失踪したことがある⑥

総会シーズンだ。某総会に広島市内まで行ってきた。四次会まで行ってしまえば帰りは午前様である。

四次会はラーメン屋の皮を被った広島つけ麺屋さんだったので、迷わず20辛のつけ麺にした。締めに激辛の麺をすすっておくと翌日トイレでえらい目に会うが、二日酔いにならない。人体の不思議だ。

この度幼なじみのMが会長となった。普段感情を面に出さない男が会長就任の際に泣いた。大の男が人前で涙するのは誇らしいことだと思う。二年間頑張れ。僕も頑張る。

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パトカーに揺られること30分、僕の身柄はT警察署に運ばれた。朝の光にシックな色合いの警察署が浮かぶ。普段警察とは関わりがない上に、今や身の上は失踪者である。いやが上にも緊張してくる。

「迎えの人が来られるまで署内で待機してもらいます。トイレに行かれますか?」

親切である。気付けば緊張でトイレに行きたくなっていた。しかも大の方だ。その旨を伝える。

「一応見張らせてもらいますね。ベルトを預かります。」

親切なだけではない、警戒している。この期に及んで僕がトイレ内で何かしでかす可能性を考慮している。プロである。

もう僕は失踪した時点で自殺を諦めており、もちろんトイレで用を足したいだけであった。大人しくベルトを渡して個室にこもる。ドアの前ではお巡りさんが僕の気配をうかがっている。しかも二人。こんな状況でうんこが出来るか!…出来た!なんとかなった。

トイレが済むと署内の廊下を奥へ奥へと連れていかれる。どこまで行くのかと思ったら、入り口から一番離れた小部屋に着いた。

びっくりするくらい狭い部屋である。僕が3人入ったら容積がいっぱいになるくらい狭い。取調室だった。

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