失踪したことがある⑧
中国地方の梅雨も明け、夏である。夏といえば祭り。僕たち某青年部は部費を稼ぐために三次きんさい祭りに焼きそば屋台で出店してきた。
途中、通り雨と言うにはあまりに激しい雨にたたられ、予定数を大幅に下回る売り上げでフィニッシュした。ままならないものである。
それはそうと、祭りの合間にコンビニに買い物しに行ったら中学生ぐらいの女子が僕を見て「デッか!」と大きな声で言った。十年前の僕だったらその娘の履いてるパンツを脱がして口に突っ込んだやいなや即レイプして山に捨ててくるところだ。十年後の僕で良かったな、人の子よ。時は人を丸くする。体型も性格もずいぶん丸くなってきた。
世の中は大きな人に対して遠慮が無さ過ぎる。すれ違い様やレジ前で知らないお年寄りに身長を聞かれる事も月に一度ぐらいの頻度であるし、仕事先では初対面の人には必ず「大きいですね…!」と言われる。そんなことは充分知っているし、僕が大きいだけではなく、君たちが小さいということも知っておいてほしい。主観でしかものを見れない人が多過ぎる。
ああいう人たちは、初対面の太い人がいれば面と向かって「デブ!」と言ったり、すれ違い様に頭髪が薄い人がいれば直接「ハゲ!」と言ったりするのか。出来ないだろう。面識のない大きな人に「デカい!」と言う時には死を覚悟して言うといい。僕は殺す覚悟が出来ている。
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若手さんと二人きりで取調室に残され、何をするでもなく迎えの家族の到着を待つことになった。あきらかに僕より年下のお巡りさんだ。
「おいくつ…なんですか?」沈黙が苦手で問うてみる。見合いか。
「25です。」めっちゃ若かった。10才以上も年上の失踪者の相手を、朝の6時頃からしてくれていて誠に申し訳ないです。その旨を伝えた。
「僕はこれが仕事ですから。広島からいらっしゃったんですね。僕が研修を受けてたのも広島です。」爽やかである。そして意外と話上手であった。
予期せぬフリートークで沈んでいた心が開きかけ、あれこれと広島の話をした。退屈を紛らわせ、現実を忘れるには世間話が一番手っ取り早い。
話している内に小一時間ほど経っただろうか。若手さんが「じゃあ、僕は交代しますので、替わりの者が来ます。」と退出した。せっかく得た話し相手がいなくなるのは寂しいが、仕方がない。
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