運ゲーだと受け入れるというメンタル管理


RTS、あるいは競技性の高いゲームは実力がほぼ全てだという認識を持っている方もいると思うので、あえて運の側面に着目してみたいと思います。

実力を問わず必ず負けはある

普通ある程度ゲームバランスのいい対戦ゲームは「これだけやってれば最強」という絶対の答えはなく、有力な戦略が何すくみかになっているものなので、選択したキャラや戦術の相性で運が絡む部分もどうしても残るわけです。


プレイヤーの技術のウェイトがいかに重く見えるゲームであっても、よほど実力差がなければ本当に必然の勝利といえるものはありません。勝負の世界を色々見てもトッププロ同士で戦って7割も勝率を出している人がいればもう別格の化け物とかレジェンドと呼ばれるわけです。逆にどれだけ強い人でも2割3割の負けをなくすことはできないわけです。

皮肉な負け


また、選択肢の多いゲームにおいては、未熟なプレイヤーが理解度の低さゆえにリスクの高い行動をそうと認識せずに取ることができ、結果有利になるという皮肉な逆転現象も時には起こります。
天然ボケの大胆さは、ゲームをよく理解している玄人の「相手は危険過ぎるこの選択肢は取れないから除外して考えて良い」という判断の盲点を突くことがあるからです。


同じ行動であっても「玄人がすべて分かった上で覚悟を決めてリスクを取った」と「知識の不完全な人がよくわからずに危険なことをした」とでは実際の力量には大きな開きがありますが、結果としてほぼ同じことが起こります。


名の知れたプロプレイヤーでも、砕けた場で話を聞くと「相手が思ったよりゲームを理解してなくて狙いが空振った」という話をしていることはあります。


数をこなせばレーティングや統計に実力が反映されるにせよ、個々の勝負では「下手な相手に負けることもある」という事実は受け入れたほうがよく、
勝者こそが必ず強いのだという原理主義や、不思議の負けなしという考え方は時に有害なことすらあります。


普段どれだけ勝ち越していようと、世界1位と世界32位の番狂わせが起こる時はあるのです。

過剰最適化の罠

どんなに美しく組み上げられた戦略も弱点を持つ以上、その戦略の唯一の弱点を突かれる「どうしようもないタイプの負け」に直面した場合の最適解は「割り切ってブレない」ことなのに、
「すべての負けを実力の問題と受け止める」姿勢だとプレイスタイルの変えるべきではない部分を変えてしまい結果として弱くなってしまうリスクすらあります。


もちろんそれが「本当に捨てるしかないのか?偵察して対応できないか?」を検証したり、自分の落ち度を探す謙虚さ自体は非常に大切なものですが、
戦略や立ち回りというのは苦手パターンの克服だけを強く意識して改造すると、それ以外のパターンに対して必要以上に弱くなってしまい、結果的に総合力が下がることも多いです。


過学習や過剰最適化のような問題はどんな物事にも起こるのかもしれません。


運のゲームのプレイヤー達

運要素前提のメンタル管理という点で強いのはやはりポーカー麻雀などボードゲーム、カードゲーム、相場など最初から運の影響が知られているジャンルのプレイヤーです。


RTSは手先の技術を要求されるのはシビアでもある一方、どこかで間違うと技術に甘えて思考を怠けてしまう落とし穴もあります。
その点ただただ判断力とメンタル管理で勝負するしかないゲームのプレイヤーの話は参考になることも多いです。


以前ポーカープレイヤーの書いたティルト対策の本(たとえば『賭けの考え方/イアン・テイラー ,マシュー・ヒルガー』など)も読みましたが中々参考になりました。(ティルトとは負けが込んだり理不尽な負けに直面したことで心理的に動揺して正常な判断ができなくなっているような状態のこと)


運要素前提のメンタル管理で共通していることは、


「自分の取った行動への評価と、結果を切り離して考え、より良い行動を取ることに集中する」
例1:悪い結果を引いてしまったが良いプレイだったので同じプレイを続ける
例2:ミスプレイだったが運良く勝っただけなのでプレイを改善する
「自分の心理状態の乱れに気付けるようにする」
例:自分の心を乱すパターンを普段から分析・把握する、冷静なつもりで実は冷静じゃなかったというケースを振り返って記録しておく
「行動や戦術が有効かはデータに基づいて検討する」
「目先の結果にこだわらない」
といったことです。

駆け引きは実在するか

駆け引きで勝った!というのも当人の思い込みや結果論ということは多いかもしれません。
五分五分の賭けでも予想を言ってさえいればそれなりには当たってしまうように。


相手の思考より1段階だけ裏をかければ駆け引きに勝てるわけですが、裏の裏を考えたところで相手が素直な手を打っていれば不利になってしまうものです。(レベルK思考の問題
常にちょうどよく相手の1段階裏をかけるエスパーはいません。
行動がワンパターンなプレイヤーがいれば確かに簡単に「読める」でしょうが、同じ行動をするbotを先回りすることを駆け引きと呼ぶのは一般的ではないでしょう。
「本当にそのパターンが続くのか」の葛藤があって初めて駆け引きと呼ばれるのではないでしょうか。

相手の行動パターンの偏りから「この戦術なら有利が取れる確率が高い」という統計的に優位な選択肢が浮かび上がってくることもあり、そういう考え方で期待値を積むのは重要なことですが、
データ分析の結果にただ従うだけなら一般的に駆け引きとは呼ばず、心理戦が伴ったときにはじめて駆け引きと呼ぶのではないでしょうか。

そう考えると駆け引きという言葉は情緒に満ちた主観的な言葉であり、行動の裏に心の動きや息遣いを見出すかどうかという話者の認識を表現する言葉に過ぎないのかもしれません。

この記事で言っていないこと

私が言おうとしているのは決して「負けを毎回相手や運のせいにして自己正当化をしていい」という事ではありません。反省はとても大事な成長の原動力です。しかし実力の問題と運の影響を切り分ける事が必要で、そこを常に正確に判断できる人間もいないので、熱くなったり落ち込んだら一歩引いて冷静に考える時間を取り、自責と割り切りのバランスを常々取り続ける必要があるということです。

昔必然とか言ってたやん

なお大昔に「偶然なんてない、すべて必然」みたいな記事をどこかで書いたことがあるので一応フォローしておきます。当時のStarcraftIIは今に比べるとまだまだ全体のレベルが低く「ありがちなビルド」を取っていれば必然的に収束する「ありがちなパターン」を予測して待ち構えてるプレイに対して「偶然こうなって運がいい」と勘違いした反応をしている人も見受けられたため、ベンチマークを満たしたビルドオーダーでミスのないプレイをしていると同じ時間に同じようなことが起こるいくつかのパターンに収束していく、うまいプレイヤーはパターンを理解したうえでやっている、という意図で書いたものです。

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