RTS偵察の方法論


書いていた時期の関係で例示はStarcraft IIばかりになっています。
Starcraft IIでは単純な偵察ユニットは倒しやすく、序盤のユニットでの偵察をしつこく繰り返そうとしても倒されるため、偵察をするタイミングがシビアなところがあるのですが、AoE4の場合は斥候が優秀で壁をされるか騎乗兵が出るまでずっと偵察し続けられるゲームだと思いますので、ここまでシビアな偵察の考え方は不要かもしれません。

はじめに

RTSにおいて偵察は欠かせないもので、わずかな資源消費で大きなリターンを生めるコストパフォーマンスに優れた行動です。

もし偵察をせずに相手の攻撃的なプレイを受け止めようと思えば、最初から軍隊や防衛施設に大きな投資を強いられることとなり、内政やテックツリーは伸びません。

内政を伸ばしながら偵察を的確に行い、危険を察知した時にだけ方針転換して守る術を身に着けていれば、最高効率で内政を伸ばしながらも安全性を確保できます。


定石ビルドが生まれ偵察の定石が生まれる

RTSがリリースされ対戦が重ねられるうちに、効率の良い内政の組み立て方としてビルドオーダーが生まれ、特に勝ちやすいと思われたビルドは定石となっていき、そんなみんなが使うビルドに対応すべく、どの時間に偵察を入れるべきか、偵察にも定石のようなものが出来てきます。

では定石が見えない初期段階に偵察方法は確立できないのでしょうか? 定石とかけ離れた見たこともない奇策に対してはどうやって偵察と対応を行えばいいのでしょうか?
もちろんどんな時でもリプレイを研究すれば偵察方法や対応を導き出せる原則があります。

原則に立ち返る

リプレイを見ればわかる事実を整理・検討することが重要で、究極的にはどんな答えもそこに眠っていると言えます。

まず
自分が不利になった場面(不利なトレードを強いられた、ハラスが刺さってしまった)
敗因になった相手の攻撃(ラッシュで死亡、など)
を抽出しましょう。

その後もゲームが続く有利/不利事象の検討は複雑になりがちなので、ここでは後者の「相手の特定の攻撃で詰んだ」例で話を進めます。


ラッシュ対応で重要な3つのタイミング

ラッシュビルドについて時間軸を整理すると、以下のような3つの転換点が考えられます。

兆候が現れ始めるゲーム内経過時間……t1とします

見られた事を逆手に取って相手へのフェイクとし、別ビルドに切り替えるには遅すぎる時間(フェイクの期限)……t2とします

偵察してももう対応が間に合わない時間……t3とします

t1の「徴候が現れ始める」とは、偵察中に「普通と違う」と判断できることで、見える建物・ユニットや資源配分、ワーカーの総数などが典型的なサインになります。
リプレイで相手視点でオーダーを見ればt1は簡単に把握できます。

t1より前の段階で偵察しても、「情報が不十分なので何とも言えない」ことになります。早く偵察を送ることで余計なコストがかかるなら、早すぎる偵察は損です。

「t1~t2間での偵察」は早く兆候を知れるのでやりがちですが、理想的なタイミングとは限りません
この時間に偵察しても、フェイクとして利用して内政を伸ばされたりして逆につけ込まれる場合があるからです。


こちらが守りを固めるために従来のプランが大きく崩れる反面、相手が「作った建物を利用しない」程度の最小限のロスで内政を伸ばした場合、あるいは建物をキャンセルして違うユニットやテックを選択された場合、せっかく偵察したのに得られたリターンはマイナスということすら考えられます。
本当に「対策が出来ている」というためには有利に返せるものは有利に返さないといけないのです。

「t1~t2間の偵察」が正当化できるのは、その時間じゃないと偵察がカットされてしまう等の理由がある場合だけです。

t3を過ぎると手遅れなので、そのラッシュを守るうえでは意味のない偵察となります。
t3を知るにはラッシュの着弾時間から逆算して、こちらが防衛施設を作るのにかかる時間や軍隊を水増しするために必要な時間を引いていくとほぼ機械的に出てきます。

