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2024/08/04 フジファブリック"THE BEST MOMENT"

やっとこの日が来たというべきか、来てしまったというべきか。昨年の「プラネットコロコロツアー」ファイナル公演で発表されてから9ヶ月、Zepp DiverCityで聞いた当時はまさかこんなことになろうとは思っていなかった。SNSでは「いま我々にできることは応援することだけ」なんて書いてしまったし、実際メンバーの決めたことなので受け入れようと思ってはいるのだが、それにしても楽しみなだけではない、少し複雑な感情を拭えないまま有明へと向かった。

私個人としてはこの会場はこれで5回目ということですっかりお馴染みなのだが、実はフジファブリックがこの規模の会場でやっているところを見るのは初めてで、ここに来ている全員がフジファブリックファンだと思うと不思議な感覚である。バンドとしても、富士急を除けばワンマンでは城ホ、国技館、武道館に次ぐ規模だろうか。
開場は16時で、開演は17時。8,000人キャパの会場としては開場〜開演が短い気もするが、以前この会場で見たユニゾンやクラムボンも同じく1時間だった。比較的新しいホールなので、客の動線などが現代の水準で設計されている成果かもしれない。

同じく20周年記念を銘打って4月に開催された公演では開演までステージに幕がかかっていたのだが、今回は開場時からフルオープンの状態だった。特筆すべきは、ステージ後方下手側に見える見慣れないパーカッションセット。客席からは「ドラマーが2人いる?」なんて声も聞こえてきた。SNSでは前回のバズリズムライブからパーカッションの朝倉真司を加えた5人編成でライブを敢行していたことが既に明かされていたので、自分としては今回一番楽しみしていた部分でもある。ツインギター5人編成のフジファブリックは映像で何度も見てきたが、パーカスを加えた編成は20年の歴史でもおそらく初めてのはず。一体どのような化学反応が起きるのか、とてもワクワクしていた。


20年を振り返るオープニング映像

開演時刻の17時を少し過ぎると会場が暗転。2021年以降、アルバム『I Love You』収録のインスト曲"LOVE YOU"をSEとして使うことが多く、また今年に入ってからは最新アルバム『PORTRAIT』のラスト曲である"ショウ・タイム"をSEなしで1曲目に演奏するパターンもあったのだが、今回はステージバックの液晶に映像が映し出されてのスタートとなった。
映像では、これまでリリースしたアルバムのジャケットと、そのアルバムリリース同時期のライブ映像が流されるというもの。いかにも20周年記念公演らしいオープニングだった。

ライブ定番曲連発で一気に盛り上げる序盤

そしてドラムスの伊藤大地を含む4人が下手側から入場。伊藤の6カウントからはじまった1曲目は"STAR"だった。志村の急逝後、3人での再始動の狼煙を上げたこの曲を最初に持ってくるのは、バンドの記念公演として大きな意味を持っているのではないだろうか。
2曲目の"夜明けのBEAT"は実は久しぶりのセットリスト入りである。ドラマーの「いち!に!さん!」の掛け声でスタートするのが恒例だが、この日の伊藤はかなり力のこもった声でカウントをしていた。フジファブリックの魅力のひとつに、名うてのスーパードラマーたちがゴリゴリのバンド演奏を繰り広げるところがあると思っているのだが、それを象徴するかのようなシーンだった。間奏では山内が前に出てギターを弾き倒し、最後には背面弾きも披露していた。
そしてさらに"徒然モノクローム"へと続く。20周年の記念公演とはいえ、初っ端からこの3曲は飛ばし過ぎでは…と思ってしまうような曲順。これでもまだまだ名曲・代表曲が尽きないのだから、フジファブリックの20年の重みを感じてしまう。間奏で「ガーデンシアター!!」と叫ぶ山内の姿に少し安心感を覚えた。同じく間奏では加藤が金澤の前に仁王立ちするも、金澤に煙たがられ追い払われてしまうシーンも。このあたりはいつも通りのフジファブリックである。
"電光石火"はタイアップ付きとはいえミニアルバムからのセレクトで、少し意外な選曲にも思えるが、疾走感のある曲調はライブのオープニングにもってこい。この曲も何度かライブで聴いてきたが、この日の間奏の金澤のソロはシンプルながらも情熱がこもった過去最高の仕上がりだった。常に最高を更新できるメンバーの凄さを感じる一方で、それを20年続けるためにどれだけのものをかけてきたのか、どれだけすり減らしてきたのかと考えてしまった。そのあとの「愛すべきyesterday さよならを言うのさ」「夢のない未来にさよならを言うのさ」という歌詞も刺さる。

