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演技と驚き◇Wonder of Acting #21

タイトル画像:申師任堂「草蟲圖」
演技を記憶、するマガジン [september 2021]

00.今月の作品役名演者インデックス

『女殺油地獄』竹本織太夫/『お帰りモネ』神野マリアンナ莉子:今田美桜/『EMMA/エマ』エマ:アニャ・テイラー=ジョイ/『銀魂』志村妙:長澤まさみ/『うみべの女の子』うみべの女の子:高崎かなみ/演者と観客/ 『できちゃった結婚』小谷チヨ:広末涼子/『おかえりモネ』及川亮:永瀬廉/『空白』青柳直人:松坂桃李/『子供はわかってあげない』朔田美波:上白石萌歌/『近松心中物語』お亀:小池栄子/『東海道四谷怪談』お岩・お花:坂東玉三郎

01.今月の演技をめぐる言葉

ー メインコンテンツです。毎月、編集人が見つけた、演技に触れた驚きを引用・記録しています。※引用先に画像がある場合、本文のみを引用し、リンクを張っています(ポスター・公式サイトトップ・書影などは除く)。

ひぞっこ @musicapiccolino 元ツイート>
#おかえりモネ【ギリギリの寸止め演技】何度も 何度も まばたきを多く繰り返すことで、溢れ出てくる涙が モネの目の前で こぼれないよう “寸止め”する 今田美桜さんの演技が 良かったな。莉子の負けず嫌いな性格が よく表れていた。
walk in cinema @walk_in_cinema 元ツイート>
『EMMA/エマ』にて、アニャ・テイラー=ジョイ演じるエマが鼻血を流すシーンの撮影風景。
なんと!鼻血はアニャの本物の血で、昔からよく鼻血が出る子供だったらしいですが、撮影時も本物の血を出すことに成功したようです。当然偽物の血を使う予定だったらしく、監督・共演者らも動揺しています。
O.K.B @Atsxob 元ツイート>
映画を観てるとほんの数秒で作品を支配するような演者が現れるけど、うみべの女の子の高崎かなみさんはまさにそれだった。
Bellissima @BellissM 元ツイート>
どこであろうと演者と観客がいればそこは劇場
オニギリジョー @Toshi626262y 元ツイート>
ー 特に松坂桃李という役者には改めて圧倒された。この人の演技は所謂演技なのだろうか?ここ10年で最も重要な役者なんじゃないかな。キャリアでは上の役者陣の中でコレは…脱帽です。
ラプコ @andy055183 元ツイート>
「子供はわかってあげない」愛しい目線(長回し)の中で生き生きしている上白石萌歌の素晴らしさ。目を閉じれば浮かんでくる…〝どこか懐かしい夏〟をずっと観ていたかった。細田佳央太、千葉雄大、豊川悦司、古舘寛治、斉藤由貴。素敵な俳優の好演が光る。パークスさんラストに滑り込み。幸せな138分

引用させていただいた皆さんありがとうございます †

02.雲水さんの今様歌舞伎旅(ときどき寄り道) 第十一回:人間としてのお岩、そして四谷怪談。~箕山 雲水

「お岩様は自分の意思で化けて出るんじゃないんだ!」

 いつも心の中でそう叫んでいた。もちろん、お岩様といえば『東海道四谷怪談』、鶴屋南北の有名な歌舞伎である。『仮名手本忠臣蔵』の外伝として描かれた作品で、初演時には両作品が同時にかかったといわれる。それが今月、38年ぶりに片岡仁左衛門丈と坂東玉三郎丈のコンビで上演された。大南北×仁左衛門丈・玉三郎丈のコンビでひさしぶりの再演とあって、『桜姫東文章』に続いて連日大入り満員の人気ぶりである。なんとかかんとかチケットを手に入れて、二階の最後列に滑りこんだ。

▶︎あらすじは長くなるため、公演ページへのリンクを貼らせていただく。

幕があく。そうはいっても四谷怪談、もう何度も見たのだしと思ったのは束の間、まずその「色のない世界」に静かに脳天をぶん殴られる。目に入ってくる色がほとんど白黒に近い彩度の低さであるだけでなく、芝居そのものも色がない。とにかく静かなのだ。誰かの記憶の世界に放り込まれたかのように全体が色褪せている。四谷怪談は、他の大南北の作品にくらべて彩度の高い場面はあまりない。ことに今回の幕開きの「四谷町伊右衛門浪宅の場」はその名の通り浪人の家だから派手な色があるわけではない。それにしてもこれほど全体が白黒に近く見えたのははじめてだった。あまりに静かで色がないから、隣家の伊藤家の乳母が持参した出産祝いや薬をお岩が喜ぶ、その一瞬の華やぎが極端に印象に残る。その薬が毒薬で、このあとお岩の顔が崩れるのは客席の誰もが知っているから、この華やぎ、そして玉三郎丈のかわいさが印象的であればあるほど、客席で観ているほうは辛い思いをする。それを飲んではいけない、どれだけの人がそう声をかけたい衝動に駆られただろうか。

その客席の心の乱れを置いたまま、大道具が盆(廻り舞台)に乗ってくるりとまわり、これもまた見たことがないほど色のない隣家の伊藤家が眼前にあらわれる。襖絵などはいつもとかわっていないようにも思うが、あるいは乳母などの衣裳が違ったのだろうか。こちらでは、お梅という伊藤家の娘の衣裳だけが色がついて見える。これがお岩の夫・伊右衛門がお岩を捨てて再婚する相手であるから、その人だけが際立って幸せそうな色の印象を帯びるというのもまた、お岩の哀しさを引き立てる。

