足が呼吸している
能の摺足(すりあし)好きなんだ。
摺足をしていると、静かな時間が流れるから。
明け方の、森の匂いがする気がする。
「爪先が上がるけど、爪先を上げるんじゃないんです」って
先生が教えてくださった。
先生のおっしゃる場所を使うと、足袋にシワがビッてよらなくなる。
(どこかは先生にお尋ねください)
はじめて摺足を教わった時、
爪先が上がる瞬間が、
魚がパクッて餌をふくむ瞬間みたいだなって思ったんだ。
それか、水面にプクッて気泡が浮かぶ瞬間みたい。
今日はね、
爪先が上がる瞬間、足底にできた隙間から
ふわって美味しい空気が入ってくる気がした。
摺足をするごとに、身体が新鮮な空気で満たされるんだ。
足が呼吸していた。
今日の摺足の時は、
口でもなく、鼻でもなく
私の足が呼吸していた。
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