朝倉が加わり厚みを増すバンドサウンド

ここで最初のブロックが終わり、山内のMCが挟まる。「今日は特別な日です」「フジファブリックというバンドのすべてを見せたいと思います」というようなことを話していた。少し口調は重たいようにも感じられたが、かといって深刻そうな様子もなかった。
また、MC中には新顔・朝倉がイン。近年ではあいみょんのサポートメンバーとしてお馴染みの彼を、まさかフジファブリックで見る日が来ようとは…ちなみにドラムの伊藤とはハシケンのサポートでタッグを組んだことがあるようである。

5人編成のフルメンバーになってはじまったのは"プラネタリア"。最新シングル曲かつアルバムにも収録ということで、昨年後半からはセトリの常連入りをしている曲だが、朝倉が加わったことでこれまでにない華やかさが曲に現れた。
続く"Green Bird"では、普段は同期音源に入っているリバースシンバルを朝倉が生演奏で再現する(聴き間違いでなければ同期に被せて演奏していたように思う)。なるほど、パーカッションがいるとこういう部分も再現ができるのか…と感心してしまった。また、今回のライブグッズにはペンライトがあり、手にしているファンが多かったのだが、この曲ではタイトルに合わせてファンが一斉にカラーを緑に切り替えていたのも印象的だった。ステージから見ていたメンバーはさぞ美しく映っただろう。

金澤のMC、直近アルバム2作からのキラーチューン

ここで演奏が止まり、もう一度MCが入る。いつもMCパートでは笑顔でおちゃらけている金澤が、いつになく真摯な眼差しで20年という節目で区切りをつけることにしたこと、その思いを受け入れてくれた山内・加藤には感謝をしていることを口にした。客席からは早くもすすり泣く声も聞こえてきた。このMCを聞いて、「本当に活動休止してしまうんだな」と実感した。活動休止について思うところはいずれまた別途まとめて文章にしようと考えているが、彼がこの場でこの言葉を口にするまで、どれだけの葛藤やどれだけの議論、どれだけの思いがあったのだろうと想像すると胸が苦しくなった。

そんなMCのあと披露されたのは、金澤作詞曲の"楽園"。Dr. STONEのタイアップが付いたこともあり、新たな層へフジファブリックの音楽を届けた2020年代における代表曲のひとつと言えよう。この曲では、ステージ上で炎が上がる演出があったが、アリーナ席前方にいた私のところにも大きな炎が上がるたびに熱気が届いていたので、ステージのメンバーは相当熱かったのではないだろうか。機材は大丈夫なのかと余計な心配をしてしまった。
更に続けて最新アルバムから"KARAKURI"を披露。アルバムの中でもフジファブリックの持つ変態性にプログレ的要素が加わった一曲だが、この曲も朝倉が加わったことで進化していた。「軽快に太鼓鳴って〜」の部分はタム回しが曲の独特のリズム感と不気味さを作っていくのだが(全くを以て軽快ではない)、伊藤はどちらかといえばビートを作ることに専念し、朝倉はタム回しを手伝いつつ様々な楽器に手を伸ばして曲の複雑さを演出する。ドラマー1人では限界があるところを2人がかりで演奏し、まさに「からくり」を体現したような様相だった。この様子が映像化されるのは非常に楽しみである。


志村と5人で届ける"普段通りのライブ"

会場がKARAKURIの余韻に包まれているさなか、朝倉が退場し、山内の足下ではスタッフが何やら作業をしている。何かが始まるな、と感じたところで、山内がこう告げた。「志村くんといっしょに演奏しようと思います。」2011年以降の現体制のフジファブリックで、志村がステージ上でマイクを持ったのは記憶が正しければ2回のみ。1回目は2014年の10周年記念公演、武道館のステージ上での"茜色の夕日"。2回目は2019年、念願の出演となったミュージックステーションでツインボーカルで披露された"若者のすべて"。そしてそれに続く3回目が、今目の前で繰り広げられようとしていた。

