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侍女の物語 ネタバレ

侍女の物語/マーガレット・アトウッド

最近はhuluで“ハンドメイド・テイル”として知られている作品ですよね。その原作です。
私はハンドメイド・テイルズを見ていなくて、見ようかなと思っていたので原作から読みました。

物語のあらすじを書くと
主人公の女性はアメリカに住んでいて、アメリカが突然大統領が暗殺されたり国会でテロが起きて政府が機能しなくなり、アメリカではなくギレアデ共和国になります。
ギレアデはキリスト教原理主義の宗教を重んじている国であり、また環境汚染、原発の事故などの影響で健康な子供を産むことが大変困難になっています。
そこで重宝されるのが“侍女”と呼ばれる女たちで健康な子供を産める可能性が高い女たちです。
彼女たちは有力者、権力者たちの子供を妻の代わりに産むために存在し、いわば聖なる存在、歩く子宮として教育され、派遣されます。
その侍女の一人の目線で書かれている小説です。

そして一番これは書きたかったし、これを知らなければ私はこの作品を読んでないのでネタバレの前に書きます。
著者は「この小説で新しいアイディアは使っていない、全て実際に起きていることを書いてる」と言っていたみたいです。つまりこの作品において起きていることは現実世界でも起きていることであり、夢物語でもなんでもない。

あらすじは以上です。以下はネタバレを含む感想なのでまだ読んでいない、これから読みたいという方は閉じてください。

まず、ギレアデという国について。
アメリカといういわば自由の国がギレアデというキリスト教原理主義の国になってしまいました。原理主義というのは、聖書の教えを文字通りに信じている思想。
“原理主義の国”と言うか聖書が法律になった国という方がしっくりくるでしょうか。

例えば、中絶は認められないし(避妊、つまりピルやアフターピルも)、同性愛も進化論も認められません。もちろん他の宗教も認められません。
作中でユダヤ人は処刑され壁に吊るされ見せしめにされます。
(作中ではユダヤ人は二つの選択肢を迫られます。改宗かユダヤの地に行くこと。しかしユダヤの地に行くことを選んで船に乗った人たちはフェイクか何かで実際はたどり着いてはいないと個人的に思う)
見せしめに吊るされるのはユダヤ人以外にもこの政府に対して反抗的、不都合な人間たちです。
例えば中絶をする医師や同性愛者、政府に認められない者たちは次々処刑されていきます。

主人公はアメリカ、つまりギレアデになる前に夫と娘がいました。ですが侍女になるために離れ離れにさせられます。
そして主人公のは壁に吊るされた男性を見て思うんです「あれは夫じゃない」と、安心すらするのです。
もうそれだけが日々の希望って感じで死体が吊るされてる壁を眺めるの。

主人公は家族と離れ離れにされ侍女になるための教育センターに送られてそこで他の侍女たちと生活します。
そのあとに“司令官”と呼ばれる権力者の家に行かされ、その司令官と妻と使用人が住んでいる家に住んで司令官と子作りします。

この子作りも気味が悪く、司令官の妻に重なるように横たわって妻に腕を手で掴まれスカートをめくりあげられ司令官とセックス、というより生殖行動をします。
そこで健康な子を孕み産めば侍女として安泰だし、もし色んな家を周り何年も産めず生殖能力がないとされればコロニーと言われる原発の汚染物質の処理をする施設などに送られてしまいます。そのコロニーでは汚染物質を処理するためのまともな防護服すら与えられず人々は鼻や崩れ落ちたり皮膚が溶けたりしていきます。

主人公の母親はフェミニストでした。例えば主人公の夫が料理をしているのを時代が変わったおかげだと主人公に言うような。
母親はコロニーに送られたということを主人公はかつての親友伝いに知ります。強かった母親がコロニーに送られ強制的に働かされている、残酷な世界すぎる。
コロニーにも農業をするコロニーなど比較的危険がないところもあるようですが、やはりできれば行きたくない場所です。

