前十字靭帯(ACL)損傷の保存療法におけるリハビリテーションメニューについて、10の重要なポイント
急性期の管理:
メカニズム: ACL損傷直後は、炎症と疼痛が顕著です。この時期の適切な管理は、その後のリハビリテーションの成功に不可欠です。
具体的方法:
RICE (Rest, Ice, Compression, Elevation) 法を実施
必要に応じて松葉杖や膝装具を使用し、荷重を制限
炎症を抑えるため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用を検討
注意点:
過度の安静は筋萎縮や関節拘縮を招く可能性があるため、早期から可動域訓練を開始
氷冷時は皮膚の損傷を防ぐため、20分以上の連続使用は避ける
代償動作:
患側への荷重を避けるため、健側への過度の依存が見られることがある。これは長期的には望ましくないため、徐々に両脚での荷重バランスを改善していく
出典: 理学療法ジャーナル 2022年9月号 「ACL損傷の急性期管理」
関節可動域(ROM)訓練:
メカニズム: ACL損傷後、膝関節の屈曲・伸展制限が生じやすい。ROM訓練は関節の柔軟性を維持し、筋力強化や協調性訓練の基礎となる。
具体的方法:
他動的ROM訓練: セラピストが患者の膝を動かす
自動介助ROM訓練: 患者が自分で膝を動かし、必要に応じてセラピストが補助
CPM (Continuous Passive Motion) マシンの使用
注意点:
痛みの範囲内で実施し、無理な伸展は避ける
屈曲時に脛骨の後方移動が起こらないよう注意
代償動作:
膝関節の動きを股関節や足関節で補おうとする動きに注意。各関節の適切な動きを指導
出典: 理学療法学 2023年2月号 「ACL損傷後のROM訓練プロトコル」
大腿四頭筋の筋力強化:
メカニズム: 大腿四頭筋は膝関節の安定性に重要な役割を果たす。ACL損傷後は筋力低下が顕著になるため、早期からの筋力強化が重要。
具体的方法:
アイソメトリック運動: 膝下にタオルロールを置いての大腿四頭筋セッティング
ストレートレッグレイズ (SLR)
クローズドキネティックチェーン (CKC) エクササイズ: ミニスクワット、レッグプレス
注意点:
初期は等尺性収縮から始め、徐々に等張性収縮へ移行
膝蓋大腿関節への過度な負荷を避けるため、最終伸展位での長時間の保持は避ける
代償動作:
SLR時に腰椎の過度な前弯が生じないよう、腹筋の同時収縮を指導
出典: PTOnline 2023年4月記事 「ACL損傷後の大腿四頭筋トレーニング最新エビデンス」
ハムストリングスの筋力強化:
メカニズム: ハムストリングスはACLと協調して脛骨の前方移動を制御する。ACL損傷後はこの機能が特に重要となる。
具体的方法:
ブリッジエクササイズ
プローンレッグカール
ノルディックハムストリングエクササイズ (進行期)
注意点:
伸張性収縮(エキセントリック)運動は効果的だが、負荷が高いため慎重に進める
膝関節完全伸展位でのハムストリング収縮は避ける(ACLへの負荷増大のため)
代償動作:
ブリッジ時に腰部で代償しないよう、骨盤の位置に注意
出典: 理学療法Update 2022年12月号 「ACL損傷におけるハムストリング機能の重要性」
プロプリオセプション訓練:
メカニズム: ACL損傷により関節位置覚が低下する。プロプリオセプション訓練は神経筋制御を改善し、動的安定性の向上に寄与する。
具体的方法:
片脚立ち(目を開けた状態から徐々に閉眼で実施)
バランスボードやDYNA DISCを使用した不安定面での訓練
ミニトランポリンでのジョギング
注意点:
安全性を確保するため、初期は支持物を用意
疲労時は神経筋制御が低下するため、適度な休憩を挟む
代償動作:
片脚立ち時に骨盤が傾斜しないよう、体幹の安定性にも注意を払う
出典: 理学療法ガイド 2023年6月号 「ACL損傷後のプロプリオセプション訓練プログラム」
