オーロラと結ばない
可能なこと、不可能なこと。この世にあるのは2つにひとつだ。そんなこと昔から知っていた。
「オーロラを見たいな」
パジャマ姿の彼女は言う。そして笑う。
笑うと言ってもニコッという音はつかない。まっすぐ僕を見る訳ではなく、窓の外をちらりと眺めて控えめに笑う。
「オーロラなんて美しすぎるものを見たら、君はキャパオーバーで疲れてしまうよ」
おどけて言うと、また彼女は笑う。楽しそうに、鈴のような声で言う。
「それはきっと世界一幸せな死にかたね」
彼女の体から出る管、僕たちがつける衣服やマスク。何が幸せなのか。考えた時間は5秒か、それとも数十分か。僕は病室を出た。
「直接」でないのであれば彼女にオーロラを見せる方法などいくらでもある。テレビだって、このご時世ネットにいくらでも画像や動画は転がって入るだろう。けれども、そうではない。そうあってはならない。
「君は何か、これだけはやらないとと意気込むことはある?」
まるで思い出したかのようにあれからも私は問う。
「オーロラを見たな」
ほら、君はまたそう言うでしょう?
本当ならば僕は今すぐにでも君を抱き上げてオーロラを見せるためにどこまでも連れて行ってあげたい。けれどもそうしないのは、君を失いたくないからで。ずっとずっと側にいて欲しいからという僕のエゴだ。
「ねぇ、君は何をしたいの?」
「 」
何も返ってこないのに、それでもまだ君が生きていることを喜んでしまう僕は、僕は。
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