健康な子供を産む=コロニー行きは免れる、だから侍女たちも必死です。

また“VOGUE”などの雑誌も焼かれていきます。雑誌だけじゃなくいろんな書物が。都合の悪い書物を焼いたり賢い人達を処刑することは歴史的に見ても珍しくないですが、それが突然住んでる国で始まったら恐ろしいですよね。
女性が経済的に自立できないシステムで成り立ってる国は、日本含め多々ありますしね。
ああたしかにこの小説の抑圧は現実世界で起こっていることなんだなと。

あらすじ書いてるだけで悲しくなってくる。
ギレアデでは女性の人権などなく、ある日突然女性は職場を解雇され銀行口座を凍結され男性に経済的依存をしなければならなくなります。
これは原理主義の“女性は家庭に”という考えのもとにです。
いきなり宗教組織が国を乗っ取り思想が強制されたらどれだけ恐ろしいか、それをこの小説では書いているのですが見事に恐ろしさでいっぱいになった。

兎に角、主人公は司令官の家で自由のない生活をしながらも以前のアメリカだった時のことを思い、嘆き、悲しみ、今の制限された生活に少し、ほんの少しの変化や気付きを大事のように感じ過ごしていきます。
例えば、この季節だからこんなお花が咲いているとか、お花がどんな匂いかとか、壁やカーペットや天井の模様、そんな些細なことを見つめ続け、でも心のどこかで強くいつかこの日常が終わると信じながら生きるんです。

結局、この小説はそんな侍女の生活や心の機微、現政権への恐怖やそして未来への希望を胸に秘めている描写で終わります。

つまり明確な救われた描写はなく終わるんです。
彼女が救われたのか、はたまた絶望の淵に立たされるのか、それは小説で明言はされていません。
しかし彼女はきっと反政府グループによって一度は救われたのでしょう。

というのも最後に明かされるのはこの小説は主人公の侍女が自分で録音したテープを、後の学者たちによって書き起こされた、というていになっているんです。
つまり一度はテープに録音する機会があったということ。
そんなことすら希望になる世界線に胸が痛くなるけど、この小説はそんな世界線なんですよね。
自殺しないように最低限のものしか置かれない部屋、同じ身分の侍女と話すときですら周りの監視を気にして囁く程度の会話、絶え間ない抑圧。
自殺は阻止され、反逆するものは殺される世界。

後の学者によりこのテープが書き起こされ、その学者たちは多分ギレアデが滅んだ世界の学者たちです。
つまりギレアデは滅び、そういう世界はなくなったのです。
しかし、ギレアデが滅んだことしかこの小説では触れていません。もしかしたら狂信的な人々がまだ国家を名乗っているのかもしれないし。

この小説はディストピア小説の部類らしいけど、実際こんな世界が広がっている国もあるし、こういう世界を望んでいる人もいるじゃないですか。
この小説が書かれたのは私が生まれる大分前だけど、それでも今でもそんな考えの人たち、国、がある。
女の幸せは結婚して子供を持つこと、男の人生は家庭より仕事に集中するべき、みたいな。
つまりいつでもこんな世界になり得るわけで他人事ではない。
ギレアデは誰かにとっての理想郷であり現実世界で起きているあらゆるクソなことの詰め合わせ。
女は子供を産む機械、三人は子供産まなきゃ、とかいうような日本の政治家がいたけど、そんな人が絶対権力を持ったらこんな世界になり得るし全く遠い世界線ではない。

侍女の物語だけど侍女だけじゃない。この物語に登場する全ての女性が苦しんでる。
そして詳しくは描かれていないけどきっと男性も息苦しさを感じているはず。(それを感じられる部分が娼婦の宿なのもまた男…って感じなんだけど)

聖書に明るければもっと何倍も理解が深まったし楽しめる作品だと思う。この小説に限らず、キリスト教色が強い作品とかは聖書を知ってればもっと楽しいんだろうなと思うことがよくある。
ギレアデという国名の意味も、ググって知ったしね。

というわけでめっちゃ長い読書感想文読んでくれてありがとうございました。