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蔵書紹介:『人形劇運動』(1943、園池公功 他監修)

人形劇運動
園池公功 他監修 中川書房 1943


 太平洋戦争の泥沼の時代、「国策人形劇」といわれるプロパガンダ人形劇があった、というかそれしかできない時代の出版物。国策だから予算も統制されていた紙の手当てもあり、それなりの人形劇出版物があるも、この表紙ほどにその趣旨を明快に表現しているのは他にない。
 デザインは伊藤熹朔で、人によってはどこか反戦的な意図を見出すかもしれないけれど、当時の戦争画には同様に見えるような絵もあったりするので、その時代が狂気の精神性を根底に持っていたとすれば、意外と狂気の中の当たり前なのかもしれない。そこを別にすれば、シンプルで明快に意図を示した優れたデザインなのではないか。

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 全312頁に、まず「これからの日本文化」といった精神論から始まり、16人の書き手が「人形劇の歴史」から「人形劇の特質」といった座学的なもの、そして工場や農村、学校、家庭での人形劇というハウツー的なものまで幅広いが、まとまっているとは言えない内容で、表紙のインパクトが最大の価値といえるかも。
 それは現代人形劇が誕生してまだ15年程度の歴史でまだ成熟もしていない状況であることも要因だろう。
 こうした官製文化が強制を前提にしているなら自由に発展することはないから、もともと誰もそんなことを望むべくもなく、ただ国策という掛け声だけに正当性を見出した「運動」であった。
 ただ、戦後という時代になって、押し付けられたはずの人形劇が戦後高揚期といえるほどに展開するのは、反動だけではなく人形劇だからこその自由な表現を見出す要素があったからに他ならない。

監修のひとりでもある、伊藤熹朔(舞台美術家)は実弟の千田是也(俳優・演出家)たちと、モダニズムの流れの中で1923年に日本で最初の「現代人形劇」を創り出したひとり。



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