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水星のタヌキ #6 「電撃キックのマルタン」

マルタン・アップモンドは以下の様な人物である。

何故この様な「もやし」が寮長という重責を担う羽目になったのか……その裏には恐るべき事件があったのだ。

その日、マルタン(1年生)は地球寮の寮友の忘れ物を届けにメカニック科を訪れていた。今にも増してオドオドした彼を、メカニック実習室でエアコン修理してたスペーシアン学生(3年生)が「おいそこのゴミ、ちょっとブレーカー落とせ」とぶっきらぼうに命令したのである。
「経営戦略科」とは言え、ブレーカーぐらいは解る。彼は50Aと書かれたブレーカーを落とし「落としましたよー」と笑顔で答えた。気のいい奴だ。

お分かり頂けただろうか?


彼は経営戦略科だから知らなかったのだが、実習室などの大きな部屋のエアコンは200V駆動。マルタンが落としたブレーカー(50A)は100V系回路。検電機も当てずに「電源が落ちたもの」と誤解したスペーシアン学生は200Vの電撃を喰らい感電した!

アス高に受かる程度に優秀なマルタンは感電時の対応も知っていた。ドロップキックだ(マジ) 
ただ、体が硬いため脚立に登っているスペーシアンの高さまで、机の上から助走しても脚が上がらず……

この様な飛び蹴りになってしまったのである。

さて、メカニック科の皆さんの視点で見てみよう。教室の端でエアコン修理してたスペーシアン上級生(直前にゴミ呼ばわり)を、アーシアン一年生が机を駆け上がり飛び蹴りを食らわせたのだ! ライダーキックを!

教官達は順当に「検電機も使わないアホ」として上級生の査定を下げた。マルタンは「手元にブレーカーあるんだからそっち落とせ」とは言われたが、対応自体は間違って無いので不問である。尚、上級生は感電ショックと4尺脚立からの受け身も取れぬ落下により全治6ヶ月と相なった。

何のことはない、ある意味では工業系では良くある話だ。だが、アーシアンがスペーシアンを蹴り落として全治6ヶ月は様々な憶測、悪意ある伝言ゲーム、アーシアンの希望やら何やらで伝説化して

「電撃キックのマルタン」

という、現実とは些か異なる虚像を作り上げてしまった……ニカ姐が入学する前の、ちょっとした喜劇、運命の歯車の掛け違いであった……この二つ名故に、彼は2年次から地球寮の寮長をやらされているのである。

方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!