
何、「ヴィーガン弁当」って言うざっくりした注文。うちらヴィーガンちゃうからわからんて。店に丸投げしやがって。

「わかりました」

お店の人はその場ではにこやかにそうおっしゃってくださった。
うわ神だ。ごめんなさいうちのバカが。
そう内心思いながら頭を下げて県庁へ戻った。

帰庁早々に「職員に希望聞いて!注文書作って!」と頼まれた私は大慌てで粗雑な注文書を回覧して個数を確認した。
個数と日付だけが書かれたメモを握りしめた私はまた電話した。
あのお店の方の笑顔を信じて、申し訳なさ全開で
「あの……先ほどは本当にありがとうございました。それで、例の注文なんですが、⚪︎日に⚪︎個お願いできますか?」と。
その時はにこやかに承諾していただけた。体無くなるぐらい安心した。

しかしその後、弁当屋から電話がかかってきた。

「あのー、ヴィーガン弁当って言ってもねえ、うちにもできることが決まってるんですよ。スポーツの大会用だったらカロリーとかも気にしないといけないし。そういうの考えた方がいいんですか?どこまでやればいいんですか?」

めっちゃキレられてる。
正直そこまで考えてない。私も上司も。

確かに実際食うのはスポーツする一般人だけど、今回注文したのはスポーツすらしない椅子に座ってるだけの能無事務公務員だし、カロリーはそりゃ気にした方がいいけど、でも別に何も考える必要ないか……多分……

と一瞬のうちに勝手に判断した私は「動物性のものを使っていなければこちらはそれ以上は望みません!ごめんなさい……!」と答えた。
人と接することがへたくそすぎて、下手に出るしか能がなかった。

なんとかその実食日を迎えた。
きたのは、大豆ミートと牛乳不使用のパンで作られたハンバーガー。
美味しかった。すごく。見た目も良かったしボリュームもあった。

私はただの試食だと思っていたので普通にお昼ご飯食べようとしてたのに、また思いつきでアホ上司が言った。

「せっかくだからお皿に綺麗に盛り付けて、SNSに使おう。我々はこんなこと考えてるんだぞって見せつけよう。」

お前な。盛り付けって。皿はどこにあんねん。ボロの紙皿しかないわ。
あとこんなきったない物まみれのオフィスで映え写真なんか撮れるか。腹減ったんじゃこっちは。

と思いながらやるしかないので盛り付けた。
汚い背景はオシャレなサッサッて感じのモザイクで隠して、大会マスコットキャラのぬいぐるみで可愛さを演出。なんとかそれなりの画像は撮れた。

それで満足してようやく食べようと思った瞬間。

「せっかくだから担当みんなで記念撮影しよう」

要らん!!!!!!!!!!!
どこに使ううちらの顔つきの写真!!!!!!!!!!
己の見た目が嫌いすぎる私は全力で抵抗したかったけど無理だった。しっかり写ってしまった。見返してブスさに泣いた。ヴィーガンハンバーガー1個にこんなに振り回されると思ってなかった。
へとへとメンタルで食ったヴィーガンバーガーの味は思い出せんけど普通に美味しかった。

「やっぱ何か物足りないね〜(笑)」

と言っていた上司だけは覚えてる。口を慎め。ハンバーガー押さえてるピックお前の顎下から刺してお前の口留めるぞ。

食事を終えてやれやれようやくひと段落。ヴィーガンの恐怖を実感したその時。

「お礼の電話しといて。あと第2弾も考えてもらおう。今度はもっとしっかりしたお弁当を」

は?

お礼の電話、分かる。第2弾。は?
それ、私が頼むワケ……?

ぶっちゃけ、お店に怒られてます私。
そう苦笑いして伝えたけど、無理だった。

その後のことはあんまり覚えていない。

確かちゃんとお礼の電話して、美味しかった旨と、感謝と、そして次もまたお願いしますという注文をして、一連のリピート……。

くたくたになった。
本当に公務員ってなんでもするなと思った。
私には何もできないな、とも思った。
自分がやりたいと願って取り組んでる中でやりたくないことが入って来るのならまだ頑張れるけど、何もしたくないことばかりが重なって自分が誰かにも、自分にさえも嫌われるのは本当に苦しかった。
あの県庁派遣の2年間は地獄でした。

結局大会はコロナでポシャ。あいつら全員ハムにしてやれば良かった。

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