ディベロッパー表紙

ディベロッパー 7

リレー小説企画『ディベロッパー 復讐者』の第7弾書きましたー!(*´∀`*)

ディベロッパー6(ユキノフさん)→https://note.mu/yukirnoff/n/n1143481b9510

お誘いですよ。(企画へのお誘いとルール)
https://note.mu/purasu/n/n6fe82cd24082

目次(過去ログ・参加作品はこちらから)
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ディベロッパー 登場キャラクタ(キャラクター説明)https://note.mu/purasu/n/n15dd6fabeaba

マガジン(全参加作品が収納されてます。)https://note.mu/purasu/m/m11133cae80d6


 サンフランシスコ全土を牛耳るギャング、カルデローニ・ファミリーのドン、ブルーノ・カルデローニ暗殺から1週間、その主犯にして今はファミリーの新たなボスとなったマルコ・アゲロは、生前ブルーノが使っていた椅子に座り、一人考えていた。

 ― 果たしてこれで良かったのか ―

 あの日から1週間、この思いがずっと頭から離れない。

 頭にこびりついた思いを振り払うように、マルコはディスクの上のワインボトルを掴みガブガブと飲み下す。
 生前ワイン好きのカルデローニが命の次に大切にしていた『ブルネロ・ディ・モンタルチーノのビオンディ・サンティ・レセルバ1891年』
 1万5000ドルで購入したらしいが、今ならさらに価値が上がっているだろう。

 ディスクの下には、それ以外にもカルデローニ秘蔵の高級なワインのビンが何本も転がっている。1週間で全てマルコが飲み干した。
 味など分からない。もっと言えばマルコはワイン自体美味いと思った事など一度もなかった。

 イタリア系とはいえ、サンフランシスコ生まれのサンフランシスコ育ち。
 ワインよりビール、高級なイタリアンレストランで出される堅苦しいコース料理より道端で売っている1本2~3ドルのホットドックの方がよほど口に合う。

 カルデローニはそんなマルコを貧乏舌と言って笑ったが、マルコに言わせれば堅苦しいイタリア料理や高級ワインを喜ぶカルデローニの方がよほど貧乏臭い。メシや酒など、腹に入れば結局一緒なのだ。
 現にこのバカみたいな値段のワインだって、美味くもなんともないし、いくら飲んでも酔うことすら出来やしない。

君は一生、カルデローニに飼われているつもりかね?

 不意に、自らをドクターと名乗るインチキ臭い男の声が脳裏に蘇る。
 ニヤついた口元、三流マジシャンのような服装や髪型、爬虫類のような温度を感じさせない瞳。
 マルコはアルコールに浸かり朦朧とした頭で、ドクター・プロトコルとの初めて出会ったあの日を思い出していた。

「マルコ、ついてこい」
 カルデローニは突然そう言うと、返事も聞かずにエントランスに向かう。
 いつもの事とは言え、マルコは少々うんざりしながらドンの後に続いた。
 ファミリーはいつだってカルデローニの王国で、彼を中心に回っている。
 いくらキャリアを重ね結果を出したところで、王の前でマルコはいつまでもゴロツキのガキのままなのだ。

「これからどこに向かうんですドン」
「パーティーだ」
 車中でのマルコの質問に、カルデローニは気乗りのしない声で答えた。
「パーティー?」
 思わずオウム返しに聞き返してしまう。
 マルコが知る限り、今日はパーティーの予定など入っていなかったはずだ。
「ふん。アントニーに頼まれてな。どうしても合わせたい男がいるらしい」
 アントニーとは、現サンフランシスコ市長、アントニー・ジョーンズの事だ。
 立場上、ファミリーとは敵対の姿勢を見せている市長だが、裏ではファミリーと繋がっている。というか、彼が市長の座につけたのはファミリーの力添えあればこそだ。
 その見返りとして市長は、裏でファミリーに対してあらゆる協力を惜しまないし、今後も良好な関係を保つために、カルデローニも市長の頼みを無下には断れないのだろう。

 パーティー会場はサンフランシスコで一番の高級ホテル最上階だった。
 会場を見渡せば、政治家や有名企業のトップが顔を揃えている。
 目ざとくカルデローニの姿を見つけた市長が擦り寄ってきたので、マルコはその場から少し離れた壁際に移動し、会場の様子を眺める。
 会場にいる連中は誰も見知った(つまりファミリーと繋がりのある)顔ばかりで、警備の連中も半分は知り合いだ。見ればカルデローニと腹違いの弟で『D&T』CEOの、ダン・マッケンジーの姿もある。
 このメンバーならドンに危害を加えられる心配もなさそうだと、マルコは息を抜いた。

