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過去特級グランプリインタビューVol.1|北村明日人さん(2022特級グランプリ)

こんにちは。ピティナ特級事務局です。
特級二次予選の進出者も決まり、今年の夏を彩る顔ぶれも出そろいました!この26名が今年のオンラインによる聴衆賞の対象となり、二次予選から投票することができます。一次予選の動画もぜひご覧ください。

この時期、特級に挑戦しているコンテスタントたちはどのような気持ちで臨み、また受賞後はどのような気持ちの変化があったのか、過去の特級グランプリたちにインタビューしてみました。

第1弾は、2022年特級グランプリの北村明日人さん。今年も「北村明日人さんが発表会に行きます!コース」とサイングッズのリターンにご協力いただいています。(詳細は別記事にてご紹介予定です)


スランプからの脱却をかけた二次予選

―特級を受けようと思ったきっかけは

ファイナルでのコンチェルト

スイスに留学中の2020年、コロナ禍になり日本へ帰国しなければならなくなりました。勉強も一時中断となってしまい、これからどうやって仕事をしていこうかと考えた時に、学生のうちにコンクールを受けることも大事だなと思ったことと、その後の仕事の幅を広げるにはピティナがいい選択だろうと思い至りました。そこで、東京芸大の院に入って勉強を続け、社会人になる一年前のタイミングでピティナの特級に挑戦しようと決めました。

―実際に特級を受けてみてどうでしたか?特に今のこの時期は、二次予選の進出が決まり、その準備が大変な時だったと思うのですが。

当時は一次が動画だったのであまり実感がなく、一次通ったと分かってから、これは先輩や留学先の同期がすごく頑張っていたコンクールで、それに自分も出てしまったんだ、これは大変だぞ、と焦りました。7月末の二次予選に向けて急にスイッチを入れたものだから、ものすごく大変でした。

しかも、二次予選ではよりによって自分の苦手なショパンエチュードが課題曲に入って来る。そこさえ抜けることができれば、自分のためにもなるしと、二次は本当に精神的に削っていくような作業をして迎えました。

実はその一年前、2021年が自分にとってすごくスランプの時期でした。「何で自分はピアノを弾いているんだろう?」とか、ピアノを弾くことがすごく楽しくない時期があって。何か消化不良で納得いかない気持ちを抱えていたことを、誰にも言わなかったけれど、実技の先生にはバレていて、「何か足りないわね」と言われていました。

そこから脱却しかけている時の二次予選だったので、ここで絶対成功させて、自分の中でけじめをつけてスランプから抜け出したい、という気持ちがありました。

―それほどすごく強い気持ちで二次に向かっていたんですね。

すごく精神的に背負ってしまって、はじめ緊張で空回りしてしまったのを今でも覚えています。でもそこでちゃんと諦めをつけてリセットして次へ行けたのが、自分の精神面での成長にもなったと思います。

―その後の三次以降はレパートリーを楽しめましたか?

そこから先はレパートリーの自由度も高く、好きなものを組めるので、自分の思う通りに弾ければ楽しいしすごく満足感を得られます。でも見られているプレッシャーもあって、楽しめる曲を持っているのに楽しめてないんじゃないかとか、頭の中でぐるぐると回っていました。その前の一年が自分の中でしこりになっていて、あのストレスをもう感じたくない、弾くからには楽しんでちゃんと伝えたい、という気持ちがすごく大きくありました。

―そんな想いを抱えていたのですね。聴いている私達には、特にファイナルなど、すごく音楽に没頭して楽しんでいる姿が印象的だったので、そんな葛藤があったとは、とても意外でした。

「共演したい」の背後にある、生涯の夢と小さい頃のグランプリへの憧れ

特級グランプリ受賞の瞬間

―グランプリ受賞後に福田専務理事に「何をやりたいですか?」と聞かれて、どう答えたか覚えていらっしゃいますか?

自分が好きなドイツものを一生かけて弾いていきたいということと、子どもたちと伴奏などで共演したい、ということを言いました。

―受賞直後に「子どもたちと共演したい」と明確に仰っていたので、私達もおどろきました。それを最初に実現したのが、9月にサンシャイン池袋で行われたイケピアコンサートで、7名の子ども達とピアノ連弾やヴァイオリンデュオで共演しましたね。「共演」の背後に、ご自分の夢をどのように描いていらっしゃったのですか?

