ジェネシス_シリアス

リッキー・ブリッジスの憂鬱

ディベロッパー番外編。
今回の主人公は、FBI捜査官のリッキー・ブリッジスです。
さらに、この物語は『ディベロッパージェネシス』へも続く物語になっていますよ。
読んで頂けたら嬉しいです(*´∀`*)ノ

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「やあリッキー。奥さんとはうまくいってるか?」
 サンフランシスコで起こった事件の事後処理を終えて、ワシントンDCのFBI本部に戻って早々、内部報告書製作に追われていた捜査官 リッキー・ブリッジスに、ボスが声をかけてきた。
 しかもこのセリフが出たら出張の合図。例えどれほど返事を変えても逃れることは決して出来ないことを、リッキーは知っている。

「今度は一体どこに出張ですかボス」
 普段なら軽く肩をすくめる事が了解の合図だ。
 だが、事件以来、事情聴取に報告書作成、さらには世界をまたにかけた最悪の犯罪組織、秘密結社ブラウザーに内通していたサンフランシスコ市警及びFBI、政治家、権力者などを、市警の刑事の協力で入手したデータから割り出し、捜査本部を立ち上げるなど、まさに忙殺という言葉がピッタリの状況に、さすがのリッキーも声に刺が出てしまう。

「いや、出張ではない」
「は?」
「出向してもらいたいのだ」

 詳しい話をするから一区切りついたら私のオフィスに来てくれと、ボスはリッキーに告げると、ついでのように他の部下をどやしつけながらオフィスに戻っていった。

 出向? つまり左遷という事だろうか。

 確かに今回の件では、我ながら独断専行が過ぎた自覚はある。
 しかし、それは局の内部にブラウザーの内通者がいる可能性を考えてのことだったし、そもそも、自分の説明を信じなかったのは局上層部の連中だ。
 まぁいい。取り敢えずこの書類を片付けたらボスのオフィスに行くとしよう。その上で話次第ではストレス発散も兼ねて思いっきり噛み付いてやる。

 リッキーはそんな決心を固めると、再びPCに向き直った。

「さて、出向の件なのだが」
 オフィスを訪ねたリッキーに、なんの前置きもなくボスは言った。
 リッキーは助けを求めるようにボスの右腕であるジェーン・ライアンに目を向けたが、彼女は人形のようにボスの横に立っているだけだ。
「待ってください。私は一体どんな理由で出向させられるんですか」
「2002年以降、様々な凶悪犯罪やテロ組織が国内外に現れているのは君も知っているな」
 リッキーは頷く。
 2002年以降、大小様々な犯罪集団やテロ組織が雨後の筍のように現れた。
 一般市民や政府を脅かす凶悪な犯罪が後を絶たず、これはアメリカだけでなく世界的な問題になっているのだ。中には科学を駆使した協力な武器や、超能力。あげくモンスターや魔法を使う者など、既存の警察組織では対処出来ない連中の存在も報告されている。そして、その極めつけが今回の事件の主犯、ドクター・プロトコル率いる秘密結社、ブラウザーだ。

 まだ公にはされていないが、彼は言葉巧みにカリフォルニアの政治家、ギャング、大企業の経営者を取り込み、米国のみならず世界中にその根を広げていた。

「その数は年々増え、強力な武器やおかしな能力を使う者も現れ、もはや警察組織だけだけでは対応しきれないのが現状だ。
 この問題に対し、国連加盟国はこれらの犯罪組織に対抗出来うる能力を持つ民間人の協力を求め、ある組織を立ち上げた。
『International Border Association』通称IBAだ」

「ちょっと待ってくださいボス。分からない事が多すぎる。まずその民間人の起用ってのはなんです? それにボーダーというのも……」
 そのまま永遠に話し続けそうな上司を、リッキーは慌てて止めた。

「ボーダーとは『境界』、この場合、境を超えた者という意味です。国家組織と民間の垣根を超え、人知の及ばぬ異能の犯罪者を我々と協力して取り締まる存在を指します。そして、その対象となる犯罪者はボーダーと区別するため、ゾイドと呼ぶことに決まりました」
 ボスの横で無表情のまま立っていたジェーン・ライアンが、ボスに変わり無表情のまま説明をした。