ギターの最初の一音が鳴って驚いた。演奏されたのは、予想だにしなかった"モノノケハカランダ"だったからだ。もちろん、曲としてはライブを盛り上げるアッパーチューンで、山内のギター背面弾きも飛び出すなど盛りだくさん。ただ、志村くんと一緒に演奏をするというシーンでこの曲を選ぶというクセの強さには、どちらかというと感動ではなく笑いの感情を覚えていた。
しかしその演奏が終わっても、志村はステージを去る様子がない。なんだろうと思っていると、今度は彼は金澤のピアノに乗せて"陽炎"を歌い出した。1曲だけだと思っていた志村のボーカルは、まさかの2曲目に突入したのだ。そしてこの曲の演奏中、モニターにはステージ上の山内・金澤・加藤・伊藤を生で映す映像と、志村の歌唱姿を収めた映像が織り交ぜられて表示されていた。
このあたりで気がついた。武道館やMステは、死んだはずの志村正彦がステージに立つという特別感のあるものだった。だが今回は違う。志村を含む5人のフジファブリックが、普段通りにライブをしているのだ。いきなりモノノケハカランダがはじまったのも、「この曲だけは志村に歌ってもらおう」と特別に用意したのではなく、普段通りのセットリストの一部を志村に託したからではないだろうか。20周年を祝う特別なライブではあるのだが、今この瞬間に5人で音を生み出すという意味では、普段と変わらないライブがここで行われているのである。
アウトロの金澤のピアノの音が終わり、その余韻が消えるか消えないかのタイミングで今度は"バウムクーヘン"がはじまる。個人的にこの曲には自分を重ねて聴くことが多く、思い入れが強い。普段あまり歌詞をじっくりと眺めることがない自分だが、この歌詞は何度も読み返してきたのだ。まさかこの大切な詞を、志村が自分の目の前で音楽に乗せてくれる日が来るとは思わなかった。この曲がレコーディングされたスウェーデン・ストックホルムで楽しそうにする4人の映像も相まって、いっそう目頭が熱くなってしまった。
そして志村は最後に、いまやバンドの代表曲になった"若者のすべて"を披露した。他の3曲も同様なのだが、この曲は特に志村と山内のツインギターが印象的だった。山内は普段この曲ではバッキングギターとリードギターの双方のパートを組み合わせたような演奏をするところ、この日はかつてのようにバッキングを志村のアコギに託してリードに徹していた。4人の演奏に志村の声を載せるだけでなく、ギターも志村が演奏鳴らす。紛れもなく5人編成のバンドだ。
極めつけは、アウトロで山内が弾いたのはここ数年よく演奏するライブアレンジのギターソロ。志村存命時にはなかったはずのアレンジが、志村のアコギに乗って響く。2024年のフジファブリックにも志村がいるのだ、と確信させてくれるシーンだった。

後にX(Twitter)で知ったのだが、今回の志村の同期音源は、1stアルバムのプロデューサー・片寄明人の手により、この日のために用意されたものだという。基本的には発売音源と同じものだが、ライブでの演奏に近づくよう、エフェクトを外して生々しさを出したそう。片寄の尽力があったからこそ、バンドが"いつも通りのライブをしている"というように見えたのだと思う。本当に素晴らしいシーンを目撃してしまった。


曲もMCもゆったりな中盤ゾーン

若者のすべての演奏が終わり、山内がセンターへ戻る。一度捌けていた朝倉も再び合流。そして、印象的なギターフレーズと共に"water lily flower"がはじまる。この曲の幻想的な雰囲気を一層引き出していたのは、やはり朝倉ではないだろうか。パーカッションというのは、ある意味では楽曲のオマケの部分である。ビートを作っているわけでも、コードを鳴らしているわけでもない。そのためにライブでは省略されてしまうことも多いのだが、だからこそライブにパートとして加わると曲の奥行き、深みがグッと増す。特にこういった演奏の余白の部分を聴かせるような曲ではその存在感が大きい。フジファブリックにパーカッションがいたらこんなに素晴らしい演奏になるということに、これまで気づけなかった自分が恨めしくなるような演奏だった。