それで、いよいよお岩の顔が崩れていく場面。これが秀逸だった。いつも心の中で叫んでいた冒頭の言葉が、まるで出なかった。四谷怪談を観るたびに叫んでいたのに。 玉三郎丈は、このあとで起こることを先読みすることがない。ただ淡々と「生きて」いた。自分が飲んだ薬が毒薬だったことも、それが伊右衛門とお梅を結婚させるための隣家の計略であったことを聞いたときも、即座にそれを恨んだりしない。人間、あまりに予想外の出来事が起こると驚いたり怒ったりそういった感情がすべて停止してしまう。心の中は混乱しているものだから、一見、冷静で日常的な行動をとるけれど、側から見るととてもその場でやるわけがないような異常な行動だったりする。この表現が、今回の舞台はとにかく見事だった。

たとえば、顔が崩れた状態で毒薬をよこした隣家に挨拶に行こうとする。このままだといけないから身繕いしなければいけない、と鉄漿をして髪を櫛で梳きはじめ…これが「まるで普段行っているのと同じように」行われるのだ。なんの意図もなく、なんの感情によって突き動かされるものでもなく、ただ日常的に。だからこそ狂って見える。そりゃそうだ、あれだけのことをされたのだから誰だっておかしくなる。この人は、私たちと変わらない人間なのだ。尋常でいられるわけがない。 客席にいていたく共感してしまった。この場面の演出は怖がらせたり、もしくは幽霊らしい演技をしたり、そういった演出によく出会うのだけれど、今回の玉三郎丈に関してはそれが全くなかった。だからこそ、「人間」お岩に共感した。それが、素晴らしかった。

これは個人的な意見だけれど、人間が特定の誰かの幽霊を見る時、たいていその人に幽霊を見る原因がある。お岩の幽霊を見るのもほとんど伊右衛門だけ。悪党のようでいても自分がやってしまったことへの後ろめたい気持ちはあるのだろう。だから幽霊を見る。お岩は、出来事が出来事だから恨むようなことを言わないわけではない。しかし、化けて出ることについては伊右衛門の側の問題なのだ。お岩が「化けて出ますよ」とやる必要はないし、それをやった瞬間にお岩の側に余裕が出てしまって、嘘を感じる話になる。今回はそういうことをやらないから、とにかく真っ直ぐにお岩の混乱が伝わってくる。だから、悲しくてしかたない。はじめてお岩で泣いた。

残念ながら、というよりよくやるやり方なのだけれど、今回の『東海道四谷怪談』は全編通しではなく、この次の場面で幕がしまる。あまりにも素晴らしいお岩を見た後だから、それに苦しめられる伊右衛門の芝居も見たくてたまらず、これにはもどかしい思いをした。体力的な厳しさもあるのだろうけれど、この事態がおさまったら、なんとかこのコンビで、通し上演かそれに近い四谷怪談を見てみたいものだ。

それにしても、ろくな生き方をしていない自分はこのあとどれほどの幽霊に出会わなくてはいけないのかと空恐ろしくなる。芝居の幽霊ならいいのだけれど。とりあえず…滝にうたれてこようかな。††

03.(突然企画)今日の編集人

本日編集人は京都に能を観に行きました。金剛流の定期能。『花筺(はながたみ)』。素晴らしかった。狂女ものなのですが、恋しさに焦がれた女性の内面を舞台全体(楽隊、コロス、共演者)で表現しているのです。いわゆる近代的自我とは異なる自我がそこには立ち現れていました。感服!†††

04.こういう基準で言葉を選んでいます(といくつかのお願い)

舞台、アニメーション、映画、テレビ、配信、etc。ジャンルは問いません。人が<演技>を感じるもの全てが対象です。編集人が観ている/観ていない、共感できる/共感できないも問いません。熱い・鋭い・意義深い・好きすぎる、そんなチャームのある言葉を探しています。ほとんどがツイッターからの選択ですが、チラシやミニマガジン、ほっておくと消えてしまいそうな言葉を記録したいという方針です。

【引用中のスチルの扱い】引用文中に場面写真などの画像がある場合、直接引かず、文章のみを引用、リンクを張っています。ポスター、チラシや書影の場合は、直接引用しています。

【お願い1】タイトル画像と希望執筆者を募集しています。>

【お願い2】自薦他薦関わらず、演技をめぐる言葉を募集しています。>

05.執筆者紹介

箕山 雲水 @tabi_no_soryo兵庫県出身。音楽と時代劇、落語に浸って子ども時代をすごし、土地柄から宝塚歌劇を経由した結果、ミュージカルと映画とそして歌舞伎が三度の飯より好きな大人に育つ。最近はまった作品はともに歌舞伎座の2021年2月『袖萩祭文』、同3月『熊谷陣屋』、ミュージカルでは少し前になるが『7dolls』、『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』、マイブームは日本舞踊。

06.編集後記

今、ベランダへの窓を開け放して編集していますが、身体が冷えてきました。秋ですね。多分あっという間に冬です。そして、この雑誌も三年目に入るのです。ちょっとした編集上の工夫を加えました。言葉の探し方にも一工夫入れました、これは紙面からは伝わらないかもですが。でも趣味のマガジンだからこそ読者体験は大切にしたいんです。いや、これほんと。ではまた次号で!

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