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『kitchen car blues』  人生の中間決算 START IT AGAIN 走(かける)の場合

走り出したら 何か答が出るだろなんて
俺もあてにはしてないさ♪

毎朝、妻と子供の寝顔を確認してから自宅横にある物置を改装したキッチンに向かい、牛スジの煮込みの仕込みを始める。
早朝5時、冬の時期はまだ夜が明けていない。

好きで始めたキッチンカーの仕事だが、大学を卒業して10余年、次第に世の中の仕組みが見えてきて、このところ20代の青かった自分の判断が正しかったのか、考えることが多い。

来月、森家には双子が誕生予定で、幼稚園に通う長女を含めて、走(かける)は34歳で3人の子持ちになる、、
今の仕事を続け、自分は家族に幸せな生活を送らせてあげることができるのか。
頑張っていれば人生、道が開けるのではないかと思っていたが、、
現実的には自分の親からの援助と妻の仕事で
かろうじて家計は成り立っている。
行動して後悔するよりも、行動しない事を後悔したくないと思って走りだしてはみたが、
家族の事を考えると楽観的にそのうちに良い答えがでると思ってる場合ではない事を痛感する毎日だ。
お客さんの反応にはげまされ、ここまで続けてきた仕事だが、そろそろ潮時かもしれない。
赤字ではないが、利益はだいたいタクシーの運転手の給料と同じくらいではないかと思う。
一発逆転がなければ、10年後も収入が増える事は期待できず、逆に自分が歳をとって、体にムリがきかなくなると収入は下がる可能性のほうが高い。
走はこのところキッチンカーに籠って仕事をしている間、悶々としている。

ある日、用賀で営業してしていた時、足元がおぼつかない杖をついたお年寄りが列にに並んだ。
稼ぎ時のランチタイム、注文するのも、会計するのも時間がかかるお年寄りは、他のお客さんを待たせる事になるというか、売り上げが減る要因になるので、あまりありがたくない存在だ。
その時、前に並んでいた若者がそのお年寄りに順番を譲り、メニューの説明をし始めた。後ろに並んでいた人もお年寄りの荷物を持ってくれている。
結果、お年寄りはスムーズに注文、会計ができた。
お年寄りに親切にする2人を見て、さっきまでありがた迷惑的に思っていた自分を恥じた。

余裕がなくて、少しの思いやりももてない自分。

たった2人の少しの親切な行動を目にしただけだったが、今の自分の普通ではない心の状況が映し出されて、客観的に今の自分を確認する事ができたような気がする。

Pick up your head throw away your blues
「顔を上げて、憂鬱を吹き飛ばそう♫」

走は悶々とした気持ちが吹き飛んだ気がした。

同級生と収入を比べたり、何が起こるかわからない未来のことを心配してても仕方ない。
自分が出来ることならやればいいし、出来もしないことを夢見ててもなんの意味もない。
目の前の事を頑張っていれば、困った時には誰かが見ていて手助けしてくれるかもしれない素晴らしい国に自分はいる。
日々頑張ったその先になにかの変化はあるかもしれないが、その変化はいい事であろうと悪い事であろうと受け入れられる自分でいられるようにしよう。

The more you give babe the less you lose
「多くを与えれば、失うものは少ない♫」

産まれてくる天使達には自分ができる限り多くのことをしてあげればいい。天使は神のお告げを伝えてくれる存在らしいから、オレは天使が運んできてくれるお告げを楽しみに待っていればいい。

「運が悪けりゃ死ぬだけさ♫」

歳を重ねて、打算的に考えた人生のロードマップより、若く青い頃に考えた夢のほうが尊いかもしれない。 
今、死んでいない自分は運がいいわけだから、どんなにキズを負ったって擦りキズだと思って前進あるのみだ。

そんな事を考えながら、帰りに妻の好きなチーズケーキを買い、途中、多摩川にかかる二子橋から見える夕日はこれまでになくキレイに見えた。


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