2 『孫子』における戦争の分析と計画

1 はじめに

 『孫子』の中で戦争をどのように分析・計画しようとしていたのかを考察する。

2 戦争における事前の見積・計画の重視

4 夫れ未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。而るを況や算なきに於いてをや。吾れ此れを以てこれを観るに、勝負見わる。

2 分析方法としての「道、天、地、将、法」

1  孫子曰わく、
 兵とは国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。
 故にこれを経るに五事を以てし、これを校ぶるに計を以てして、其の状を索む。
 一に曰わく道、二に曰わく天、三に曰わく地、四に曰わく将、五に曰わく法なり。
 道とは、民をして上と意を同うし、これと死すべくこれと生くべくして、危わざらしむるなり。
 天とは、陰陽・寒暑・時制なり〔、順逆・兵勝なり〕。
 地とは、〔高下・広狭・〕遠近・険易・死生なり。
 将とは、智・信・仁・勇・厳なり。法とは、曲制・官道・主用なり。
 凡そ此の五者は、将は聞かざることなきも、これを知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。
 故に、これを校ぶるにするに計を以てして、其の情を索む。
 曰わく、主 孰れか賢なる、将 孰れか能なる、天地 孰れか得たる、法令 孰れか行なわる、兵衆 孰れか強き、士卒 孰れか練いたる、賞罰 孰れか明らかなると。
 吾、これを以て勝負を知る。

3 戦場における分析方法「度、量、数、称、勝」

16  善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。 
 兵法は、一に曰わく度、二に曰わく量、三に曰わく数、四に曰わく称、五に曰わく勝。地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ず。
 故に、勝兵は鎰を以て銖を称るが若く、敗兵は銖を以て鎰を称るが若し。

4 得失、動静、死生、有余不足

27 故にこれを策りて得失の計を知り、これを作して動静の理を知り、これを形して死生の地を知り、これに角れて有余不足の処を知る。

5 兵を為すの事は、敵の意を順詳するに在り

 戦争の遂行において敵の企図を明らかにすることの重要性について指摘している。

60  故に兵を為すの事は、敵の意を順詳するに在り。
 并一にして敵に向かい、千里にして将を殺す、此れを巧みに能く事を成す者と謂うなり。
 是の故に政の挙なわるるの日は、関を夷め符を折きて其の使を通ずること無く、廊廟の上にきび[厂艸属]しくして以て其の事を誅む。
 敵人開闔すれば必らず亟かにこれに入り、其の愛する所を先きにして微かにこれと期し、践墨して敵に随いて以て戦事を決す。
 是の故に始めは処女の如くにして、敵人 戸を開き、後は脱兎の如くにして、敵人 拒ぐに及ばず。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?