十二夜祭 想い 第五夜
こんばんは
夜です
ふとした会話に
癒やされる事
ありますよね
その人の
あなたを想う気もちが
伝わる言葉
あなたは気が付いていますか
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海の見える喫茶店
店内には
ゆっくり煙草を吹かすマスターと
カウンターに一人
一人だけど一人じゃない
空間を楽しみながら
珈琲を一口…
白波が立つほどに
強い風が吹く中
珈琲の温かさに癒やされる
海を眺めながら
頬杖をついた時
ピアスが指に触れた
傷付くたびに
開けてきたピアス
もうひとつ
開けようか迷っていた
そう言えば誰かが教えてくれた
ピアスを開けるのも
自傷行為なんだよ
と
そんな想いに囚われていると
マスターが
おかわり入れましょうか?
と声をかけてくれた
お願いします
と私はカップを差し出す
こんなに風が強いのは
久しぶりですよ
ここへ来るまで
寒かったでしょう?
ゆっくり暖まって下さいね
ありがとうございます
私はマスターの顔を見ずに
お礼を言った
なんて事のない一言に
私は想いを見透かされた気がした
現実世界に疲れ果て
書き置き1枚で飛び出した
まだ誰も気が付いていないだろう
もう帰るつもりはない
自分を傷付ける人達の中へ
戻るはずがない
もしかしたら
と
何度も期待しては裏切られ
期待しては裏切られ…
それでも
もしかしたら
今度は
と見切りをつけられないでいた
この数年間
私は今度こそ
あの場所から逃げ出すのだ
いや
あんな奴ら
こっちから捨ててやる
やっぱりピアスをあけよう
私が
私を取り戻したご褒美に
小さくてもいい
ダイヤのピアスを買おう
生活は苦しくなるかもしれないけど
ダイヤのピアスを買おう
そして私は前に進もう
もう後ろは振り向かないで
ふと視線を感じ
目を上げると
マスターが私を見ていた
暖かな眼差しで
私を見ていた
私はマスターに微笑み返す
マスターありがとう
私はもう大丈夫
そんな想いをのせて…