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Tool [Ænima]を4枚のアルバムから解析する

1996年、アメリカのバンドToolはアルバム[Ænima]を発表した。そのなんとも形容しがたい作風や音のヘヴィネス、メタファーやブラックジョークを交えた歌詞、などなど、エポック・メイキングな雰囲気から、名盤と語り継がれるようになった。この作品は一体どのようなものに影響を受けて作り上げられたのだろうか。僕自身も本作をとても愛聴し幾度となく繰り返し聴いているが、本作が発表される前にリリースされた別のアーティストによる4つのアルバムから、今回本作を解析してみようと考えた。

ちなみにToolはそれまでに[Opiate]というEPと[Undertow]というアルバムを発表している。そこからの影響はあるものとして、それまでと本作との違いを主軸として今回のテーマを深堀りしていきたい。

1. Led Zeppelin [Led Zeppelin II] (1969)

Toolの楽曲を聴いていると、Adam Jonesによるヘヴィーなギターと今回の[Ænima]からベーシストとして参加しているJastin Chancellorのベースの絡み合いがグルーヴの中心にいるように感じられる。そのため、ギターだけソロなどをがんがん弾くというスタイルではなく、あくまでもベーシックなフレーズの繰り返しによって楽曲の存在感を保たせているのが分かる。Led ZeppelinのギタリストJimmy Pageは(ソロで弾き倒すこともあるが)[Led Zeppelin III]に収録された楽曲'Immigrant Song'などに顕著なように、同じギターフレーズを繰り返すなかでグルーヴを構築していくスタイルをとることが多い。ブルースの名曲'Whole Lotta Love'をグルーヴィーなロック・スタイルに昇華させた楽曲から始まる本作は、特にJonesのスタイルに多大なる影響を与えたのではないだろうか。


2. King Crimson [Larks' Tongues in Aspic] (1977)

プログレッシヴロックの代表格のひとつであるKing Crimsonは、メンバー・チェンジなどを繰り返しながら常に変化を遂げてきた。1977年に発表された本作(邦題[太陽と戦慄])では、作曲にあたって即興演奏の要素やパーカッションの多用がもちいられた。1曲目であるタイトル曲(Part 1)はBill BrufordJamie Muirの2名によるドラム/パーカッションのセクションにDavid Crossがヴァイオリンやフルート、メロトロンなどで参加し、なんとも表現しがたい不安なムードを構築し、アルバムは幕を開ける。Robert Frippによる歪んだギターやJohn Wettonによるベースラインと歌は、楽曲全体を引き締める要素であると同時にそれぞれを「曲」として成立させている。Toolの楽曲における複雑さやドラムスのDanny Careyによるドラムとパーカッションを行き来するようなフレージングには本作からの影響を感じさせ、ベーシストのChancellorのフレーズやバンドにおける立ち位置への影響も感じられる。


3. Melvins [Lysol] (1992)

90年代のアメリカではグランジのムーヴメントがあったため、NirvanaAlice In Chainsなどのバンドが轟音にまみれたバンドサウンドを形成していった。しかし[Ænima]はそれらのバンドの作品群と比較すると非常に「静的」であることに気が付くのではないだろうか。Toolはどちらかというとストーナーロックなどヘヴィネスに寄ったバンド/作品群に属するように思える。そのなかでも実際に交流のあったMelvinsの存在は大きい(ギターヴォーカルのBuzz OsborneはToolのライヴにゲスト参加したこともある)。31分超1トラックという形態の本作のなかで、ときに激しく、ときに静的に演奏される本作のスタイルは、[Ænima]のひとつ前にリリースされた[Undertow]でも散見されたが、曲のなかにおけるダイナミズムの強調は[Ænima]で特に見受けられるポイントだ。


4. Joni Mitchell [Blue] (1971)

Joni MitchellはToolと関連性がまったくないと思われるアーティストのひとつだろう。しかし、Toolでヴォーカルを担当するMaynard James Keenanはたしか本作を自身のオールタイム・フェイヴァリットに挙げていた(国内音楽雑誌、おそらく『Crossbeat』での企画での回答だったと思われるが、現在手元に資料がないので「たしか」と曖昧な文章にさせていただく)。Keenanの歌い方を注意して聴くと、キーが流動的に移動して安定しないフレーズが頻繁にあらわれる。それは歌唱におけるスキルの欠如ではなく意図的のようであるのでバンドの楽曲にある絶妙な不安定感や不穏な雰囲気の構築に多大な貢献をしている。Joni Mitchell、なかでも特にこの[Blue]で使われる流体的な歌は、ある意味[Ænima]の最重要な要素なのかもしれない。


以上の4作品が、Toolが[Ænima]を作り上げるに至らしめたものであると僕個人は考える。もちろん異論はあるだろうし、Toolのメンバーも発言を極力避けたがるので、当記事はあくまでも僕の憶測として読んでいただきたい。

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