選手としての経験ーオフライン大会で遭遇した困難と対策


 オフライン大会が遠くなったこの2年、だからこそ過去の大会の経験を振り返っていました。この記事はそれを簡単に整理したものです。

前半は基本的な心得のようなもので、経験者は読むまでもなく知っているかもしれません。後半は経験したトラブルの例です。

 過去10年のRTSでの選手活動に基づくもので、そう起きないような話も含まれていますが、トラブルに動揺しないように事前に悪いケースを想定しておくことには一定の意味があると思います。昔に比べてeスポーツ業界が発展しているといっても、個々の大会の予算や準備期間次第で不便や不備は起こるものです。

持ち物:温度調整できる服は必要

  会場の温度が適温になっているとは限らず、暖を取るためのホッカイロなどを用意してくれているとも限りません。
  空調設備の位置の問題で自分の席の周りがやけに暑い/寒いということもありえます。
  脱着して温度調整できる服を持っていくこと、ホッカイロなどを準備しておくことは重要です。チームに所属している場合は上着でスポンサーロゴが隠れる問題について何かしらの方針があると思いますので確認しておくべきです。

持ち物:設定ファイル

 ゲームの設定ファイルなどは常にUSBメモリなどに入れて携帯していました。自分のアカウントに保存されているゲームであっても自分のアカウントにアクセスできなくなるトラブルや、運営から提供されたアカウントでプレイが求められる場合に有用です。
私は念のためオンラインストレージにも保存し、さらに設定数値やホットキーファイルの記述なども印刷して携帯していました。


 中国の大会のときはこんなこともありました。クライアントがデフォルトだと中国サーバーしか接続できず他のサーバーが選択肢に出て来ない。通常他国からアクセスできない中国サーバーには育ったアカウントなどないので、練習ができない。しかし他の選手を見ると韓国サーバーなどに接続して自分のアカウントで練習している。聞いてみるとxmlファイルの設定で回避する方法があるそうで、詳しい中国の選手がファイルを持っていてその人にもらったと。筆者はちょうどUSBメモリを持っていたのでその場でその人から受け取って時間ロスが抑えられました。

普段に近づける:マウスコードのクセの変化

  今どき無線のゲーミングマウスを使ってる人が多いかもしれませんが、愛用マウスが有線の場合、コードをまとめて持ち運ぶことによってマウスコードのクセが変化してしまう事は覚悟しましょう。
  普段からたびたび持ち運びする時の形に片付けたり、商品パッケージに入れるなどして一定のクセを再現する手もありますが、かなりの手間です。
クセの影響を受けにくいコードホルダーからの距離などを見つけておくほうがいいでしょう。

  デバイスの配置とそれぞれの距離などを記録しておいて、現地でもメジャーで測るなどして環境を一定に保つことも考えられますが、机の大きさによってはキーボードとマウスの距離や机手前の端からマウスまでの距離など変えざるを得ない事もあり、いつもと同様のセッティングが出来るとは限りません。
  椅子と机の高さなども違いますしトータルとしていつもと同じになることはありえません。
  最終的にはその場で一番しっくりくる形を探すしかないと思っています。

普段に近づける:机や椅子の高さ・形態

  特に机と椅子との相対的な高低差が普段と違うとやりにくいです。高さの調整できる椅子の場合は調整を頑張りましょう。
  椅子の高さが調整できないような折りたたみ椅子である場合は調整は難しいです。座布団などを持参して物理的に高さを水増しすれば別ですが、荷物も増えますし限度があるでしょう。
  経験上一番やりにくかったのはやけに狭い横幅しか確保されていないケースです。私はキーボードとマウスをそれほど離すタイプではなく、Mサイズのマウスパッドの端と109キーボードの端をくっつけるくらいですが、それでも窮屈でした。机の下も奥行きが浅くPCや配線が設置されている関係で足を動かす遊びがなく縮こまるようになって非常にやりにくかったですね。最初から用意されてるスペースがそれだけなのでどうしようもありません。


