1万人の子どもたちがテクノロジーを学び教え合える場をつくりたい~一般社団法人Kids Code Club石川麻衣子さんのStory 後編~
はじめに
プログラミングやテクノロジー教育を通じて、貧困など厳しい状況にあっても立ち上がれる社会をつくろうと活動している一般社団法人 Kids Code Clubの石川麻衣子さんのStory。
前編では子どもたちが無料でプログラミングを学び教え合える環境をつくる活動のきっかけや思いについてお伝えしました。(前編はこちら)
後編では貧困家庭の子どもたちの支援に実際に取り組んで気づかれたこと、そしてこれから目指すことについてお伝えします。
■貧困家庭の子どもたちも学べる環境づくり
プログラミングをするにはパソコンとWi-Fiなどインターネットにつながる環境が必要です。
――たしかにそうですね。
プログラミング学習必修化で学校がパソコンを貸し出すようになりましたが自宅で自由に使えないケースもあります。また困窮した家庭だとWi-Fiもありません。もともと、そういった環境のない子どもたちにこそ参加してほしいという想いがありました。そこで新型コロナウィルス対応緊急支援助成を受け、他の団体と連携してパソコンとWi-Fi 30セットを無料貸与しています。
――とても素晴らしい取り組みです。
しかし、ただ貸し出すだけでは上手くいかないことがあります。
――どういうことですか。
子どもにプログラミングを学ぶ機会を与えたい、パソコンを使わせたいという保護者もいますが、中には自身がスマホやパソコンで「スパムサイトに誘導される」「ウィルス感染する」など怖い思いをされたという保護者もいます。「怖いから子どもたちにパソコンを買い与えたくない・触らせたくない」と考えてしまうのです。
そこで私たちはLINEで24時間相談受付をしています。例えば「怪しいメールが届いた」「変な通知が表示される」と相談が来たら、「それはスパムだからこうしてください」など丁寧にそして根気強く対応しています。貸し出してすぐの頃はたくさん問合せが来ますが、徐々に減っていきました。皆さん自分たちで調べるようになったからです。特に子どもたちが知識をつけ「お母さん・お父さん、これはこうだよ」と教えてくれるようになりました。
――子どもたちが無料でプログラミングを学べる環境を作るために、取り巻く課題を一つ一つ解決されているのですね。
子どもたちに、いつでも頼られる場所になりたい。そのために必要なことはユーザーファーストに何でもやっていきたいと考えています。環境が整っていないのならパソコンとWi-Fiの貸与をする、保護者が困っているのなら相談してもらえる体制をつくる、見えてきた課題を一つ一つ解決するようにしています。
■1万人の子どもたちがテクノロジーを学び教え合える場をつくりたい
――これから目指す姿を教えてください。
放プロはオンラインなので、どこからでも参加できます。日本はもちろん、世界中の子どもたちに参加してもらいたいです。現在は1回あたり70人くらいが参加していますが、中間目標として2025年度に1万人が活動できるようにしたいです。
――1万人の子どもたちがテクノロジーを学び教え合える場ですね。
はい。バーチャル空間は階層をつくれるので1フロアに100人くらい、それをビル形式にすることで1万人に利用してもらうことは可能です。バーチャルの町をつくり、IT,デジタル、テクノロジーを学びたい子どもたちが集まり、学び・教え合える世界を創っていきたいです。
――素晴らしい構想ですね。1万人という大きな規模を目指す理由は何ですか?
私は「学びたいことが学べない」をなくしたいです。子どもたちが好きなことを何でも学べるようにしたい。放プロは「プログラミングを学びたい子が無料で学べる場」ですが、これまでは保護者が情報をキャッチして子どもに伝わり、参加してきました。保護者が知っていなければ学びたいと思っている子どもが参加できていないかもしれません。
これからは子どもが自ら情報をキャッチして放プロに参加できるようにできないかと考えています。例えば人気のあるオンラインゲームなら、子どもたちの間で認知されていて「このゲーム楽しいからやろうよ」と誘い合ってオンラインゲーム会場に来ます。放プロもオンラインゲームと同じくらいの存在になりたい。そのためには1万人が来ているくらいでないと子どもたちに見つけてもらえません。
――なるほど。これまで1万人の子どもたちが学び教え合えるような場はなかったですね。
これまでの学習支援は「教育とは教えること」という考え方に則って、「大人が子どもに教える形式」が多いからだと思います。それはそれでよいのですが、この形式だと届く人数に限りがあります。
また私たちは困難を抱える人たちにも、必ず「何かできること」があると考えています。「教え合う」学びの場を通じて、誰もが持っている「何かできること」を引き出したい。その意味でも一方的に教えるのではなく「学び教え合える」場を大切にしたいと考えています。
教えてもらうことでわかったのなら、自分でやってみたのならば、きっと誰かに教えられる。
プログラミングは、そんな「教え合い」がやりやすい学びです。誰かが「ここがわからない」と言ったときに、「これやったことがあるから教えてあげるね。こうするんだよ」という声が掛かる。放プロではそんな会話が自然と行われています。「自分から与える経験」、「ありがとうと言ってもらえる経験」があれば、子どもは大きく変わります。自信がついて「もっと大きなチャレンジをしよう」に繋がります。
――学ぶ子どもたちの自信につながるのですね。学び合いや教え合いが持つ大きな可能性を強く感じます。
■応援の仕方
――ここまでのお話を聞いて、Kids Code Clubそして石川さんを応援したいと思われた読者の方々も多いかもしれません。応援の仕方について教えてください。
2つあります。
1つ目として、毎週火・金の夕方に開催している「放課後プログラミングクラブ」のボランティアクルーを募集しています。教えるのではなく、子どもたちが楽しく交流できるような声掛けや見守りをしてもらう役割です。フルリモートですからどこからでも参加いただけます。
学生から社会人まで年代問わず、保護者の方も大歓迎です。プログラミングのことがわからなくても構いません。作品を見て率直に感想を言うとか、会話してもらうだけでも子どもたちに喜んでもらえます。教育に興味のある方には、学びの機会になるかもしれません。
2つ目は寄付でのご支援です。私たちはこれまでお話ししてきた「子どもたちがプログラミングを学べる環境」を全て無料で提供しています。頂いた寄付は、イベントやクラブの運営、教材やプログラミング学習アプリの開発、子どもに無償貸与するパソコンの購入費などに使用させていただきます。特にマンスリーサポーターとして定期的な寄付をしていただけたると嬉しいです。
まとめ
ご自身の原体験に基づく石川さんのお話は、約1時間のインタビューがあっという間に感じるほど聞いている私たちの心に強く刺さりました。
困窮された方々を支える際に、どうしても「一方的に何かを提供する」やり方をイメージすることがあります。そうではなく、支えられる側が持っている「力を引き出す」やり方もあります。石川さんが進めている、プログラミングやテクノロジーを「学び教え合える場」には、この「力を引き出す」可能性が溢れていると感じました。
「1万人の子どもたちがテクノロジーを学び教え合える場」の実現、私たちも引き続き応援したいと考えています。
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