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My Timeless Favs of 2010's: Part 3

やーっと折り返し地点です。21~30枚目。

21. Kangding Ray [OR] (raster-noton / 2011)

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試聴: Boomkat

エレクトロニックの代表格的な存在、raster-notonからリリースされた本作は「テクノ・ミュージック」というものの新しい側面を提示した作品に仕上がっているように思う。リリース当時の僕はテクノやダブステップのような音楽に注目していて、その耳で聴いたかぎり、本作での独特なリズム構造はそれらのどちらにも近く、またどちらとも違う特異さをもち合わせていたように感じられた。彼は当時DJなどの知識がない状態でナイトクラブでの演奏をおこなったりもしていたようで、それが彼の制作プロセスに大きく寄与した部分もあるのではないかと思う。Telekom Electronic Beatsでの動画Smoke Machine PodcastでのミックスRAのインタビュー記事などをチェックしてみるのも、彼の音楽を深掘りするうえで面白いと思います。

22. Laurel [Dogviolet] (Counter / 2018)

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毎年おぞましいほどリリースされるインディー・ポップなるジャンル(こうした呼び名には若干眉をひそめてしまう自分がいるが)の作品のひとつ。そこから自分の好きな作品を見つけ出すのは非常に難しく、大きな精神的徒労をともなう。インディー/アマチュアとしてもひどいクオリティーの作品だったり、全然違うジャンルであったり。そんななかでひときわ輝いているように聞こえたのが本作。この微妙にかすれた声で歌われるセンチメンタルな曲たち。微妙に歪んだギターの響きも美しい。Boomkatのコメントにも書かれているように、たしかにLana Del Rayとの共通項もあるようにも思う。はああ、こういう歌はかなり好き。

23. Luigi Turra & Christopher McFall [tactile.surface] (Unfathomless / 2010)

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これまでにUnfathomlessからリリースされた作品はほぼ聴いていて、潜在的にはその全てから何らかの影響を受けていると思うのだけれど、なかでも特に印象に残っているのが本作。このレーベルは環境音をベースとした音響作品を発表しているけれど、本作は強い残響感をもった物音が多くちりばめられていて、自然など外部環境の音はあまり感じられない(確かに、Luigi Turraのほうは自宅で録音を行っている)。それでもなにかその場の空間的な特徴をつかんでいるようで、何度聴いてもその雰囲気に呑み込まれてしまう。ちなみに、同レーベルから発表されたVanessa Rossettoの[self-care]Grisha Shakhnesの[being there]などは自宅や室内での録音でほぼ完結しており、こうした「家のなか」という環境もコロナ以降の世界において特殊な環境/状況として認識されていくようになるのかもしれない。

24. Machinefabriek [Stillness Soundtracks] (Glacial Movements / 2014)

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映像作家Esther KokmeijerとMachinefabriekことRutger Zuyderveltによるオーディオ・ヴィジュアル作品"Stillness"、そのサウンドトラック。冷たい空気をまとった氷河の上を通り抜ける船の映像にピアノの響きや抽象的なビート、こもった質感のシンセなどが重なりあう。ちなみにこれ、映像は作品として非常に美しいんですが、なんでUSBのみでのリリースなんだろう。DVDとかの媒体でも出してほしい。もったいないな…(アナログ野郎はこれだから困る)。

25. Madteo [Noi No] (Sähkö / 2012)

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試聴: Boomkat

リリースから8年ほど過ぎた今、このレコードを引っ張り出して聴いてもやはり「なにこれ?」と思ってしまう。彼のヒップホップ的な技術が本作のあらゆるところに活かされているのは分かる。ローファイなシンセの音や声などのサンプリング、手作業のようなビートの刻み方。ただ、それらは何とも形容しがたい動きをしてみせ、そのせまい空間のなかでうねうねと泳ぎ回る。僕らはその水槽で泳ぐ魚たちの名前を知らない。何を食べるのか、どう生活しているのか。ただ眺めるだけしかできない。お手上げ。この奇妙な思考回路をのぞき込む僕らの変態性をただ肯定するしかやることがない。愉快なダンス(?)・ミュージック。

26. Marek Poliks [hull treader] (Another Timbre / 2016)

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なんだこれ?ミュジーク・コンクレートの作品ではないのか。Another Timbreから発表された本作は、初見の新人Marek Poliksによる作品。ここには"hull not continent"と"treader always in station"の2作品が収録されていて、前者はDistractfoldという5人グループ、後者はJohn Pickford RichardsとBeth Weisserによるデュオでの演奏。両曲ともかなり抽象的で、エレクトロニクスやサイン・トーンによる低音、ギリギリと軋むような弦の音、空気のようなホーンの音、などなど、演奏らしくない謎めいた音ばかり(もはやパーカッションはどの音かはっきり分からない)。最初に書いたようにミュジーク・コンクレート作品のような雰囲気で、このレーベルの最近の作品としてはかなり異質に思える。Gruenrekorderとかその手のフィールド・レコーディング作品を中心に発表するレーベルだってもっと音楽的に聞こえる作品を多く出しているのにね。一応どちらも「コンポジション(作曲作品)」ということになっているけれど、どちらかといえば静的な即興音楽を好む人たちにはかなり受け入れやすい質感かも。それぞれの楽器がバラバラに「本来その楽器が出さないような音」を出しているような。Rhodri Davies率いる即興音楽グループ、Common Objectsとかに近そう(一応彼らもAnother Timbreから作品を発表しているが、どちらかというと僕の脳内イメージとしてはPart 1に載せた[Skullmarks]を聴いたときに抱いた印象に近い(Part 1へはこちらから)。そちらも名作だと思います)。Marek Poliks、今後も気になる存在。