  よく大会に協賛しているゲーミングチェアメーカーのゲーミングチェアを使っていれば同じ椅子になる可能性が上がるというハックもありますが、大会・ステージによってはそもそもゲーミングチェアですらないかもしれません。
  普段背もたれを倒してプレイしている場合、折りたたみ椅子など背もたれが倒せない椅子ではいつもと同じ感覚でプレイできないリスクがあります。

ウォームアップの時間が全く取れないケース

  実績がある運営組織ならハンドスキルの必要な競技では普通ウォームアップの時間は用意してくれているものの、あまりにもスケジュールが狂ってしまった場合など、ほぼウォームアップ出来ないという悲劇も起こってしまいます。
  厳しい話になりますが、これも考えられる最悪のケースとして普段から覚悟しておいたほうが良いでしょう。
  どうせ出来るものだと当て込んだ上で出来ないとなると動揺してしまうリスクがあります。

机の上が滑るテーブルクロス

  机の上にテーブルクロスが敷いてあり、マウスパッド裏面加工との相性によってマウスパッドが滑ってしまったことがありました。
  その時は気づきませんでしたが、テーブルクロスをめくって机のうえにじかにマウスパッドをおくか、可能なら養生テープなどでマウスパッドを固定したほうがよかったでしょう。(もちろんやる前にスタッフに了承を取るべきです)

世界大会で海外選手との相部屋

 予選を勝ち進んではじめて参加できるような世界大会では旅費・宿泊先が主催持ちという嬉しい条件のことも多いですが、特に個人競技だとホテルの部屋が誰かと相部屋になることが珍しくありません。海外選手と同じ部屋になって英語なりでやり取りするしかない事は想定しておいたほうがいいです。向こうも真面目に競技しに来てる選手なのでそうそう変な人に当たることもないと思いますし、上手い人と仲良くなって情報交換するチャンスでもあります。今どきはDeepLも優秀だし英語苦手でもやりやすそうですね。

共同生活上の意思表示は積極的にすればいいと思います。「○時にアラームかけたいけど大丈夫?」など相手にも影響することに関して気を遣うだけで全然違います。イビキなどの問題は運です。耳栓やイヤーマフを準備して目覚ましはバイブレーションで起きるのもアリです。


■集中力を妨げる要因


・ステージからの音声(他競技実況・アナウンス・パフォーマンスなど)

  ステージ上でブースに入ってやるような試合になるとよそからの音声も聞こえなくなりますが、DH / IEM / WESGのように複数競技にまたがるメジャー大会の現地予選やグループステージなどは開けたエリアで他競技と同時進行するのが普通です。
 よって最初のほうの日程ほど外部からの音とも戦いながらのプレイになることは覚悟しておく必要があります。
 ステージ上で音楽グループのパフォーマンスが行われている中で試合となったこともありました。

・モニタに反射する照明演出

   会場が照明演出としてクラブのようにカラフルな光を浴びせている場合、モニタや顔に光が当たってチカチカすることがあります。
  あくまでステージ上の演出だったとしても、場末のグループステージ用の席にまで届いてきたりします。以前、海外大会でこういった状態に遭遇し、「モニタに反射して非常に見辛いのでどこかから光避けになるようなもの、パネルなどを持ってきて席の横に置いたりできないか?」と交渉してみましたが相手も同じ条件だからと却下された経験があります。
  最悪のタイミングで目くらましが起こった場合の、通常より楽で簡潔な操作方法なども念頭に置いておくとよいでしょう。


