◆下顎の輪郭形成術◆


下顎の輪郭は顔全体の顔貌に対して強い影響を与えます。例えば、四角い顎は非常に力強く男性的な印象を与えます。これは、男性においては力強いというイメージで好感を持たれる一方、特に女性においてはあまり好まれません。アジア圏では卵型の輪郭が好感を持たれるとの文化的背景があり、下顎の形態に関してコンプレックスを感じる方も多いとされます。

下顎の輪郭には骨、筋肉(主に咬筋)、脂肪組織などが関与しています。筋肉に関しては現在ではボトックスによる治療が主流となっています1-3)。このページでは下顎骨の骨格的な輪郭形成について記述されています。


◆治療のポイントと下顎の輪郭形成の種類◆

・下顎はオトガイ部、体部、角部、下顎枝、関節突起、筋突起より構成されます(図)。
・下顎の輪郭形成はこれらの各部位を切除したり、削ったり、移動して再固定することにより行います。

◆この手術がおすすめの方◆

・エラが張り出しており、男性的と感じられる女性

・より穏やかな人相を希望する男性

・ホームベース型の四角い顔を改善したい方

・小顔になりたい方

・優しい印象の顔になりたい方


◆下顎の輪郭形成の種類と手術部位◆


●下顎の輪郭形成術

下顎の輪郭形成には下記のような手術があります。教科書や論文、各美容外科のホームページなどにより様々な名称がついており、いまだ統一されていませんが、下記してある分類と概念が基本となります。これらを単独または組わせることにより、下顎の輪郭形成は行われます。いずれの手術も下顎の輪郭を整えるものであることから、下顎の輪郭形成術と総称されます。下顎の輪郭形成には、咬合不全を含めた修正となる下顎骨骨切り術(SSRO:下顎矢状分割術)、オトガイ部分を形成するオトガイ形成術、下顎角部(いわゆるエラ)の部分の切除や形成術を行う下顎角形成術(angle ostectomy)や下顎角切除術(mandibular angle osteotomy)、下顎角部~体部にかけての輪郭形成を行うcurved osteotomy、体部の皮質の削骨を行う皮質骨切除術(corticectomy)、下顎角部~体部~オトガイ部分にかけて骨の調節を行うVライン形成術(V-Line osteotomy)など様々な方法があります。多くの名称や分類があるため非常にわかりづらいと思いますが、大別すると下記のような方法があります。

各々の治療は単独で行われることもありますが、より治療効果を出すために多くの場合は組み合わせて行われます。骨の手術ではなく、顔の手術なので顔の皮膚や表情筋と骨の調和がしっかりとできるように手術を行います。


①下顎骨骨切り術(SSRO:下顎枝矢状分割術)

・詳細は上下顎骨切り術の項目をご参照ください。

・咬合不全を伴った下顎前突症または下顎後退に対して行われる手術です。

②オトガイ形成術(genioplasty)

・詳細はオトガイ形成術の項目をご参照ください。

・オトガイ形成術単独、他の治療との組み合わせで行います。


➂下顎角部形成術(エラ切除・エラ削り)(図)

・いわゆるエラの形成と呼ばれる部分です。

・エラの張り出しの部分を切除して、すっきりしたフェイスラインの作成を行います。

・下顎角部の骨を切除したり、削ったり(削骨)したりします。

・特に下顎角部が外側に張り出した症例に対して効果があります。

・Gonion angleの調節が可能です。

・下顎角が大きい、エラが張った角ばった顔を改善する目的で行います。下顎角の骨を切除することにより顎が小さく自然な形態になる様に行います。

・「皮質骨切除及び削骨」を同時に行うとより高い効果が得られます。

・単独で行うこともありますが、より治療効果を出すために他の下顎の輪郭形成術と併用して行われます。


④下顎体部下縁形成術(アゴ切除・アゴ削り)(図)

・下顎体部の下縁の切除や削骨を行います。

・アゴの張り出しの部分を切除して、すっきりしたフェイスラインの作成を行います。

・mandible long-curve osteotomy、mandible U-shaped osteotomyなどがこれに該当します。

・下顎角部からオトガイまでの部分(下顎体部)の下縁の骨を切除及び削骨することにより、正面及び側面から見た顔の印象がより小さく自然になる様に形態の調節を行います。下顎角から顎にかけての下顎のラインがシャープできれいな曲線になります。

・「皮質骨切除及び削骨」を同時に行うとより高い効果が得られます。

・単独で行うこともありますが、より治療効果を出すために他の下顎の輪郭形成術と併用して行われます。


⑤皮質骨切除及び削骨(アゴ・エラ外板切除・削り)

・下顎骨は3層構造になっています(図)。この内、外板(皮質骨)の部分を切除したり削ったり(削骨)したりして、骨の厚みの調節を行う処置です。

・下顎枝~角部~体部の外板に対して行います。

・皮質骨切除術や削骨(corticectomy)がこれに該当します。

・下顎をよりほっそりとした小顔にするという目的で行います。下顎骨体部が分厚く外に膨らんでいる部分を切除及び削骨することにより正面から見た顔がほっそりとした印象になるようにします。