27. Marilyn Manson [The Pale Emperor] (Dine Alone / 2015)

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試聴: Allmusic / M2('Deep Six') / 'Slave Only Dreams to Be King')

彼(彼ら)のベストは3部作([Antichrist Superstar][Mechanical Animals]、[Holy Wood (In the Shadow of the Valley of Death)])以降更新されないのではないかと思っていた。以降[The Golden Age Of Grotesque]から4作ほどスタジオアルバムをリリースしたけれど、その熱量には物足りなさを感じていて、完全に追いかけるのをやめていた。そんななか映画"John Wick"の劇中で1曲目'Killing Strangers'が流れてきて、(以前のへヴィー・ロック的なムードこそないものの)ブルース経由のストレートなロックとしての魅力に「格好いいじゃん!」と純粋に夢中になり、買ってひととおり聴いてみた。

本作では映画音楽などを担当するTyler Batesも制作に参加しており、曲としてのメロディーや聴きやすさと、彼自身のバックボーンを感じさせる個性のバランスが素晴らしく、彼の力量を強く感じさせた作品。彼が以前ロックのインタビュアーをやっていたというのも頷ける(記憶が曖昧、確かそうだったはず)。

28. Massive Attack [Ritual Spirit EP] (Virgin EMI / 2016)

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試聴: M2('Ritual Spirit') / M1('Dead Editors')

この年代、Massive Attackが新規で発表したスタジオアルバムは2010年の[Heligoland]のみ。面白い作品ではあったけれど、名盤と評されている98年の作品[Mezzanine]と比較して、個人的にはそれを超えた感じがあまりしなかった。そして[Heligoland]から6年後、本作は4曲すべてにゲストを入れて制作されたEP。順にRoots Manuva、Azekel、Young Fathers、Tricky。昔からの仲の人もいれば若手もいる。そしてそれぞれの楽曲は、Massive Attackとしてのカラーを残しつつも各ゲストの個性を輝かせるものとなっている。[Heligoland]では陰を潜めていた不穏な空気、怪しげな雰囲気、虚しさややるせない悲しみ。そう、これこれ!となった。次のアルバムにも期待。

ところで、'Voodoo in My Blood'のMVにおけるロザムンド・パイクの演技が素晴らしいので、興味次第で見てもらいたい。ただし、一部ショッキングな描写があるので、あまり得意でない方は見ないほうがいいかもです。

29. Matthew Revert & Vanessa Rossetto [Ernest Rubbish] (Erstwhile / 2016)

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独特なフィールド・レコーディング/コラージュ作品を発表しつづけているVanessa Rossettoと、同じく独特な空気をまとった音響的な(?)作品を発表するMatthew Revertによるデュオ作品。多くのRossettoの作品では録音されるフィールドにおける「自己」の存在が顕著にみられる(独白だったり、誰かとの会話だったり。またあるときは本人が歩いたりする音だったり)。その具体的な音たちにかぶさるように、ここではRevertの空気が全体を支配する。するとグラスの音やら人の声などが、トイ・ストーリーのおもちゃかなにかのように、それぞれが呼吸を始める。しかし、それらの音は何らかの意味があるようでないようで、聴き手に何かを語りかけるでもなく、淡々とそれらの音が聞こえ、消えていく。3曲に分かれた作品のなかで、それぞれの音の風景はカクテル・パーティー効果のようにピンポイントではっきりと聞こえてきたり、群像劇的に淡々と広がったりする。聴く側がなんらかの「さぐり」を入れてみてもむなしく、音たちは僕たちに無関心にどこかへと流れていく。すべての音は必ずなにかであり、また、なんでもないものでもある(なんじゃそりゃ)。

30. Mecha Fixes Clocks [Beau comme un aéroport] (Tour de Bras / 2013)

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うーん、これはどう形容したらいいんだろう??ものすごく乱雑に扱えばフリージャズというジャンルに収めることができるのかもしれないけれど、そういった音楽とは個人的にイメージが全然違う。牧歌的というのか、屋根裏部屋から偶然ほこりをかぶったフィルムを見つけて、記憶を思い出しながらまだ自分が幼い頃に撮られたであろう家族の映像を眺めているかのような気持ち。どことなくノスタルジー(?)のようなものを感じさせた。International Anthemより今年発表されたAlabaster DePlumeによるアルバム[To Cy & Lee: Instrumentals Vol. 1]でも似たような雰囲気を感じたけれど、僕はこういった音楽を的確に表現する言葉をまだもっていない。無垢な音楽。

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