ここでこれまで全曲を叩いていた伊藤が退出し、山内がこう告げた。「次はアコースティックな曲をやるので、皆さんどうです、ガーデンシアターの椅子の座り心地を確かめてみませんか?」山内は4月のLINE CUBE SHIBUYAでも観客に椅子の座り心地を確かめさせていた。どうもこのセリフが相当気に入っているらしい。
「バンドを20年やっていて、自分も歳をとって、寂しさを感じることが増えてきた。でもそれは決して心地の悪いものではない。それを歌にしました。」と話し、披露されたのは"月見草"。メンバー3人+朝倉という編成で、この日唯一のレコーディングメンバーそのままの編成で披露された曲となった。加藤はセミアコベース、金澤は鍵盤ハーモニカ、朝倉はジャンベ、山内はアコギそしてお馴染みの"くちトロンボーン"と、それぞれの楽器を持ち、哀愁を持ちながらも温かい演奏を繰り広げた。

月見草の余韻に浸るのも束の間、加藤が「さあやるか!」と掛け声をかけて始まったのは、演奏ではなく"加トーク"のコーナー。いつもに増して張り切っているように見える加藤だが、彼のおかげでこれまでのMCの少し重たい空気が吹き飛んだ。志村含めかなり個性は揃いのフジファブリックのメンバーだが、実はこういうバランスを調整していたのは加藤だったのではないか…と思うような立ち回りだ。
そんな加藤は、お馴染みの謎かけを披露。20周年というお題に対して、悩み始めたかと思えばものの数十秒で「ととのいました!」と声を上げる。「"20周年"と掛けまして、"ペット"と解く。その心は、どちらもめでたい(愛でたい)でしょう!」再始動後のフジで多くの作詞を担当してきただけあり、その才能は今日も炸裂。もはや仕込みを疑うレベルの出来栄えであった。

再びキラーチューンを連発しつつラストへ向かう

"加トーク"の間に伊藤もステージへと戻り、再び5人編成で披露されたのは"東京"。この曲は、音源では河村"カースケ"智康のドラミングに玉田豊夢のパーカッションが重ねられているのだが、リリースから5年の時を経てついに生のパーカッションを入れて披露される日が来たと思うと感慨深い。伊藤のタイトでキレのあるドラム、加藤の踊るようなベースライン、金澤の絡みつくようなクラビネットの音も最高だ。フジファブリックのグルーヴ最も感じられるのはこの曲かもしれない。
そして演奏は"LIFE"へ。一瞬の出来事だったので定かではないのだが、記憶が正しければこの曲の間奏に差し掛かったところでちょっとした事件が起きていた。ソロを弾き始めようとした山内が、エフェクターを思い切り踏み間違えたのだ(恐らくスライサーを踏んだ)。慌てて足下を確認した山内は、その後客席に「今の見た?」と言わんばかりに笑みを見せ、更に上手側舞台袖に立つマニピュレーターとも顔を見合わせて爆笑。確かくるりの岸田繁が山内を"ギター少年"呼ばわりしていたことがあったと思うが、彼の無邪気な笑顔はまさに少年のそれだった。
ここから本編もラストスパートがかかり、自他ともに認める変な曲こと"ミラクルレボリューションNo.9"で観客を踊らせる。かつてはMVにも登場するあの謎の振り付けをメンバーと共に練習する時間が曲前に設けられていたのだが、この日はもはや説明も何もなしに楽曲を演奏。それでも、あの大きな会場でアリーナからスタンドまで皆が両手を挙げているのだから大したものである。そして極めつけにラストサビでは銀テープが飛んだ。普通、銀テープというのは明るいアッパーチューンで飛ばすものだと思うのだが、やはりこのバンドは普通ではなかった。銀テープを持った観客が変な曲にのせて手を左右に振るという、愛すべき異様な光景を作りながらこの曲の演奏は終わった。
そしてさらに、バンドにとってもうひとつの振り付き曲である"Feverman"へと続く。この曲は祭囃子のようなドラミングにヨナ抜き音階のメロディーが乗ったオリエンタルな雰囲気の曲なのだが、ここでも朝倉のパーカッションが炸裂。伊藤と朝倉でいつも以上に"お祭り感"のあるリズムを奏で、客を踊り狂わせていた。
2曲連続のダンスナンバーで熱を帯びた会場に、"星降る夜になったら"のイントロが鳴り響く。思えばこの曲もシングルカットされていないただのアルバム曲なのだが、志村存命時からのライブ定番曲として数多の会場を盛り上げてきた。個人的にこの曲のBメロが大変気に入っている。ドンドコと雷のようになる大太鼓の音が、「雷鳴は遠くへ」という歌詞に合わせるかのように一気に晴れて16分の疾走感あるビートに切り替わる構成なのだが、これをライブで演奏しようとするとドラマーの腕があと2本必要になり、これまではどうしても省略せざるを得ない部分になっていた。ところが今日、これまた朝倉が加わったことによりライブでこの再現が可能となったのである。非常に細かい点だが個人的には大きな変化であり、映像化されたあかつきにはぜひ皆さんもここを確認して欲しいと思っている。