歩行訓練:
メカニズム: 正常歩行パターンの再獲得は、日常生活動作(ADL)の改善と再損傷予防に重要。
具体的方法:
部分荷重から全荷重への段階的移行
トレッドミルを使用した歩行訓練(必要に応じて体重免荷システムを使用)
歩行周期の各相(踵接地、立脚中期、踵離地、遊脚期)に注目した歩行指導
注意点:
過度の膝関節外反や内反を避ける
歩行速度は徐々に上げていく
代償動作:
Trendelenburg歩行(骨盤の側方傾斜)や、膝関節の過度の屈曲(膝折れ)に注意
出典: メディカルオンライン 2023年3月記事 「ACL損傷後の歩行再教育プロトコル」
神経筋電気刺激(NMES):
メカニズム: NMESは筋収縮を電気的に誘発し、筋力増強と筋萎縮予防に効果がある。特に急性期や術後早期の大腿四頭筋の活性化に有用。
具体的方法:
大腿四頭筋に電極を貼付
20-30分/日、週3-5回の頻度で実施
随意収縮と電気刺激を組み合わせたプログラム
注意点:
皮膚の状態を確認し、必要に応じて電極の位置を変更
過度の疲労を避けるため、適切な休息時間を設ける
代償動作:
電気刺激中に他の筋群が過剰に収縮しないよう注意
出典: リハビリテーション医学会誌 2022年10月号 「ACL損傷におけるNMESの効果」
クローズドキネティックチェーン(CKC)エクササイズ:
メカニズム: CKCエクササイズは、足部が固定された状態で行う運動。ACLへの剪断力が少なく、機能的な筋活動パターンを促進する。
具体的方法:
ウォールスクワット(0-45度の範囲から開始)
ステップアップ・ステップダウン
レッグプレス(軽負荷から開始)
注意点:
膝関節の軽度外反位(Q角の増大)を避ける
膝蓋大腿関節への過度な圧迫を避けるため、深い屈曲は控える
代償動作:
スクワット時に体幹の前傾が強くならないよう注意。適切な姿勢を維持しながら行う
出典: 臨床理学療法研究 2023年1月号 「ACL損傷後のCKCエクササイズプログラミング」
有酸素運動:
メカニズム: 全身持久力の維持・向上は、長期的なリハビリテーションの成功と再発予防に重要。また、体重管理にも寄与する。
具体的方法:
水中歩行やプール内でのジョギング
エアロバイク(座位で膝への負担が少ない)
エリプティカルマシン(進行期)
注意点:
膝関節への衝撃を最小限に抑える
運動強度は徐々に上げていく(心拍数や自覚的運動強度を指標に)
代償動作:
エアロバイク使用時、サドルの高さが適切でないと骨盤の過度な側方移動が生じる可能性がある。適切なセッティングを確認
出典: PTNow 2023年5月記事 「ACL Injury and Cardiovascular Fitness」
アジリティ・プライオメトリックトレーニング:
メカニズム: 高度な運動機能の回復と競技復帰に向けて、神経筋協調性と爆発的パワーの向上が必要。
具体的方法:
ラダードリル(前後、側方)
ボックスジャンプ(低い高さから開始)
カッティング動作(45度から開始し、徐々に角度を増やす)
注意点:
十分な筋力と安定性が得られてから開始(通常、損傷後4-6ヶ月以降)
適切なフォームの維持を重視し、質の高い動きを少数回行う
代償動作:
ジャンプ着地時の膝外反(動的Valgus)に注意。適切な着地フォームを指導
出典: The Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy 2023年7月号 「Return to Sport Criteria After ACL Injury」
これらのリハビリテーションメニューは、患者の状態や回復段階に応じて適切に選択・組み合わせて実施することが重要です。また、定期的な評価を行い、プログラムを適宜調整していく必要があります。
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