マスメディアは「誤訳」を放置する 「特殊出生率」は近々修正されるのか?
朝日新聞に「特殊出生率は誤解を招く誤訳」という要旨の有料記事が出ていた。
元近畿大学教授・橘秀樹さんの「私の視点」における指摘(2024年9月11日)。
ニュースで「特殊出生率」という語はよく聞く。出生数の低下が話題になるときだ。
この語は「女性が生涯のうちで産む子どもの数」と説明されるけれども、言葉そのものからすれば、「特殊な状況で生まれた子どもの割合」と理解したくなる。
しかし、「専門用語だろうから、なにか特殊な事情があるのだろう」と了解したところで、ニュースは過ぎ去っていく。
用語よりも、出生数の低下という現実の方が問題だ。
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さて、この語は Age-specific fertility の訳語だそうだ。
「特定年齢における繁殖能力」あたりが直訳。
以前、翻訳のリライトを仕事にしていた。人材の多くない分野で、大学卒業+@の翻訳初心者の下訳をチェックして、原稿を整える。
その翻訳初心者のなかには、今では大学教授になっている人も含まれていたが、 specific という単語を「特殊」「特別」の意味で訳してくる人は非常に多かった。
どうしても、日本語としての定着度の高い「スペシャル」に引きづられるのだろうう。しかし、上記の記事でも指摘されているように、specific に「特別」「特殊」の意味はない。「特定の」という意味だ。
なかには、そう指摘されたことに納得せず、どうしても引き下がらない人もいた。外来語というのは、ときに罪深い。
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マスメディアは、それ自体が主体的になにかを指摘する能力に劣る。
「メディア」という言葉が示す通り、「媒介」が主たる機能だからだ。
新聞の社説が世論の動静と無関係に独自の論陣を張ることはまずないし、現場の記者が出生率低下の取材記事の片隅に「誤訳」の話を滑り込ませることもほぼない。
今回、外部の元大学教授に指摘されたことによって、朝日新聞は誤訳されたままの専門用語の訂正に向けて動き出すことになるのか。厚生労働省なりのお墨付きを得て、他の報道機関に周知する労苦を取るつもりはあるのか。
「用語よりも、出生数の低下という現実の方が問題だ」
そう判断される可能性は低くない。
(こういう誤訳を人工知能は「誤訳」として認識して、その上で放置するのだろうか。話が逸れるので、ここまでにしておきます)
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