recipe2.大の字で『風を食む』

【不器用な癒しのお品書き。とは？】
毎日自分なりに頑張る私へ、だらりとした癒しはいかがですか。明るく丁寧なひかりの癒しではなく、もっと温度の低い、影の癒しを。どこかのあの子が秘密にしている、ここだけに留めたい癒しを集めました。

本日の不器用さん：昼休みに先輩に迷惑をかけちゃったＲさん

うわぁぁぁぁぁ…やってしまった。

木曜日の19時、PCの前に頭をうずめる。これはしばらく動けないやつ。

なんだかなぁ。私って、本当に不器用だ。

社会人2年目、同期は私含め7人。仲はいいけどやっぱりまだ意識してしまう。
最近、うちの会社でもリモートワークが始まった。
PCが会社から支給され、先日初のリモートワークで接続確認や基本設定を先輩に教わりながらやった。

…そのときもなんだか嫌な予感はしてたんだ。

私は本当に要領が悪い。

PCを設定していたときも同期より大分遅れていて、度々みんなを待たせてしまった。多分、言われたことを瞬時に理解するのが苦手なんだと思う。
言われた瞬間に慌ててしまい、何のことを言われているのか分からなくなる。

おまけに1度つまづくと、そこが気になって視野が異常に狭くなる。
その結果、説明されたことをまた質問してしまうという始末。

私は本当に要領が悪い。
でも、同期に「追いつきたい」し、もっと「頑張りたい」。


もうその一心だった。
遅れを取っていた設定を何とか終わらせようと、昼休みに先輩へ連絡をしてしまった。

焦り、「追いつきたい」、不安、「頑張りたい」
必死すぎて、周りなんて断片すら視界に入っていなかった。
先輩は昼休みにも関わらず、丁寧に対応をしてくれた。本当に優しい方だと思う。
そのおかげで、やっと同期に追いついた。正直安心した。

そんな私に就業時間後、先輩からメッセージが届いた。
「お昼休みには稼働しないでね。1時間はしっかり休んで、そういう決まりだから。」

その瞬間、針の穴くらい狭まっていた視野がバンッと開けた。
「目覚めた」ような感覚だった。

私はやっと、視野が狭まり周りが見えず、自分本位な行動をとっていたことから「目覚めた」のだ。

私は先輩の昼休みを奪ってしまったかもしれない。本当にショックだった。
自分の「頑張りたい」という気持ちは本物だと信じているし、原動力でもある。
でもそれで周りが見えなくなって、先輩に迷惑をかけて…
結局、自分本位じゃん。

頑張りたいのに。
頑張りたいのに、なんでこう頑張りたいが明後日の方向にいくかなぁ。
もっと器用に頑張りたい。
え、器用に頑張るってなに…

その瞬間、なんだか、ぐちゃぐちゃしてきて。
PCの前に顔をうずめた。ね、これはしばらく動けないやつ。

不器用な癒し：大の字で『風を食む』

でも、私は知っている。
落ち込んでいるときに反省すると、悲観のスパイラルにはまってしまう。

こういうときは、気持ちを発散するのが1番なんだ。反省はそれからだ。

おもむろにPCの前から立ち上がり、カーテンを閉めて部屋をありったけ暗くした。
そして、お気に入りのヘッドフォンを取り出す。
スマホの準備も忘れずに。
Spotifyを開き、お気に入りのプレイリストを選択。

1曲目はいつも決まっている…

ヨルシカさんの『風を食む』

「再生」ボタンを押した瞬間、床に倒れこむ。

そして『風を食む』の世界に入りこむ。
大の字で天井を見上げながら、ヘッドフォンから体に音楽が流れ込んでくるのを感じる。

曲の始まりは、
「明日はきっと元気で　悪いことなんてないね.…」

そこから、曲の中の主人公の心情や情景描写を微細に想像する。
主人公に憑依するみたいに『風を食む』の世界に入り込む。

曲の終わりは
「冬籠り　春が先　貴方の歌だけが聞こえる　今、口遊む　貴方だけ　貴方だけ」

寒い冬から春になり、どこかから誰かの口遊む歌が聞こえてきたところで、
私は現実の世界に戻ってくる。曲の主人公から、私になる。

戻ってきても元気になって全力疾走できるわけではないけど、
「ここから前をむく」みたいな。
背中をぐっと支えられているような気分になる。

大丈夫。ここからやろう。

木曜日の19時半。立ち上がってカーテンを開けた。
暮れかかった空が結構きれいだった。

ライター：財前　穂波（zaizen honami）
ぼんやり考えることが好きで、夢見がちです。マイブームは「あの物陰から小人が出てきたら...」と考えること。とりあえずポッキーをあげようと思います。褒められたいタイプです。みなさんが私の文章いいな、って感じてくれたら月まで飛んで喜びます。

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