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視床出血による左片麻痺のケーススタディ


1. 患者情報

  • 年齢:68歳

  • 性別:男性

  • 診断名:右視床出血

  • 手術:保存的治療(手術なし)

2. 現病歴

発症前日の夜、就寝前に軽度の頭痛を自覚。翌朝起床時、左半身の脱力感と感覚異常を自覚し、呂律困難も出現。家族が救急要請し、頭部CTにて右視床出血と診断。保存的加療となり、発症後14日目にリハビリテーション目的で当院転院となった。

3. 既往歴

  • 高血圧症(10年前から内服加療中)

  • 2型糖尿病(5年前から内服加療中)

4. 社会背景

  • 職業:定年退職後、週3日程度パートタイムで働いていた

  • 家族構成:妻と二人暮らし。子供2人は独立し別居

  • 趣味:週1回のグラウンドゴルフ、庭いじり

  • 自宅:2階建て一戸建て、玄関に3段の階段あり

5. 理学療法評価(発症後21日目)

疼痛評価

  • 安静時痛なし

  • 麻痺側肩関節外転時にNRS 3/10の疼痛あり

関節可動域検査(左/右)

  • 肩関節屈曲:120°/180°、外転:100°/180°

  • 肘関節屈曲:130°/145°、伸展:-10°/0°

  • 手関節背屈:60°/70°、掌屈:70°/80°

  • 股関節屈曲:100°/120°、伸展:10°/15°

  • 膝関節屈曲:130°/140°、伸展:0°/0°

  • 足関節背屈:5°/15°、底屈:40°/45°

徒手筋力検査(左/右)

  • 肩関節屈曲:3/5、外転:3/5

  • 肘関節屈曲:4/5、伸展:3+/5

  • 手関節背屈:3+/5、掌屈:3+/5

  • 股関節屈曲:3/5、伸展:3/5

  • 膝関節屈曲:3+/5、伸展:3/5

  • 足関節背屈:2/5、底屈:3/5

その他の評価

  • 感覚障害:左半身に重度の表在感覚障害、軽度の位置覚障害、軽度の運動覚障害

  • 協調性:左上下肢に軽度の協調運動障害あり

  • 痙縮:Modified Ashworth Scale(MAS)で左上肢1、左下肢1+

  • バランス:Berg Balance Scale 32/56点

  • 歩行能力:歩行器使用にて10m歩行、軽度介助必要

ブルンストロームステージ

  • 上肢:Stage V

  • 手指:Stage V

  • 下肢:Stage IV

日常生活動作(FIM)

  • 運動項目:52/91点

  • 認知項目:30/35点

  • 合計:82/126点

詳細な動作分析

歩行分析(歩行器使用):

  • 立脚期:

    • 初期接地で左足部の背屈不足による前足部接地

    • 荷重応答期での左膝の軽度屈曲不足

    • 立脚中期〜後期にかけての左股関節伸展不足

  • 遊脚期:

    • 左下肢の振り出し不足

    • 遊脚終期での左足関節背屈不足

6. 問題点

インペアメントレベル

  1. 左半身の運動麻痺

  2. 左半身の感覚障害(重度表在感覚障害、軽度位置覚・運動覚障害)

  3. 左上下肢の協調性低下

  4. 左上下肢の軽度痙縮

  5. 左足関節背屈筋力低下

ディスアビリティレベル

  1. 歩行能力低下

  2. バランス能力低下

  3. 基本的ADL(更衣、入浴、トイレ動作)の介助必要性

ハンディキャップレベル

  1. 社会参加の制限(パートタイム就労、趣味活動の中断)

  2. 家庭内役割の変化

7. 目標設定

長期目標(8週後)

  1. T字杖を使用して屋内歩行自立

  2. 階段昇降を手すり使用にて自立

  3. ADL(更衣、入浴、トイレ動作)の自立

  4. ブルンストロームステージ:上肢VI、下肢V到達

短期目標(4週後)

  1. 歩行器使用にて病棟内歩行自立

  2. 立位バランス向上(Berg Balance Scale 40点以上)

  3. 左下肢筋力向上(MMT 4レベル)

  4. ブルンストロームステージ:上肢V+、下肢V-到達

8. 理学療法プログラム

  1. 麻痺側上下肢のROM練習(特に肩関節と足関節)

  2. 筋力増強練習(特に左下肢)

  3. バランス練習(静的・動的立位バランス、重心移動練習)

  4. 歩行練習(平地歩行、段差昇降)

  5. 協調性練習(上下肢の反復運動、リーチ動作)

  6. 感覚刺激(ブラッシング、異なる質感の認識)

  7. ADL練習(更衣、入浴動作、トイレ動作)

  8. 患者教育(自主トレーニング指導、リスク管理)

9. 経過

2週目

  • ブルンストロームステージ:上肢V、下肢IV+

  • 歩行器歩行距離が20mまで延長

  • 左下肢筋力MMT 3+レベルに向上

  • Berg Balance Scale 36/56点に改善

4週目

  • ブルンストロームステージ:上肢V+、下肢V-

  • T字杖歩行練習開始、10m見守りレベル

  • 左下肢筋力MMT 4レベルに向上

  • Berg Balance Scale 42/56点に改善

  • FIM運動項目 68/91点に向上

6週目

  • ブルンストロームステージ:上肢V+、下肢V

  • T字杖歩行30m自立

  • 階段昇降(5段)手すり使用にて自立

  • 左足関節背屈MMT 3レベルに向上

8週目(退院時)

  • ブルンストロームステージ:上肢VI、下肢V+

  • T字杖歩行屋内自立、屋外見守りレベル

  • 階段昇降(10段)手すり使用にて自立

  • FIM運動項目 80/91点、認知項目 33/35点、合計 113/126点

  • Berg Balance Scale 50/56点

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リハビリを行う上での知識、治療プログラムのヒントをまとめてあります。レポートなど書く上でも参考になります。

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