雨。 赫。 そして、硝子細工。

──────────。


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雨が苦手だった。それは150年前の、ある雨の日のこと。君の胸から噴き上がる赫が白無垢を染める。


降りしきる雨の中、瞳を閉じて動かない君を抱いて空に叫んだ。

僕の腕の中で次第に冷たくなっていく君を、救えなかった。

君の花のような笑顔が、君のハープのような声が、腕が、脚が、身体が、君との想い出までもが────

────凍りついていくようで。


空に叫んだ。

救えなかった。

僕は君を、救えなかった。


────────。


立ち尽くした。

気が付くと、雨は上がっていた。


荒れ果てた街をひとり歩くとき、どうしようもない孤独に苛まれた。渇き、飢え、満たされない。いっそ君がいない世界など、滅んでしまえ。この無意味の輪廻に、必ず終わりを齎すまで──

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雨が苦手だった。濡れた窓の外をぼんやりと眺める君の頬に、一筋の涙。僕は瞳を閉じて動かない。

記憶が硝子細工のように崩れゆく。細かい欠片が、君に突き刺さる。

あの日の赫が、鮮明に蘇った。

「待って────────」

届かない。

僕の声が、想いが……こんなにも君を想うのに──

──もう届かない。

あと、少しだったのに……


…………少し?


150年後、また巡り会うことを信じている。次こそ、次の機会にこそ……幾度となく繰り返される無意味の輪廻に、終止符を打つことをも────


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────微睡みの中、君は言った。

「さよなら」

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