 あとは王様のお供として、この退屈な時間をどうやって潰すか。
 そんな事を考えていたマルコの目に、その異物は突如飛び込んできた
 ポマードで固めたようなオールバックの髪にタキシード姿、片眼鏡に細い口ヒゲと顎ヒゲのつながった、一人だけ時代を間違えたようなその姿に、マルコだけでなく来客たちの視線も集中している。

 余興のマジシャンかと思ったが、何故だかマルコはその奇妙な男から目が離せない。それは他の客たちも同じらしく、全員の視線がその男の動向を追っていた。
 男を見つけた市長が慌てて駆け寄り何やら話しかけたあと、2人は中央に設えてあるステージに上がると、市長が集まったゲストに向かいスピーチを始めた。

「お忙しい中、私の急な呼びかけに応じてお集まりいただき感謝いたします。本日ご多忙な皆様にお集まり頂いたのは、私の隣にいる『友人』をご紹介する為であります」

 市長の長ったらしい話を要約すると、あのインチキ臭い男の名はドクター・プロトコル。世界的に名の通った研究者でありながら実業家でもあるらしい。
 ひとしきり紹介を終えた市長は、マイクをプロトコルに渡す。

「お集まりの皆さん、ご機嫌よう。
 親愛なるサンフランシスコ市長 アントニーの『友人』ドクター・プロトコルです。
 アントニーの紹介通り、私はある研究プロジェクトを任される研究者であり、その研究の成果を活かした事業にも着手しております」

 サンフランシスコだけでなく、アメリカ全土にも名の知れた面々を前に、自らをドクターと名乗る男は一切萎縮することなく堂々と自己紹介を始めた。
 彼の手がける事業とは、セキュリティー機器や武器の売買、またボディーガードや戦闘に特化した人材派遣らしい。要するに『死の商人』というやつだ。
 研究内容については、残念ながら話すことが出来ないと言うが、『研究の成果を活かした事業』が死の商人ならば、研究内容もおおよそは想像がつく。

「私が顧問を務める会社『ブラウザー』の顧客は、現在アジア・中東がメインですが、おそらくは表から裏まで、此処にお集まりの皆様のお役に立てるのではないかと思っております。これを機会にどうかお見知りおきを」

 挨拶を終えると、ドクターは芝居がかった仕草で一礼してステージを降り、市長のエスコートで有力者たちと挨拶を交わしていく。
 何のことはない。要するにただの売り込みじゃないか。あのインチキ手品師のような格好も、自分を印象づけるためのパフォーマンスなんだろうとマルコは納得した。

 ひとしきり挨拶を終えたドクターは、次の予定があるとかでマルコの近くにある会場のドアに向かってくる。
 その様子をぼんやり眺めていたマルコに突然ドクターが顔を向け、まっすぐに歩いてきた。

「貴方とはご挨拶がまだでしたな」
 正面に立ち、そう話しかけてきたドクターにたじろぎながら、「いや、俺は……」と、自分がただのボディーガードである事を告げようとするマルコの言葉を制するように、
「カルデローニファミリーのマルコ・アゲロ君」
と名前を呼んだ。

「……何故、俺の名前を?」
 出会った覚えのない男にいきなり名前を呼ばれ、マルコは警戒しながら尋ねる。
「もちろん知っているとも。君がサンフランシスコを牛耳るドン・カルデローニ氏の右腕であることも」
 と、片眼鏡の男はすっと顔を近づけ、耳打ちするような小声で、しかしハッキリと断言した。
「君が、カルデローニ氏に不満を抱いていることもね」
 マルコの身体がピクリと動く。

君は一生、カルデローニに飼われているつもりかね?
「一体何の話を……」
 マルコの言葉をプロトコルは「私なら」と遮る。

「きっと君の力になれるだろう」

 そう言って自分の名刺を押し付けるようにマルコに渡すと、ドクター・プロトコルは悠々とパーティー会場を後にしたのだった。

「ドン、ドン・アゲロ」
 部下のイワンに揺り起こされて、マルコは目を覚ました。
 どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「…なんだ」
「市長との会合の時間です」
「もう、そんな時間か」
 マルコは、重い身体を持ち上げる。
「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
「ああ、大丈夫だ。支度するからエントランスに車を回しておけ」
 そう伝えると、マルコは洗面所に向かう。

