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クライバーンコンクール:セミとファイナルの協奏曲選択を数えてみました

コンクールの季節が来れば、課題曲の選択人数を数えたくなる。これは、いつの時代も人の世の常というものです。ことに、室内楽の課題がなくなり、セミファイナルにモーツァルト、ファイナルにさらにもう2曲のコンチェルトが設定されたとなれば、一大事でしょう(何の??)。

そういうわけで、セミファイナルとファイナルのコンチェルト、30人の本大会出場者がどんなものを選んでいるか、誰得でもないこの情報をお届けしましょう。

各出場者のプログラムは、すべてウェブサイトに発表されています。

◆セミファイナル
以下のモーツァルトのピアノ協奏曲から1曲を選び、ニコラス・マギーガン指揮フォートワース交響楽団と演奏する。

第9番 変ホ長調 K.271 「ジュノーム」
第15番 変ロ長調 K.450
第19番 ヘ長調 K.459
第20番 ニ短調 K.466
第21番 ハ長調 K.467
第22番 変ホ長調 K.482
第23番 イ長調 K.488
第24番 ハ短調 K.491
第25番 ハ長調 K.503
第27番 変ロ長調 K.595

30人の選択がこちら。

第1位 第20番 K.466  10人
第2位 第23番 K.488  6人
第3位 第21番 K.467 / 第25番 K.503  各3人
第4位 第22番 K.482 / 第24番 K.491 / 第27番 K.595  各2人
第5位 第9番 K.271 / 第19番 K.459  各1人
選択者なし 第15番 K.450

やはりモーツァルトのピアノ協奏曲といえば不動の一番人気は第20番。前回2017年のセミファイナルから、今回も出場、昨年のショパンコンクールでも多くの方に高い評価を得たユトン・ソン Yutong Sun のダイジェスト映像を。

飯田有抄さんのショパンコンクールのレポートでもおなじみになりましたね。なんと、ユトンさん、7月16日に日本でもリサイタルをなさいます。

それはさておき、前回は、第1位のソヌ・イェゴンさんが第21番、第2位のケニー・ブロバーグさんが第25番、第3位のダニエル・シューさんが第21番を選択していました。

そして今回、日本の亀井聖矢さんは、ただ1人、第19番 ヘ長調 K.459を選択しています。さて、この選択がどう出るでしょうか。ゴールデンウィークの丸の内ミュージックフェスや出発直前のリサイタルでも披露してくれましたが、ぜひセミファイナルで聞きたいですね!

吉見友貴さんは第23番、田所マルセルさんは第27番を選択しています。いずれも楽しみです。


◆ファイナル
以下のピアノ協奏曲(1群)(2群)から各1曲を選び、マリン・アルソップ指揮フォートワース交響楽団と演奏する。

まずは第1群。中規模の作品が並んだといえるでしょうか。そのぶん緊密なアンサンブル能力が求められます。

ベートーヴェン:協奏曲第1番 ハ長調 Op.15
ベートーヴェン:協奏曲第2番 変ロ長調 Op.19
ベートーヴェン:協奏曲第3番 ハ短調 Op.37
ベートーヴェン:協奏曲第4番 ト長調 Op.58
ベートーヴェン:協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73 「皇帝」
ショパン:協奏曲第1番 ホ短調 Op.11
ショパン:協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21
ガーシュイン:ラプソディ・イン・ブルー
ガーシュイン:ピアノ協奏曲 ヘ長調
グリーグ:協奏曲 イ短調 Op.16
リスト:協奏曲第1番 変ホ長調 S.124
リスト:協奏曲第2番 イ長調 S.125
メンデルスゾーン:協奏曲第1番 ト短調 Op.25
ラヴェル:協奏曲 ト長調
ラヴェル:左手のための協奏曲 ニ長調
サン・サーンス:協奏曲第2番 ト短調 Op.22
サン・サーンス:協奏曲第5番 ヘ長調 Op.103
シューマン:協奏曲 イ短調 Op.54

選択は、かなりバラけました。

第1位 ベートーヴェンNo.4  6名
第2位 ベートーヴェンNo.3 / ショパンNo.1  各4名
第3位 ベートーヴェンNo.1 / ショパンNo.2  各3名
第4位 ベートーヴェンNo.5 / リストNo.1 / サンサーンスNo.2 各2名
第5位 グリーグ / ラヴェル左手 / サンサーンスNo.5 / ガーシュインヘ調 各1名
選択者なし ベートーヴェンNo.2 / ガーシュインラプソディ・イン・ブルー / リストNo.2 / メンデルスゾーンNo.1 / ラヴェル両手 / シューマン

注目はやはり、ただ1人だけその作品を選んだ個性的な人たちということになるでしょう。

まずは、サン・サーンスの第5番を大の得意にしているピアニストといえば、あの人ですね。説明不要。名刺代わり。

もう一人、目を引くのは、ラヴェルの左手のための協奏曲を選択したロシアのArseniy Gusev アルセニー・グーセフ。実は彼、全てのラウンドを通じて非常に個性的なプログラミングを披露しています。

1次で、ギボンズやフローベルガーといったバッハ以前の古い作曲家に光を当てたかと思えば、セミファイナルでは一転してメシアン、リゲティ、クルタークと近現代の作曲家を並べます。また、2次予選では自作曲も取り入れています。彼のYouTubeチャンネルにも、自作を含めた個性的な録音が並んでいます。

クライバーンコンクールは、ソロリサイタルのラウンド(1次、2次、セミ)にほとんど指定課題や条件がないため、非常に個性的な選曲が見られてピアニストのキャラクターがあらわになるコンクールとしても知られています。今回も、グーセフさんに代表されるような個性派が続々と現れるかもしれません。

日本の吉見友貴さんはショパンの1番、田所マルセルさんはベートーヴェンの1番と、瑞々しい作品を選択。フルオケと披露されるのを期待して応援しましょう。

そして、協奏曲の「第2群」。最大規模の協奏曲から選択するグループです。

バルトーク:協奏曲第2番 ト長調 Sz.95
バルトーク:協奏曲第3番 ホ長調 Sz.119
ブラームス:協奏曲第1番 ニ短調 Op.15
ブラームス:協奏曲第2番 変ロ長調 Op.83
プロコフィエフ:協奏曲第2番 ト短調 Op.16
プロコフィエフ:協奏曲第3番 ハ長調 Op.26
ラフマニノフ:協奏曲第2番 ハ短調 Op.18
ラフマニノフ:協奏曲第3番 ニ短調 Op.30
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
チャイコフスキー:協奏曲第1番 変ロ短調 Op.23

選択ランキングは、「第1群」と打って変わって、特定の曲への偏りを示しました。

第1位 ラフマニノフNo.3  9名
第2位 プロコフィエフNo.3 7名
第3位 ブラームスNo.1 / プロコフィエフNo.2 / チャイコフスキーNo.1 各4名
第4位 ブラームスNo.2 / ラフマニノフNo.2  各1名
選択者なし バルトークNo.2 / バルトークNo.3 / ラフマニノフ・パガニーニ

前回のソヌ・イェゴンも、ラフマニノフの協奏曲第3番で優勝を飾っています。今回もそれに続くか、はたまた別のコンチェルトの名演が誕生するか。

日本の3人は、亀井聖矢さんがラフマニノフ3番、吉見友貴さんと田所マルセルさんがプロコフィエフ3番と、いずれも人気が高かった作品を選択しました。


セミファイナル以降は、たっっっぷりとピアノコンチェルトの世界に浸ることになります。コンチェルトの聴き比べも、ピアノコンクールの醍醐味。楽しみに待ちたいと思います。

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