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女1人北インドの記録 ⑥バラナシでバングラッシーを飲みすぎる

バラナシ名物バングラッシーにアルコールを合わせるとどうなるでしょう!の話

バラナシ

インド滞在も折り返し地点に来る頃、私はバラナシにいた。

バラナシではいつも、現地で暮らすLuckyとDanni、私と同じく観光客で普段はスペインの離島で小さなホテルを経営しているCarolと一緒に過ごしていた。

この街にはLuckyやDanniのように観光客にガイドをしながら土産物屋に連れて行き、店の売り上げからいくらかマージンをもらう事を生業にする青年がたくさんいる。

その中でもLuckyは英語はもちろん日本語も話せて、他のバラナシを訪れた日本人のブログを読んでいても時々登場するちょっとした有名人だ。
学校教育を受けていないため字の読み書きは苦手だが、バラナシに多く訪れる日本人観光客と話しているうちに自然と日本語を身に付けたらしい。

ちなみにLuckyというのは芸名?で、本名は聞いたけれど長くて複雑なLから始まる名前だったので忘れた。

Lucky達は初めのうちこそ私を土産物屋に連れて行こうとしていたが、私が滞在中なーんにも買わないので次第にただ一緒に歩いてバラナシ中を案内してくれるようになった。

私と1日中ブラブラ歩いたって彼らは全く儲からないが、不思議なことに毎日あれこれと世話を焼いてくれた。
どこでも顔のきく現地の若者と一緒にいることで、騙されたりぼったくられたりせず、私としても助かった。

毎朝、Luckyは私が泊まっているゲストハウスの前のガート(ガンジス川沿いの階段)に座っていて、私を見つけると「ハロウ!フレンド」と追いかけて来る。

私たちは特に何をするでもなく、タリーを食べ、チャイを飲んで、ガンジス川沿いの死体焼却場を眺め、夜は4人でDanniのアパートに集まってインスタントのビリヤニを食べながらインド映画を観た。

バングラッシー

バラナシに来て3日目か4日目の昼過ぎ、DanniとCarolは別のところにいて、私とLuckyはダシャーシュワメード・ガートという大きなガートに座って沐浴をする人や大麻を吸うサドゥーを眺めていた。

「きょうは、なにする」とLuckyが日本語で聞くので私はちょっと考えて言ってみた。
「 I wanna try bhang lassi 」

バングラッシーが一体何なのかはここでは書くのを控えるが、Luckyは「No! バングラッシーは危険」と珍しく声を荒げた。

「君が飲むようなものじゃ無い」
「飲みたい。絶対飲む。飲ませてくれないならもう会わない」

ちょっと脅してみたら「もう知らない…おれは言ったからな…」とブツブツ言いながらも細い道を奥に奥に進んだところにあるバングショップまで連れて行ってくれた。

思っていたより普通のお店だ。
おじちゃんが立つカウンターの手前の壺には深緑色でねちょねちょのバングがたくさん入っていて、お好みの量をラッシーに混ぜてくれるらしい。

初心者におすすめの量よりちょっと多めを混ぜてもらった。

なかなか気持ち悪い見た目で一瞬戸惑う。
恐る恐る飲んでみると、意外と甘みと酸味、バングの香りのバランスが良くて美味しい。
1杯100円くらい。ぐいっと飲んだ。

効かない

しばらくの間何も起こらなかった。
バングを胃から摂取しようとしても消化に時間がかかるため、肺からに比べて効き始めるのはとてもゆっくりになる。
そのことは知っていたのでどこかで安静にして効いてくるのを待つべきだったが、油断していた。

何も起こらないじゃん。
楽しみにしていたバングが期待外れだったと思った私は、そのままLuckyとバラナシのメインストリートを北上して、あろうことか昼間からバーに入ってしまった。

効いた

今なら分かる。バングとアルコールの相性はどう考えても良くない。
バング製品に慣れている現地の人ならまだしも、いくらお酒に強いとはいえ日本人の私がこの2つを飲み合わせるべきではなかった。

そうとも知らず、バーで私は
「バングラッシー、全然大したことなかったわ!」とウィスキーをロックで飲み進めた。

それからほんの数分後だ。突然ガクン!と酔いがきた。アルコールの酔いに似ているがもっとだるくて寒い感じだ。
Luckyに「ちょ、トイレ」と言ってダッシュで個室に入り、吐こうとしたが何も出ない。

バングを体内から出すのは諦めて流しで手を洗っていると、ふと前にかかった鏡が気になった。
ちょうど奥の席にLuckyが座っていて店員と喋っているのが鏡には映っている。しかし、鏡と彼の席との距離に対して異常に彼らの像が大きくはっきり見える。
遠近法がおかしくなって、遠くのものがすぐ近くにいるように見えるのだ。

さらに、声がそんなに届いてくるような距離ではないはずなのに、2人が話すヒンディー語の言葉の単語一つ一つがハッキリ聴こえる。

席に戻ろうと振り返ると視界が揺れ始めた。王家衛の「恋する惑星」という映画があるが、あの冒頭のブレブレのカメラワークにそっくりな揺れ方だった。

お〜効いてきた、と思うと同時に、酔い方が気持ち悪すぎてこの時間が早く終わって欲しいと願った。

飛んだ

気持ち悪いからもう帰る、という私にLuckyは「だから言ったじゃん」と言いながらも一緒に店を出てくれた。

薄暗くなってきた街に出ると、リキシャの黄色に緑、道行く人のサリーの赤やピンクと店先の灯りがどぎつい色になっていた。視界にあるもの全ての彩度が300%くらいになって、それぞれの色が形と分離してふわふわ浮かんでいるように見える。
それらはゆっくり渦を巻いて歩く私を襲ってきた。

一応足元の砂っぽい色がモヤモヤしているところが道路と分かるので何とか足をつけて歩くけれども、赤黄ピンク緑青紫の色の波がグチャグチャに混ざり合って末期のルイス・ウェインの絵のように踊り、リキシャのエンジン音と店先で呼び込む声が脳内を共鳴する。

ドロドロに溶けた世界の端、遠くから「だから言っただよバカやろう」とLuckyの声がしていた気がする。私がリキシャに轢かれたりしないようにゲストハウスに着くまで見ていてくれたらしい。感謝。

宿に着いて即ベッドに横になっても、今歩いてきた極彩色の道のリアルな幻覚が天井にホログラムみたいに浮かんでは私に向かって飛んでくる。

しばらくの間消えない幻覚から身を守ろうと手で空中を払っていたが(側から見たらかなりヤバい)、そのうちに腕も疲れて、いつのまにか眠っていた。

幻覚と戦いながら一瞬、もしかすると死ぬかな?と思ったが、そのまま17時間くらいぶっ続けで寝たら次の日の昼すぎには何事もなかったように元気になった。

バングは真面目に飲むべき

次の日昼過ぎにゲストハウスを出ると、Luckyはやはりいつものガートに座って私を待っていた。
「ハロウ、フレンド。もうバング飲むな!」

バングは適量楽しめば良いものだと思う。バラナシの文化に根付いた神聖なものだしこの街には必要だ。
観光客の私は興味本位に試して痛い目に遭った。
次回がもしあるなら、用法容量を守って適切に楽しみ、ガートに座って悟りでも開きたい。

追記:その後の経験より、この時飲んだバングラッシーは純粋に大麻だけじゃなく他の何かも入ってたっぽいことが分かった。危険!

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