「ゾイド……はみ出し者か」
「そうです。彼らは国家の枠を超え世界中で凶悪な犯罪を起こす、いわば国家や世界のシステムから『はみ出した』者たちですから」
 言われてみれば納得のネーミングではある。だが、その話と自分が呼び出された理由が繋がらない。いや、既にボスの言わんとしていることは予測がついているが、そんな面倒な事に巻き込まれるのは冗談ではないという気持ちが、脳の理解を拒否しているのだ。

「すでに我が国では各州各都市で、独自に悪から市民を守る民間人は存在し、そのうち数名はスカウト済みだ。しかし政治家や政府組織の中には民間人の起用に対し抵抗を持つ者も多く、組織としての立ち上げが遅れてしまったのだ。
だが、今回のサンフランシスコの事件を受けて、反対派も組織の立ち上げを認めざる負えなくなってな」
 ボスは、とても連邦警察の幹部とは思えない邪悪な笑みを浮かべる。その『組織』とやらの件で随分と苦い思いをしたのだろう。

「組織名は『National Border Association』通称NBA。どこかで聞いたような名前ですが、どうぞ気になさらずに。組織としての仕事内容は登録ボーダーのサポートと管理、他国及び米国政府機関との情報共有と連携、ゾイドの逮捕及びゾイド組織の殲滅です」
 ジェーンが補足説明。相変わらず無表情のままだが。

「登録? そのボーダーってのは組織に属するんじゃないのか」
「ええ、ボーダーはその能力の国家利用を避けるため、あくまでフリーランスとして登録。NBAの依頼を受けてミッションをこなす形式を取ることになりました」
 確かに。使い方よっては兵器利用や他国へのスパイも容易に行える異能力を持つ者もいるかもしれない。上手く使えば『国益』の為に悪用を考える人間も出るだろう。
 そうした、国同士のイザコザからボーダーを守るためにあえて組織に取り込まない方針なのだとリッキーは理解した。

「そして、このNBA初代長官として……」
「お断りします」
 ボスの言葉を遮るように、リッキーは言った。
「まだ何も言っとらん」
「聞くまでもありません。私をそのバスケット協会みたいな組織に出向させようというんでしょう」
「さすがリックだ。察しがいいな。しかも初代長官としての出向だ。栄転だぞ」
「冗談じゃない! 私はサンフランシスコから戻って以来一度も、家にも帰っていないし妻の顔も見ていないんですよ! それなのに今度は新組織を立ち上げろだなんて!」
 溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうと声を荒げるリッキーに割り込むように、ジェーンが「ご心配なく」と言葉を挟んだ。
「新組織の初代長官就任のご報告をしたところ、奥様は大変喜んでおられましたよ」
「は? 私より先に妻に話したというのか?」
「私とクロエはお友達ですから」
 ジェーンはリッキーの妻の名を口にする。
「あなたがサンフランシスコで好き勝手している時に、そのフォローと情報操作、さらにクロエと一緒にお茶を飲んで愚痴を聞いたり、ショッピングや映画、お芝居、休日には私の家族とバーベキューもしました。奥様をほったらかして世界を飛び回っているあなたのフォローをして、離婚の危機を防いでいたのは私ですよ、リック」
 そう言うジェーンの顔に初めて表情が浮かぶ。勝ち誇ったような笑顔にリッキーは思わず口ごもる。

「新組織立ち上げの鋭気を養うためにも、一週間ほど休暇をやろう。クロエと一緒にバカンスに行ってくるといい」
 たまには妻孝行せんとなと、ボスは邪悪な笑みを浮かべた。
「しかし……」
「それになリック。この話を受けてくれれば、素晴らしい特典がつくのだ」
 尚も抵抗を続けようとするリッキーに、ボスは止めの一言を放つ。
「君がサンフランシスコで行ってきた独断捜査や公私混同の数々に対する責任は、不問とする」
 チェックメイト。目の前の二人の方が一枚も二枚も上手だったと、リッキーは抵抗を諦めた。
「分かりました。その話を受けしょう。ただし……」
 組織立ち上げの条件にリッキーが上げたのは、共にサンフランシスコで戦った二人の刑事と、女忍者の起用だった。

おわり

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