⑥Vライン形成術4)

・②+➂+④+⑤などを組み合わせた治療です。

・下顎全体のバランスをみつつ、下顎角部形成術(エラ切除・エラ削り)、顎体部下縁形成術(アゴ切除・アゴ削り)、皮質骨切除及び削骨(アゴ・エラ外板切除・削り)及びオトガイ形成を組み合わせて下顎全体のフェイスラインと整えます。




◆手術◆

①皮膚や口腔内の切開

・口腔内を切開して目的の手術部位(下顎角部、体部)へ到達します。

②骨切りラインのデザイン

・術前に行った術前シミュレーションに基にして、骨切りラインの設定を行います。

➂骨切り

・顔面骨骨切り用の専用の機械で、目的部位の骨切りを行います。

⑤縫合

・創部を縫合します。


◆「骨切り手術」に共通するダウンタイム、術後経過、合併症◆

●骨切り手術に共通する術後経過とダウンタイムについては「骨切り総合」のページをご参照ください。

・リンク

●骨切り手術に共通する一般的な合併症については、「骨切り総合」のページをご参照ください。

・リンク


◆「下顎の輪郭形成」に特異的なダウンタイム、術後経過、合併症◆

●下歯槽神経~オトガイ神経麻痺(しびれ)

・下顎の骨切りの際に、下歯槽神経及びオトガイ神経の麻痺が生じる可能性があります。化歯槽神経は肉眼で確認できない部位(骨の中)にあるため、術前にCTで部位の確認を行います。オトガイ神経は肉眼で確認可能ですが、非常に弱い神経であるため麻痺が出やすい神経です。

・神経を切断することはほとんどありませんが、骨切り線を確保する際に剥離操作を行ったり、筋鈎で引いたするすることがあります。

・下顎全体~オトガイ部~下口唇、下の歯茎

●顔面神経頬骨枝及び下顎縁枝麻痺

・口の周りを動かす筋肉を支配している神経です。

・骨から筋肉を剥離する際に、損傷する可能性があります。

・十分に気を付けて行うため、切断のリスクは高くありませんが、骨切り線を確保する際に剥離操作を行ったり、筋鈎で引いたする際に圧迫されることがあります。

・口を動かす操作がしばらく困難になります。

●開口障害

・口が大きく開けずらくなります。

・骨を操作するために、口を開ける筋肉を一度骨から剥離するために口が一時的に開けず樂なります。


◆骨の手術が筋肉(咬筋)に与える影響◆

・下顎角(エラの部分)には咬筋という大きな筋肉がついており、この筋肉は四角い顔の一因となっています。咬筋に対しては咬筋切除術5)などの術式が行われていましたが、現在ではボトックスによる治療が積極的に行われています1-3)。咬筋の肥大の原因は過度な緊張であるとされています6)。手術(下顎角形成術、削骨)などの手術の際にはこの咬筋の付着部を外して手術を行うのですが、この操作により咬筋の下顎骨への付着面積が減り、咬筋の緊張が解除されることから、咬筋を切除しなくても一定の咬筋の縮小効果があるとされています7-10)。


◆参考文献◆

1) von Lindern J. J., Niederhagen B., Appel T.et al: Type A botulinum toxin for the treatment of hypertrophy of the masseter and temporal muscles: an alternative treatment. Plast Reconstr Surg 107:327-332, 2001

2) Chang C. S., Bergeron L., Yu C. C.et al: Mandible changes evaluated by computed tomography following Botulinum Toxin A injections in square-faced patients. Aesthetic Plast Surg 35:452-455, 2011

3) Kim N. H., Chung J. H., Park R. H.et al: The use of botulinum toxin type A in aesthetic mandibular contouring. Plast Reconstr Surg 115:919-930, 2005

4) Li J., Hsu Y., Khadka A.et al: Surgical designs and techniques for mandibular contouring based on categorisation of square face with low gonial angle in orientals. J Plast Reconstr Aesthet Surg 65:e1-8, 2012

5) Adams W. M.: Bilateral hypertrophy of the masseter muscle; an operation for correction; case report. Br J Plast Surg 2:78-81, 1949

6) Maxwell L. C., Carlson D. S., McNamara J. A., Jr.et al: Adaptation of the masseter and temporalis muscles following alteration in length, with or without surgical detachment. Anat Rec 200:127-137, 1981

7) Min L., Lai G., Xin L.: Changes in masseter muscle following curved ostectomy of the prominent mandibular angle: an initial study with real-time 3D ultrasonograpy. J Oral Maxillofac Surg 66:2434-2443, 2008

8) Fu X., Rui L., Liu J.et al: Long-term changes in the masseter muscle following reduction gonioplasty. J Craniofac Surg 25:1309-1312, 2014

9) Lo L. J., Mardini S., Chen Y. R.: Volumetric change of the muscles of mastication following resection of mandibular angles: a long-term follow-up. Ann Plast Surg 54:615-621; discussion 622, 2005

10) Yuan J., Zhu Q. Q., Zhang Y.et al: Influence of partial masseter muscle resection along with reduction of mandibular angle. J Craniofac Surg 24:1111-1113, 2013

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?