「t2~t3間のどこか」
理想の偵察タイミングがあり、「知って守って有利を取る」という王道の戦い方に繋がります。

t2を知るには相手のビルドの中身を理解しなければいけません。
建物や軍を作るために内政を止めていたり、ザーグがラーバを余らせて資源をためたりするタイミングがあるならt2かもしれません。
相手が本当にリスクを取った時間回収不能な形で資源をBetした時間がt2です。

時系列的にはたいていt1<t2<t3 (経過時間s) となっていて、まず兆候があり、フェイク期限があり、防御側手遅れ期限があるという順番になっていますが、極端に攻撃的なビルドではt1とt2が一致していることがあります。SC2でいうと初手から普通より少ないワーカーで軍生産施設を建てるビルド、12PoolやProxyの類です。

「ワーカーが少ない」「軍生産施設が早い」という兆候が出始めるのと同時にもう大きな犠牲を費やしているので方針転換しても悪影響が大きいわけです。

これが17Hat gas Poolなどのスタンダードなスタートから突然RoachWarrenを建て始めるようなビルドになると、内政に本格的な犠牲を払うのは軍隊を作るためのラーバを貯め始めて以降となるため、t2とt1の差が40秒程度存在します。

もしもt2≧t3、つまりフェイク期限を見計らって偵察したらもうすでに手遅れ、というゲームがあったらそれはわかってても防げないというバランス崩壊なのですぐ修正されると思います。


さて、ここまで「このラッシュビルドのt2はここ!」とt2がどこか一点に定まるのが当たり前かのように無邪気に話してきましたが、本来これは防御側の対応とセットで定まるものだと言えます。

防御側の対応に不備があり、「ラッシュの兆候を見たら防衛施設に過剰投資するせいで軍が出ずマップコントロールが弱くなる」とか「内政を一度止めてでも準備する」といった過激な反応をするのであれば、ラッシュ側にとって許容できる損失は増えるので、フェイク期限も先送りになるわけです。対応の洗練度によってt2が前後します。安定して同じ返し方が出来ている人にとっては偵察すべきタイミングは固定して感じられますが、不安定なプレイをしていたり非効率な対応をしていると、そういう人達が教えてくれるt2が嘘に感じられますし、どう転んでも不利になるような気がしてきます。


ここまでラッシュビルドの側から時間帯を分類しましたが、実際のゲームにおいては「どのタイミングなら偵察させてもらえるか?」という問題があり、さらに偵察できるタイミングが制限されます。


フェイクの期限と理想の偵察タイミングを強く意識した日

この「フェイクにできる期限」という概念は色んなビルドの偵察に使いますが、改めて強く意識したのは、2018年頃にvaisravana選手が多用していた、Pool first zerglingハラスでこちらのreaperを縛り付けながらの2Hat8~10roachラッシュへの対応を考えた時のことでした。

ラッシュを怖がるあまり早いタイミングに偵察、2:20にワーカー偵察で建物を見るとフェイクとして活用され、こちらが過剰防衛してハラスユニットを作れない間に内政を伸ばされる。

あるいは不審な建物がないのをこちらの偵察ワーカーが見たところで処理し、2:20にroach warrenを作り始めても3:00にroachの生産が開始できるため、何もないからとノーガードだとラッシュが刺さる。

もちろん偵察をしなかったり偵察が遅すぎると手遅れとなりラッシュが刺さる。

ラッシュ/フェイクの選択肢を持つ向こうの内政を見て出た結論は「すでに内政を一定時間犠牲にした後の3:00過ぎという取り返しのつかないタイミング」に敵陣セカンドベースのワーカーの数か建物を確認するというもので、そのためには「ワーカーを一度隠して時間調整して偵察する」か「何があっても2:30にreaperを出発させ、自陣のzerglingハラスには少ないユニットで頑張って対応する」ということでした。

理想的なラッシュをしてこないレート帯の場合

なお自分が当たる相手があまり高レートのプレイヤーではなく理想的なビルドの組み方を出来ていないと考えられる場合は、リプレイに出るより厳し目の数値を使って考えたりプロの試合を参照することで高レートプレイヤーのラッシュ対策のイメージトレーニングにはなります。

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