毎日がショウ・タイム

山内がマイクを取り、「今僕たちはこうしてショウ・タイムをしてるんですけど、この瞬間だけがショウ・タイムなわけじゃないんです。」と語る。"LIFE"の歌詞にも現れていると思うのだが、山内はありふれた日常の一瞬一瞬、ハレとケで言えば"ケ"を大切にしたいという人生観を持っているようで、それに寄り添う音楽を作ることを志しているように思う。「帰るまでもショウ・タイム。明日もショウ・タイム。いちいちショウ・タイムなんです。」うん。「皆さんは何を言ってるんだこいつはと思ってるかもしれませんが、僕も思ってます。」やっぱりな。さすがは言い間違いから名曲を生む男、曲も、そのメッセージも素晴らしいのに20周年記念公演のMCでこれである。

そんなMCに続いて、本編ラスト曲の"ショウ・タイム"へ。直前のMCで山内が「組曲みたいな曲」と評していたが、まさしくそのとおり途中で何度も拍子が変わるこの曲。それでも安定したグルーヴで曲を演奏し続けられているのは、さすがはベテランバンドである。
この曲の音源を初めて聴いた時、このバンドはとんでもない曲を生んでしまったなと感じた。この曲を一言で表すなら"壮大"という言葉が会うのではないかと思うが、一方でその形容詞が使われる曲の多くに使われているであろうストリングスやホーンセクションがこの曲には入っていない。純粋に曲とバンドサウンドだけでこの壮大さを表現できるバンドはなかなかいないのではなかろうか。それはライブにおいても同様である。一部同期音源を使ってこそいるものの、ひとつひとつの楽器と歌が会場を包み込み、観客を圧倒していた。正直なことを言えば、この曲を携えてさらに進化していくフジファブリックをもっと見ていたかった。それくらい可能性を感じる曲なのである。
この曲でこの日の本編は終了。曲の歌詞のとおり、嵐のような拍手に包まれた会場をメンバーは後にするが、当然拍手は鳴り止まなかった。

再び志村が立つアンコール

メンバーが去ってしばらく経ったあと、ステージのモニターには映像が流れる。最新アルバム表題曲"Portrait"のインスト音源に乗せて、メンバーのオフショット的な映像が流れる。時に楽しそうに戯れあい、時に真剣に曲を作る映像を見て、彼らがこの20年間の全てをかけてこのバンドに向き合ってきたのだなと改めて感じた。新体制も旧体制も通して、全ての積み重ねが今のフジファブリックを作っている。そんなメッセージを感じる映像だった。

明転したステージには再び志村が立っていた。「この曲を歌うために、僕はずっと頑張ってきたような気がします。」という、故郷・富士五湖文化センターでのライブ時のMCに続いて"茜色の夕日"の演奏が始まる。志村の曲を多くの人に届けるという目的を再始動の理由としていた現体制のフジファブリックで、この曲だけは山内が頑なにボーカルを取らない。それだけ志村にとって思い入れの強い曲だったのだろうし、それを残されたメンバーが尊重してのことなのだろう。ただ、この日の演奏を目撃した私は、この曲は志村の曲であると同時にフジファブリックの歴史そのものでもあるようにも感じた。結成当初から存在し、歴代のメンバーと何度もリアレンジ・再録が繰り返されてきた。志村の故郷への凱旋公演やデビュー10周年記念公演、そして今日の20周年記念公演でも演奏されている。この曲こそが、常にバンドとともに歩んできた曲なのだ。そんなことを思って、ホールに響き渡る音に耳を傾けていた。

