失踪したことがある②

春の夜長に今日もらったタケノコのあく抜きをしている。ほぼ同時に二軒からタケノコが届き、更にもう一軒くれようとした連絡があったが、三軒目はさすがに断った。

鍋に入れたヌカがふつふつとしてくる瞬間がたまらない。山菜は採るのも食べるのも大好きだ。

田舎の年寄りには「あんなもん食べるものがない時代にえっと食ったわ。」と言う人もいるが、栽培されている野菜にはないパワフルな味がして山菜が好きだ。あく抜きが必要だったり、食べるのにひと手間かかるのもいい。下ごしらえしてる間に期待がふくらむ。

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失踪初日の夜に車中泊しながらあれこれと考えていた。

なんでこんなことしたんだろ。今ごろ地元は大騒ぎしてるだろうか。意外と家族で様子見していて、警察に届けが出ていないかもしれないな。そしたら一週間ぐらいは放浪出来るんじゃないかな。財布に五千円ぐらいしかないけどクレカがあるから給油とコンビニ食ぐらいなら何とかなるんじゃないか。どこまで行けるだろう。何も考えずに北に来ちゃったから、次は南に行ってみようか。

妄想がふくらんでちょっとした旅行気分になってくるが、着替えと歯ブラシがないことで急に現実に引き戻される。失踪する前ガス満だったけど、ここまで約250キロ走ってきたので明日はどこかで給油だな。ナビがあった方がいいよな、と出発する前に電源を切ったスマホをじっと眺めたがダッシュボードに入れた。さすがに電源を入れる勇気はない。

失踪したが予定はない。ここまで来たら明日は某砂丘で朝日を見たい。そう思って眠ろうとした。意外に早く眠りが訪れて、午後10時半ぐらいには眠れた。

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