 洗面台の蛇口から盛大に冷水を流し音を立てて顔を洗うと、幾分頭がスッキリする。
 手探りでタオルを掴んで顔を拭いてから鏡を見ると、そこにはやつれ果てた顔があった。
「ひでぇ顔だ……」
 マルコは鏡に映った自分の顔に自嘲するように独りごちた。

 表向き、カルデローニは急病で療養中ということになっている。
 マルコが自らの手でドンを絞殺したあの日、カルデローニを慕う幹部や仲間たちは全員、プロトコルの兵隊の手でこの世から姿を消した。
 ひと月ほどしたら、カルデローニ『病死』とマルコがファミリーを引き継いだというニュースが、サンフランシスコ全土に流れるだろう。
 マルコは、ついに長年の野望を叶えたのだ。

 『長年』の野望?

 マルコは、不意に強烈な違和感を覚えた。
 一体、自分は『いつから』そんな野望を抱いていたのか。
 高級なワインも、堅苦しいイタリア料理も、退屈なパーティーも嫌いなハズの自分が、一体いつ、ドンを殺してまで、玉座に就きたいなどと思ったのか。

 そもそも、俺は、殺したいほど、ドン・カルデローニを、憎んでいたか?

 もちろん、カルデローニに対して不満を抱いたことは何度もある。だが、殺してやりたいほど彼を憎んだことがあっただろうか。

 違和感に気付いた途端、湧き上がる焦燥感と不安に、体中の力が抜けていくのをマルコは感じた。

 一体いつから俺は、ただの悪ガキだった自分を拾い育ててくれた恩人を殺してまで、ギャングのボスになりたいなどと思った?

 いつ? いつ? いつ? いつ? いつ? いつ? いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ?いつ……

「……違う…」

 記憶をいくら遡ってもマルコには、カルデローニに成り代わりたいと思った記憶が見つからない。

 あの日、パーティーの会場でドクター・プロトコルに声をかけられるまで、マルコは、そんな野望など一度も考えたことすらなかった。
 カルデローニの弟ダンも、長い間自分を支援し一人前のビジネスマンに育ててくれた年の離れた兄を、心の底から慕っていたはずだ。
 少なくとも、あのパーティーの日までは。

「全部、あいつに仕組まれていたのか……?」
 パーティーの日から、何度かドクター・プロトコルと会って話をした。無論、カルデローニには内緒で。
 そして、その度にカルデローニへの殺意が高まっていったのだ。
 それは恐らく自分だけではなかったのだろう。
 あの日、あのパーティーに来ていた全員が。
 いや、あの男を招いた市長すらも。
 みんなあの男、ドクター・プロトコルに操られ、彼の掌の上で踊らされていたのだ。

 サンフランシスコ全土を舞台裏から牛耳っていた王はもういない。
 そして、彼の王国は今や、三流手品師のようなあの男の掌の上にある。
 愚かな弟や従者、権力者たちは、まんまとあの男の口車に乗せられ、王を殺し、王国をあの男に献上してしまったのだ。

あ、あ。

   あ、ああ

ぁぁあ ぁぁあぁ
      ぁぁアァぁぁぁアああァァァ
  ァァァァァァぁぁぁ

ぁ………」

 真実に気づいてしまったマルコの口から、弱々しい、吐息のような小さな叫び声が漏れ出た。

 サンフランシスコの隣、サクラメントの外れにある安ホテルの一室でカルデローニ・ファミリー幹部、マルコ・アゲロの遺体が発見されたのは、それから3日後のことだった。
 状況から他殺ではないかとの疑いもあったが、検死の結果、拳銃で頭を打ち抜いての自殺との結論に至った。
 他殺の疑いが出たのは、その特殊な状況ゆえだ。
 ホテルで頭を打ち抜いて死んでいたマルコの左腕には、果物ナイフで深々と切り刻んだ文字のような傷があった。
 そんな状況から、敵対組織による見せしめではないかという説が上がったものの、傷口やナイフの角度から、傷はマルコが自殺の前に自分でつけたモノであることが証明されたのだ。

 彼の左腕にナイフで掘られた文字は、「Dr Protocol
 検視官によれば、その傷は骨に達するほどの深さだったという。

つづく

はい、ここまでー!

続きは誰かよろしくお願いしまーす!

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