ひときわ大きな拍手のあと、口を開いたのは金澤だった。金澤は、今日のライブには志村家の方や片寄が携わっていることを明かした。20周年というこのタイミングで片寄と再会できたのも、志村が引き合わせてくれたからではないかと思う、短かったかもしれないが、志村と過ごした時間が今の自分を作っている、とも話していた。加藤は志村とともに演奏できた喜びを語り、山内も志村にバンドに誘ってもらった当時を振り返る。自分のバンドが20周年を迎える大変めでたい日なのに、3人とも志村の話ばかりをしている。この15年間も志村と共に歩んできたのだなと再認識するとともに、志村を心から大切に思う3人の人柄もよく現れているなと感じるMCだった。

朝倉がステージに戻り、金澤がギターに持ち替える。「これからもフジファブリックをよろしくお願いします!」という山内の締めの言葉のあと演奏されたのは、何かのはじまりを予感させるような壮大な曲調の"破顔"。このタイミングで、しかもアンコールで、このMCに続いてこの曲を選曲するとはなんと粋なことだろうか。曲を通して鳴っている心臓の鼓動のようなビートは伊藤・朝倉の両名により生み出され、いつも以上の厚みを持って訴えかけるように客席に響き渡っていた。
そして、最後は底抜けに明るく"SUPER!!"で締めくくる。かつてはこの曲でもギターを手にしていた金澤だが、ここ2年ほどはキーボードを弾くようになり、曲のきらびやかさが強調されるようになった。その雰囲気がホールであるこの会場にもよく似合う。メンバーにも観客にも様々な思いがあるなかで、突き抜けるような明るさのこの曲で公演を終えたことには大きな意義があったと思う。

全ての曲目が終了し、山内の「みんなで写真撮ろ〜」という激ゆる声掛けにより、全員で集合写真を撮影。ライブは幕を閉じた。


まとめ

デビュー20周年の記念公演と銘打って行われたワンマンライブは4月の"NOW IS"と今回の"THE BEST MOMENT"の2本であったが、アルバムPORTRAITのリリースライブのような様相であった前者に対し、今回は志村の存在にフォーカスしつつ20年間の歩みを振り返るような構成であり、良い意味で対照的な2公演だったと思う。どちらのライブも非常に名演だっただけに、今回の"THE BEST MOMENT"にしか映像収録が入らなかったのは非常に惜しいところだ。とはいえ、今回だけでも映像に残ってくれるのは大変ありがたいことであるので、リリースされるその時を楽しみに待っていようと思う。
今回のセットリストでは、バンドの歴史を語るうえで欠かせない曲たちがピックアップされていた。だが、フジファブリックにはあまりにも名曲が多すぎて、聴きたい曲はまだまだ山ほどある。現状発表されているワンマンライブは今回の公演が最後であるが、MCで山内は活動休止のリミットである2月にもライブが控えているようなことを漏らしていた。バンド側が20周年を全力で駆け抜けると宣言しているからには、こちらも全力で受けて立つ構えだ。あと半年、悔いが残らないよう全力で楽しみ、楽しませてくれることを期待したい。

セットリスト

M1. STAR
M2. 夜明けのBEAT
M3. 徒然モノクローム
M4. 電光石火
M5. プラネタリア
M6. Green Bird
M7. 楽園
M8. KARAKURI
M9. モノノケハカランダ
M10. 陽炎
M11. バウムクーヘン
M12. 若者のすべて
M13. Water Lily Flower
M14. 月見草
M15. 東京
M16. LIFE
M17. ミラクルレボリューションNo.9
M18. Feverman
M19. 星降る夜になったら
M20. ショウ・タイム
M21. 茜色の夕日
M22. 破顔
M23. SUPER!!

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