失踪したことがある③

マテ貝掘りに行ってきた。

人間は二つに分類できる。マテ貝掘りを体験したことがある者と、そうでない者だ。そしてマテ貝掘りをしたことがある者はみな言う。「楽しかった…!」と。

大型連休だ。気の合う友人たちと以前から行きたかったマテ貝掘りに行ってきた。

僕は食べられるものを採るのが好きだ。釣り、山菜・キノコ採り、イノシシの解体等いろんなジャンルの食べ物採取が好きだ。

中でもマテ貝掘りは格別だ。人生で三度しかやったことがないが、他のものと違って採れた時のやってやった感がすごい。ああ、僕は今生きてる。そういう手応えのようなものがある。

マテ貝掘りをしたことがない人はぜひ一度やってみて欲しい。やり方と場所は各自でググる。そういうのは自力でやらなければいけない。ちなみに広島県では5月から7月までマテ貝は採ってはいけないことになっている。密漁はいけない。

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失踪者の朝は早い。日が昇るまではまだ間がある午前5時半頃に目が覚めた。失踪前は不眠に悩まされ、朝起きられない日が続いていたのに。緊張していたのか、リラックスしていたのか。

朝日が見たい。某砂丘でだ。何もない砂の世界が朝日で照らされていく様を眺めたい。そう思ったので出発することにした。

まだ暗い海岸沿いの道を走る。目的地までもう小一時間。24時間営業のガソリンスタンドを見つけた。燃料メーターは残り四分の一。頃合いだ。給油しよう。

スタンドに車を入れ、店員さんに「レギュラー満タン、カードでお願いします。」と伝える。ハキハキと伝えなければならない。挙動不審だと通報されるかもしれない。

給油が始まる。店員さんには特に不審な様子はない。通報はされていないようだ。窓を拭く店員さんを横目に今日の行程を考える。砂丘で昼までぶらぶらするか。お昼は何を食べよう。カニは高すぎるからダメだな。

給油が終わり、クレカのサインを終える。さあ、目的地までもう少し。行こうか。

ふとバックミラーに目をやる。赤色灯だ。大丈夫。きっと普段のパトロールだ。スタンドにすごい勢いでパトカーが入ってくる。僕の車の前に斜めに停まる。お巡りさんが降りてきて窓を叩く。震える手で窓を開けた。

「福品さんですよね?」

僕は反射的に「アッ、ハイ」と答える。

お巡りさんが僕の後ろに向けて両手で大きな丸を作った。いつの間にか後ろにもパトカーがいる。つまりは挟み撃ちだ。詰んだ。

僕は逃走が終わったことを知った。午前6時前後のことだったと思う。

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