・モニタの向こう側での人の動き

  カメラマン、スタッフや審判、あるいは観客などがモニタの向こう側で動き回る可能性があるので、モニタ以外の視覚情報を意識からシャットダウンする必要があります。
  特にカメラなどは「こちらを見ている」ことが明らかなため気を散らされやすいです。
  ゲーム序盤から自分の視線を、数値表示・ミニマップ・画面中央に一定のテンポで意識的にサイクルしていくなどするとモニタに集中しやすくなります。
  ゲーム内の要素だけでサイクルを形成して、そこに意識を配り続けるのです。
  ゲーム中に現地で何が起こってもそれでミスしたら自分の失点なので、他人に無関心になることが望ましいでしょう。
筆者はフラッシュ撮影禁止と会場でアナウンスされているにも関わらず誰かにフラッシュを焚きながら写真を何度も撮られて非常にプレイしにくかったことがあります。
  そういった風に良識の足りない人間に邪魔をされたとしても、結局それは誰も責任をとってくれない「起こってしまったこと」でしかないので、自分で出来る限りのことをするしかありません。


・せっかちな審判

とある大会で最初のうちは審判がせっかちで毎回マップ選択を急かされましたが、本当に次どうするか迷ったのでWait a minute I'm thinking it over...といって少し考えさせてもらったあとからは催促のペースが落ちたということがありました。
  ルールの範囲内であれば遠慮せずに「少しだけ待って下さい、考え中です」などの意思表示をしたほうが自分のペースを保ちやすくなるでしょう。
  ルール的にはゲーム終了後は次のゲームを5分以内に準備するなどとハンドブックの細かいところに書かれていることもありますから、ルールを逸脱しないよう把握しておきましょう。


スタッフが「GGしてください」!?

  海外で大会中、配信者と思しき人に招待されて試合を開始したのに、試合中にスタッフから「GGしてください」と言われたことがありました。

「確かにこの相手とは実力差もあるしかなり不利になってるけど、嫌がらせの時間稼ぎをしているわけでもなくまだ戦えるのにGGを強制するような運営なのか??」と、煽られているような気分で混乱しながら「しないといけないんですか?」と聞き返し、やはり「GGしてください」とさらに二度繰り返されたため悲しい気持ちで指示に従いましたが、あとで実はその人が他の担当との連携がうまくとれておらず、ただのウォームアップゲームと勘違いして「練習を終えて試合を開始するためにGGしてください」という意図で言っていたと判明したことがありました。


  すでにかなり不利だったので諦めもつきましたが、常識的に考えて悪質な遅延行為以外でGGを強要されるようなことはありえないため、次以降は同じようなことがあったら「試合中だぞ」と叫んででもプレイに集中しようと誓いました。
  通常大会には「ルールに記載されていない事態などでは運営側が裁量権、最終決定権を持つ。その判断に従うこと」といった規約に同意して参加するとは思いますが、いかに運営の判断といえども明らかに常識と食い違う場合は(失格にならないよう紳士的態度で)一度異議を唱えたり説明を求めていいでしょう。

スタッフによって言うことが違う!?

 海外大会で、スタッフによって言うことが食い違っていて混乱することがありました。推測もありますが、どうも複数の組織が共同で運営していて一つの指揮系統になっていないことに起因しているようでした。

 そもそも渡航前のやり取りの段階でも運営からのレスポンスが1週間かかったり、渡航チケット情報など必須事項の伝達すら遅延していてギリギリのタイミングになっている選手もいるということを海外代表選手のいるコミュニティの中で把握していたので、Twitterで他競技の日本代表選手と連絡先を交換して情報交換したり、現地取材に来る方と連絡をしたりしてサバイバル力を高めるように努めました。現地においては少しでも曖昧な点はヘッドアドミンなどなるべく上の人に再確認するように努めました。

アカウントロック

  筆者は海外大会に出た時、バトルネットへの新規接続元からのログイン時の認証がSMSですべて完結するように設定していたのですが、実際にやってみると登録メールアドレスに送られたパスコードでしか解除できなくなっていたことがあり、登録メールアドレスへのログイン手順は万全ではなかったため大変手間取りました。
  二段階認証の設定や、スマートフォンにSMSで解除コードが届く設定などを事前にしっかり確認しておくのはもちろんのこと、上手く機能しなかったときの代替認証手段も含めて準備しておくことが望ましいでしょう。


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