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20200904

Phew "Vertigo KO"
CDとレコードの発売日をこんなにも待ち望んだのはいつぶりのことだろうか。CD(国内盤ライナーノーツ付き)とTシャツのセットを何ヶ月か前から予約して発売日に近づくにつれ増えていくPhewのツイートをいいねしまくりながら非常に楽心待ちにしていた日々であった、そして発売日にレコード屋に駆け込むなんてもはや初めてのことじゃなかろうかという気合いの入り様、喜び勇んで足早に帰宅しこれまた久し振りにレコードプレーヤーを開きレコードをそっと開封し針を落とす。この高揚感に満ちた瞬間はそう訪れるものではない。

"The Very Ears Of Morning" 、蒼く幽かに揺らめくエスカレーターに乗って異世界に上昇していく、上昇はどこまでも続く、不安が拡張する、ねえどこまで上っていくの、そこは理想郷かはたまた桃源郷かそれとも地獄なのか。感覚が浮遊していく、わたしの部屋は上昇につれて歪んでいく。音と共に増幅していく不快感にも似た心地好い眩暈。
"The Void"、それは虚ろではないむしろ空間いっぱいの音のうねり、重厚な音の渦の中、わたしはどこにいるのだろう、暗闇の中徐々に聴こえてくる彼女の声は恐ろしい場所への誘いなのだろうか。執拗に繰り返すリフレインに気分が高揚していく。音がずれていくことで自身の存在そのものさえ揺らいでいき段々と気分が悪くなってきたところで急に音が止まる。
”Let's Dance Let's Go"、タイトルの明るさとは裏腹に急に行われる儀式、彼等は火を囲んでまじないを唱えているに違いない、さあ踊ろう、さあ行こう、そこはどこ?恐ろしい世界?わたしたちの望む世界?増幅していく美しい不協和音、それは楽園へ誘うハーモニー。いよいよいまここが揺らいでいく、最高の気分だ。
”The Very Ears Of Dusk"、わたしたちはどうやらたどり着いたらしい、祝福の音楽が鳴る。遠い世紀から届けられる祝福にわたしたちは埋もれていく、天界のやわらかい雲の隙間から光が届く、希望と深い慈愛に満ちた光、声。嗚呼でも次第に遠のいていく光、またわたしたちは連れて行かれてしまう、わたしはそこに留まっていたい。
”All That Vertigo"、すべては眩暈によって見せられていた世界だったのだ、あんなに素晴らしかった時は時計の針が速廻りしてどんどん進んでいく、現実が戻ってくる、わたしたちは所詮恐ろしい絶望の世界にいるのだと云うことを知らしめられる、目の前がぐるぐると回転する、エスカレーターを転げ落ちる様にくだる、夢は終わる。
"Midnight Awakening"、目が覚めるとそこは異世界の様な現実だった、そこは荒廃した世界だった、それが現実なのだった、わたしたちはテクノロジーに於いて強制的に夢を見せられていたのだと分かった、もう誰もいなかった、これが未来の現実なのだった、戦争のあとなのだった、わたしたちは戦争をしていたのだった、荒廃した世界は鮮やかにそれを物語っていたのだった、それは悪夢なんかではなかった。
"Hearts And Flowers"、荒廃した世界にも花は咲きはじめた。世界は続いていく。どんなにひどい世界でも。


「なんてひどい世界、でも生き残ろう」

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