イケピア・コンサートで初の共演企画

自分の一番大きな目標は、70歳や80歳になっても、最後までピアニストでいたい、演奏を続けていたいということです。ベートーヴェンやブラームスの作品は年を取っていくにつれて成熟していくようなものだと思うので、作品と一緒に自分も成長していくようなもの。自分はまだ若すぎる。そのために、今はもっといろいろな人と共演して、自分以外の人の音楽や、時間の使い方を知ることで、返って来るものがある、と思っています。

もう一方で、「共演」の背景には自分の昔の記憶があります。自分が小学生だった時、グランプリを獲った方なんてすごい憧れの目で見ていて、その人たちに初めて会って演奏を聴いた時にものすごく感動したことも、初めて喋った時のことも覚えています。今、こうやって発信できる立場になったということは、自分にも責任があると思っています。「今頑張っている人たちに、自分が何か一緒にやって影響を与えられることはないか?」と考えた時に、せっかくだったら自分が好きな伴奏やアンサンブルで何かできたらいいなと考えました。自分もその人たちからパワーをもらえますし。

丸の内エリアコンサートで16名のキッズと共演

国内や海外での経験がもたらしたもの

―グランプリ受賞後はクラウドファンディングの支援で全国各地

を飛び回って、各地の入賞者記念コンサートなどで交流を深めてきました。北村さんならではのアイディアで、ゲスト演奏だけではなく、連弾企画も実現しました。

それまで地元の兵庫か東京かスイスか、という状況だったので、こうして全国様々な土地を訪れるのは初めてでした。沖縄で現地の民謡を連弾した時など、行ってみると向こうの雰囲気とすごくマッチしていて、雰囲気とか時間の流れとか、その土地を訪れないと感じられない感覚も得ることができました。

―海外のマスタークラスへも、2021年グランプリの野村友里愛さんと一緒にポーランドに派遣されましたね。

ポーランドのナウェンチェフ音楽祭に1週間派遣していただきました。すごくゆったりした雰囲気でマスタークラスのメンバーと同じ家で過ごす中で、時間があればピアノを弾いたりレッスンしてもらったり、みんなで散歩に行ったり。そうした中で準備したリサイタルやコンチェルトも、お客さんがゆったりと楽しんでいるのが分かって。日本だと「ピティナのグランプリが弾く」というのがずっとついて回るけれど、そういうものが一切なく、純粋に楽しんで聴いてもらえる、というのが一年ぶりで、一旦せわしない日常からリセットされるような感じでした。皆さんの応援のおかげで行かせてもらえたわけですが、海外の経験は、そうした日本でのプレッシャーを一旦脇に置いて、自分の音楽と気持ちをリセットして向き合える大切な機会にもなりました。

受賞者全員がコンチェルト演奏

―グランプリ受賞後に掲げた「共演」は、この1年でものすごい数の経験をすることになりましたが、振り返ってみて、ご自身にどういう影響を与えましたか?

色々な人と共演や伴奏をすることで、その人たちが持っている間の取り方、時間の使い方、スピード感や空気感が感じられるようになった、というのがすごく大きいです。「この人はこういうことをしたいんだ、じゃあ自分はこうしよう」と色々と試すことができました。そうして色々な方向の可能性を感じられるようになったことで、自分だけでソロを弾く時も、「ここからここに移る時にはこう行くんだろうな」という考えにすぐに飛びつくのではなくて、ちょっと音楽と距離を取って、色々な視点を持って俯瞰的に見られるようになってきたのも、自分の音楽上の変化だと思っています。共演の経験は、確実に自分のソロに生かされていると実感しています。

丸の内エリアコンサート2024にて

また、コンサートを開くと、今まで共演した子たちが聴きに来てくれたり、手紙を書いてきてくれたりするのがすごく嬉しいです。全国で共演してきたので、どこかに行くたびにそういう子たちに会いに行っているような感覚で、楽しみにしています。

特級挑戦者へのメッセージ

―今年の特級の出場者に向けてメッセージをお願いします

今はファイナルまですごく長く感じられるかもしれないけれど、曲数的にも精神的にも体力的にも大変になってくるので、今の時期にファイナルまで見越してやっていくことが大切だと思います。本番までの道のりは「自分がちゃんと音楽家として生きられるのか」ということを精神的にも試される時期だと思います。色々悩んで、色々苦しんで、それでも自分が音楽をやりたいという気持ちを強く持てるかという試練だと思うので、ぜひそこから逃げずに、むしろそこに自分でもフォーカスをあてて、強い強い思いで演奏してくれたら、それがステージ上でみんなに届くと信じています。そこまで苦しいかと思うけれど、ぜひがんばってください。

―北村さんご自身のこれからについてお聞かせください

今したいことは、グランプリ受賞直後と同じです。まだまだ色々な人の音楽を知りたい。それをもって、後々年を取った時に、純粋に自分が好きなドイツ音楽をやりたい。今はその準備期間だと思っています。受賞した時と違っているのは、少しずつ自分も指導をし始めているということですね。指導をしたり各地で交流したりすることで、色々な人の演奏を聴く機会も増えました。そういうのを聴いて、自分の中の可能性をもっともっと広げていきたい、そんな時期です。

―とても充実した2年間だったのだろうな、と改めて思いました。これからもますますのご活躍を楽しみにしています。


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