演技と驚き◇Wonder of Acting #7
私たちは「演技」が好きです。大きな声でそう言いたい、演技についての小さなマガジン [July/2020]
01.今月の演技をめぐる言葉
【↑参考】森崎東 Wikipedia (RIP)
引用させていただいた皆様ありがとうございました
02.【連載】俳優が描くカタチ 第2回「長澤まさみの設計と転生」 ~マチ
今年、長澤まさみさんはデビュー20周年だという。
2004年の映画『世界の中心で、愛をさけぶ』あたりで彼女の存在を知ったと思うが、公開され大ヒットしていた当時、そこまで興味は持っていなかった。俳優養成校にいた私は古今東西の映画を「教養」としてむさぼり見ていた時期なので、セカチューのブームを「どうせお涙頂戴もの」と、やや冷ややかに見ていた気がする。ただ、史上最年少でアカデミー賞最優秀助演女優賞を獲ったときは、3つ年下の17歳の女の子に正直嫉妬のような感情が芽生えた。そこでどんなものかとブームから遅れてみたセカチューの彼女はかわいいとは思うけど、そこまで演技が上手いとは思わず、無責任な一観客としては、「容姿と勢いだけか」と理解した。その後もドラマや映画でよく見かけてたが、あまり印象に残ってなく、「明るくかわいい記号的なヒロインをこなす俳優」程度に捉えていた。
ところが、長男が生まれた産休中にDVDで観た映画『モテキ』の「松尾みゆき」には驚かされた。
劇中、セカンド童貞である主人公を勘違いさせる奔放さと、映画後半の気まずくなったつれない態度までの「感情のグラデーション」をリアルかつポップに演じていて「記号的」からは程遠い見事な表現だった。この作品から所謂「アイドル女優さん」と思っていた彼女の印象が全く変わってしまった。少しあとになるが映画『海街diary』の次女役でも見事な演技をしていて、私のなかでの評価が急上昇。意識せずにはいられない存在になってしまっていた。
『モテキ』、『海街diary』ともにキャラクターの魅力もさることながら、そのキャラクターの関係性を示す演技が上手い。簡単にいってしまえば、「受け芝居」が上手いということなのだが、明るいリアクション、冷たいリアクションなどが網羅的に現れてくるので、ドラマに深みが生まれてくる。特に『海街diary』の次女の成長物語は、四女、長女の傍らを流れるストーリーとして、あるのと、ないのとでは作品の豊かさが全然変わってしまうため、人間的な生々しさを表現した彼女の功績は大きいはずだ。
リアクションのすばらしさについては『散歩する侵略者』も外すことはできない。そもそもこの映画では他に女を作っていた夫が失踪し、宇宙人に体を奪われて帰ってくるところから話が始まる。明らかにリアクションせずにいられないシチュエーションだ。さらに夫は人間的概念を持ちあわせていないため会話がズレまくる。彼女演じる鳴海(なるみ)はその状況にイライラを隠せない。だけども彼女が上手いのは、その不機嫌な人物から夫への愛情を滲ませてくるところである。
宇宙から来た侵略者が人間の「家族」、「仕事」などの概念を次々と奪い、侵略を押し進めるSF、サスペンスなどの要素を持つ作品だ。主要人物の3人は宇宙人で、2人は人間のガイドと地球侵略を進め、もう1人の宇宙人は地球の侵略を行いながらも、妻の鳴海と失われた愛を取り戻していくストーリーとなっている。侵略メインの活劇パートと、夫婦関係を取り戻していくドラマパートの2つにわかれながら、映画は人間の滅亡に向かい進んでいく。
普通このあらすじだと、侵略パートには迫力があり、ドラマパートは比較的地味なイメージがあるが、そんなことはない。個人的には鳴海たちの夫婦関係の展開のほうに迫力を感じる。
鳴海の演技は感情表出を映画自体の「動き」にしっかりと転化させている。その「動き」を突き動かしている感情には躍動感があるから、映画そのものの躍動感が強まる。色々と大仰なことが起こる映画であっても、不思議と見終わったあとは鳴海たちの行動や表情が印象として残るのだ。
