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Polaroid SX-70


600フィルム

 今年で東京を去ることが決まった。本音はまだ戻りたくはない。ただ、あらゆる出来事に田舎へ戻るよう諭すシナリオが存在しているかのようだった。こういう場合は、身を委ねるしか無いことも。
 じゃあ、東京スナップの締めくくりだなとふと思いついた。田舎とは言っても静岡なので、いつでも来ることは容易だ。ただ、生活者の視点で東京を撮るというのはこれがラストステージ。どの写真機で撮ろうかあれこれ考えていたある日、仕事で富士フィルムのinstaxを使う機会があった。撮影した像がゆっくりと浮かび上がってくるのを見て、写真を始めた原体験に触れた気がした。デジタルカメラの作り出す高解像な写真が日常になってしまっていたが、人の心に浮かぶイメージは、インスタント写真に似ているなと思った。ぼんやりと浮かんでは消えてゆく、泡沫のようなもの。
 これまで調べたこともなかったインスタントフィルム機を夢中で検索した。さして数がある訳でもなく、これまで使ってきた写真機からしたらボディもお手頃なお値段。富士フィルムのinstaxのスクエア機とワイド機、そしてポラロイドの中古のSX-70を取り寄せ使ってみた。きっちり撮れるのはinstaxだが、プリント用紙の質感、トーンの出方は圧倒的にポラロイドが好みだ。この時使用したSX-70は600フィルム対応にカスタムされたものだった。この場合、ピーカンの日のスナップだと露出オーバーになってしまうシチュエーションがあることが撮った写真から分かった。なにせシャッタースピード上限が1/180までしか無いのだから。そこで、スペア機として70↔︎600感度切り替えにカスタムしたもう一台のSX-70を用意することとなった。そして、そこにセットした70フィルム(カラー)で撮った写真が実にトーンの深みがあって驚きだった。
 インスタントフィルムは、ポジフィルムよりもシビアだ。ポジフィルムはいざとなったら増感現像&減感現像で凌ぐこともできるから。ネガフィルムに至ってはプリントの段階でかなりの調整ができるし。デジタルはさらにレタッチ耐性と、撮影時の自由度が段違い。だからこそ、インスタントフィルムの潔さで東京生活残りの日々を撮り切ろうと、そう思った。

70フィルム

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