〜絶対売らない100枚〜 No.5

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side guitar / 中村としまる

2003年発表の本作は現時点で、私の最も好きなギターソロアルバムである。とは言っても内容としてはギターのフィードバックによるドローン演奏3曲が収録されているだけで、超絶技巧的な何かを期待する人には若干肩透かしな内容にはなってしまうかもしれない。

ノーインプットミキシングボードを駆使したユニークな演奏で知られる中村としまるは、かつて代々木オフサイトで杉本拓や秋山徹次らと「Meeting at Off Site」なる即興演奏のコンサートを主催していた人物である。そこで行われていた彼らの実験の記録は「Meeting at Off Site」(Vol.1〜3まである)というタイトルのCDで聴くことが出来るので、即興演奏もといなんだか訳のわからんものが好きな人は是非手に取ってみることを薦める。

話を戻して、このサイドギターだが、思いっきり砕けた言い方をしてしまうと、音そのものにしろ質感にしろ、個人的にはなんだかとてもキャッチーな音楽に聴こえる。まぁ私はそもそもがこの手の音楽が大好きなので、そりゃあそうなのだが、実験音楽のようにはやはり捉えられない。いわゆるノイズミュージックとはまた別のラディカルさの中に存在するこの小細工なしの直球ど真ん中具合は男前でカッコよさすらある。なので、本作はむしろロックやパンクが好きな人たちにこそ聴いて欲しい。

エレキギターが出せる最も美しい音色のひとつであるフィードバックの特色を最大限に活かしながらも、そこにノーインプットミキシングボードの演奏で培ってきたであろう音響に対する感覚の鋭さが違和感なく結合しており、とにかく音そのものの美しさは筆舌に尽くしがたい。ひとたびオーディオで再生を始めると意識が完全に持っていかれてしまう。徐々に膨れ上がり部屋全体を満たしていくモノトーンなフィードバック音が微細に変化していく様がとてもスリリングなのだ。なので、可能であればイヤホンではなくスピーカーで聴くのが最も良い。

本作は水道橋Ftarriの店舗や通販で容易に入手することが出来る。これを読んでくれた貴方が、本当にギターという楽器を丸ごと愛してやまないのなら、何はなくとも本作を聴いてみるべきだ。

話のついでにはなるが、実は私が最も好きなギターソロ作品はもうひとつあって、それが先に名前が挙がった杉本拓の「Live in Australia」というアルバムなのだ。最上級が2つあるのは自分でもおかしな話だと思うが、ただ単純に1位が複数いてそれは事実なのだからしょうがないのである。このアルバムに関してもまた別の機会にレビューもどきの妄言を書き綴る予定、乞うご期待。



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