映画は脚本・演出ともに魅力的だが、この映画は俳優の表現が作品の質的レベルを大きく担っている(長澤さんだけではなく他の俳優陣も素晴らしい)。特に彼女に関しては、他の俳優と比較して、どんな演技プランを持ち込んで、どう立ち回ればいいのかを映画全体を見渡して理解していたはず。もし、鳴海の演技が弱ければ「愛」の概念を奪うラストに説得力がなくなってしまったのではないだろうか。監督のプランから、果たすべき役割をしっかり読み解き、少し感情的な鳴海を設計して、観客をヒューマンドラマへいざなう長澤まさみさんの姿に、「演出と俳優のプロフェッショナルな関係を見た」と、感動を覚える。素晴らしい共鳴だった。
おそらく、デビュー間もない頃から映画を俯瞰してみる能力に長けていたのかもしれない。上記に挙げた作品の抜群の演技力を見ると、私にはある日突然に彼女の演技力が向上したとは信じがたい。若いときはまわりから求められている「長澤まさみ」を正確に演じてみせていただけなのかもしれない。
最後に特筆すべき点をもうひとつ。保ち続ける演技の“鮮度”だ。『MOTHER マザー』のインタビューを読むと、監督や周りのキャストへの配慮と、与えられた役に対する誠実な態度を感じる。常に初心や挑戦という態度を崩さないのだろう。新作ごとにしっかり転生を済ませた人物で登場するのだ。
ある意味とんでもないプロフェッショナルな俳優である。彼女の出演作を調べたら、主演・ヒロイン作で興行収入10億越えがいくつもある。今、もっとも巨額の金額を動かせる俳優のひとりである。その責任を感じながら結果を出し、多数の女優賞を獲得する彼女には、個人的に「現代を代表する女優」と言い切ってしまいたい気持ちがある。†††
03.今月の「Wonder of Act」(編集人の一押し)
2020年は3ヶ月近く映画館が閉鎖し、にもかかわらず邦画の傑作が山のように封切られたことで長く記憶されることでしょう。とりわけ演技愛好家にとっては『劇場』の松岡茉優とともに。
04.こういう基準で言葉を選んでいます。その他
■舞台、アニメーション、映画、ドラマ、etc、人が<演技>を感じるもの全てを対象としています。私が観ている/観ていない、共感できる/共感できないにかかわらず、熱い・鋭い・意義深い・好きすぎる、そんなチャームのある言葉を探しています。皆さんからのご紹介、投稿もお待ちしています。投稿フォームも作成しました。というかですね。四六時中インターネットに張り付いているわけではないので沢山の素晴らしい言葉を拾いもらしているに違いないのです。是非皆さんのお力添えを!
■第8号は8月28日発行。編集人の連載「演技を散歩」第3回掲載予定です。
■連絡先:
Twitter/@m_homma 、@WonderofA
Mail/pulpoficcion.jp@gmail.com
05.執筆者紹介
マチ 中学生の時に偶然エドワードヤンの「カップルズ」をレンタルビデオで借りて映画鑑賞にハマる。高校卒業後に俳優養成学校に進むが、理解できることと表現できることの差に大きな開きがあることに気づき挫折。きっぱり諦めて卒業後は一般企業に就職。好きな映画監督エドワードヤン。好きな女優安藤サクラ。二児の母
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> note記事 【映画感想】殺さない彼と死なない彼女
06.後記
マチさんの今回の原稿、初稿にコメントしたら、がらりと書き直してきてくれました。あ、これ初稿読むことになるの僕だけなのか!と気がついて、これが編集者の喜びなのだなと実感しました。初稿でとても好きだった箇所を第2稿に差し挟ませてもらって最終稿が完成したのですが、そうしたプロセスも実に新鮮で、改めてマチさんには感謝です。
それとアマゾンプライム。バナーに金額乗せるの分かるんだけど、やっぱやめてほしい。まるで営利目的みたいじゃないか!(このマガジン、アフィリエイト等は一切行っていません)
第6号が400ビューを超えそうで、あれ案外1000ビュー超え間近かもという気がしてきました。記念の何かそろそろ本気で考えよう(ちっちぇな、おい)。それでは次号でお会いしましょう!
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