あるカードショップの思い出話

トレーディングカードゲームという遊びがある。「子供の頃に遊んだ」「今も遊んでいる」「遊びではなく生業」といった感じにノスタルジックな思い出であり、社会を生き抜く安らぎの一時であり、戦いの場であるという風に万華鏡のように触る人によってその姿を変える。

自分にとってのトレーディングカードゲームは仕事の疲れを癒し、社会を生き抜く安らぎの一時である。自分自身、小学生時代にコロコロコミック経由で始めたポケモンカードゲームがスタートラインでその後、Magic: the Gathering等色々なゲームに手を出していたが対人ゲームの宿命として、周りに遊ぶ人がいなくなるとフェードアウトしていつしか自室を圧迫する紙の束となってしまうことが何度もあった。

話は変わるがカードショップという場所をご存知だろうか?トレーディングカードを売っている店、といえばそれまでなのだが対人アナログゲームを中心に取り扱う店である以上、一癖も二癖もあるのだ。カードショップは量販店と個人店に大別されるが、ある程度マニュアルにより画一化される量販店と異なり、個人店は店長や店員、常連の意向により癖が強くなるものだ。とはいえ、量販店でも例外はあるものである。

今年2月、1つの量販店が閉店した。多くのカードゲーマーからしてみればありふれた閉店であろう。実際、ここ数年でtwitterに上がってくる閉店報告は個人店・量販店に限らず枚挙に暇がない。では何故記事にするのか。理由は簡単である、お世話になったサードプレイスであり、それ以上に自分自身のカードゲーマー観に影響を与えた店だからだ。

ファイヤーボール秋葉原店、秋葉原と銘打ちながらも末広町駅付近から出たほうが近く、店に辿り着くにはエウリアンの魔の手を振り払う必要がある。名が示す通り、量販店ではあるが風変わりな店であった。カードショップってのは商売である以上、売れ筋の商品を扱うものである。日本国内で今売れているタイトルと言えば遊戯王、デュエルマスターズであり、プレイヤー数の多さと歴史の長さでいえばMagic: the Gathering、ポケモンカードゲームであるが、これらの商品をも扱いながら最も同店で精力的に取り扱っていたのがForce Of Will Trading Cardgame (FoW)、日本では聞き慣れないタイトルではあるが遠く離れたUSAでは4番目に売れているタイトルであり、日本生まれのタイトルでもある。FoWが辿った数奇な歴史については割愛するが、こんな数奇なタイトルをメインに取扱い、また自分自身も出会ってしまったのだ、FoWに。

トレーディングカードゲームで何を重視するか、といえば様々な声が上がってくるだろうが自分は「人」と答える。対人アナログゲームである以上、相手がいなければゲームの三文字が抜け落ちてしまうからだ。FoWは日本国内ではプレイヤー数が少なく、常に遊び相手を探す必要があった。そんな苦境の中で、仕事終わりに大会が開催されていて「大会行けばとりあえず遊ぶ相手がいる」という指針を打ち出していたファイヤーボール秋葉原店はFoW継続にあたって大きな励みとなっていた。

遊び相手が確保されていることを知れば遊び相手を探す人が増えて探す人同士が繋がり、コミュニティが拡大する。今となってはFoWは大型量販店でも取り扱われるタイトルとなったが、少なくとも関東圏のFoWコミュニティ最大の貢献者はファイヤーボール秋葉原店であったと認識している。自分自身、ここでFoWを始めたきっかけは同店の体験会であり、FoWを通して仕事外での多くのクリエイター含む友人を得たことは一生の宝だと思っている。

サードプレイスとしても良き場であったということも語っておきたい。会話を邪魔しない程度の音量で流れるジャズ・ミュージック、国内外から集まるプレイヤー、20時以降からでも参加できる大会(注:カードショップにおける大会は「1~2桁数の人間が集まる場」であり大会という単語からイメージされるであろう3桁以上の大所帯とは異なる)といった要素はサードプレイスとしての要素を粗方兼ね備えているのだ。

研究という仕事が自分自身との戦いを年単位で繰り広げるものである以上、ストレスとどう付き合っていくかは長期勤務における課題であった(今も変わらないが)。そんな中で仕事の事を忘れられてかつ、酒の力に頼ることなくストレスを解消し、仕事で得た論理的思考能力を遊びに使えるってのは最高であり、おそらく金曜日のショップ通いがなければ1年と少しで折れていただろう。

転職して関東を離れたことにより、今年からは同店に行けなくなってしまい、終いには閉店前に顔を出す事すら叶わなかったのは2年間通い続けた元常連としては辛い話であったが、トレーディングカードゲームの「人」要素を重視する考え方に辿り着くことが出来たことは行っててよかったと言い切れる。

ありがとう、ファイヤーボール秋葉原店。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?