頬骨形成術(頬骨骨切り術・頬骨縮小術・Malarplasty)
頬骨形成術(頬骨骨切り術・頬骨縮小術・Malarplasty)
西洋の顔の形態学によると女性の顔においては小さい顎、大きな目、ふっくらとした唇、高い頬骨が魅力的であるとされています1-3)。西洋では頬骨の隆起は若々しいイメージを与えるとされています4-6)。しかし、アジア人は目や鼻など顔面を構成する要素が顔全体に占める割合が小さいため、頬骨の隆起の程度が強いと顔の大きさが印象に残ります。このように頬骨の隆起は、アジア人に見られる特徴の一つです。程度の強い頬骨の隆起や幅の広い扁平な顔面は魅力的でないとされます5)。そして、この特徴は加齢とともにより顕著になるとされています5)。そのため、頬骨骨切り術はアジア圏で非常に発達している輪郭形成術です4)5)7)。
多くの人は「頭の大きさ=顔の大きさ」と思っていますが、これは間違いです。統計によると頭の大きさ(頭囲)の平均は西洋人と東洋人と間でほとんど変わらずむしろ西洋人の方が若干大きいとされています。では顔の大きさを決めるのはなんでしょう。それは顔の横幅であり、左右の頬骨の外側端間の距離で測れます。即ち、西洋人は顔の横幅は狭いですが、頭の前後幅(おでこ〜後頭部の距離)が広く、東洋人はその反対の特徴(顔の横幅が広く頭の前後幅狭い)を持っているがために、頭の大きさはさほど変わらないものの、顔の大きさには差が出るということです(図:西洋人と東洋人の頭と顔面の形の違い)。
これまでの内容を総合すると、小顔になるには頬骨隆起の改善と顔の横幅を狭めることが必要ということが分かります。頬部の隆起や顔の横径の張り出しは頬骨により形成されます。この頬骨の部分の骨を切り移動させることにより顔の横幅を理想の位置に変化させるのが頬骨形成術になります。
◆治療のポイント◆
・頬の張りは、顔の印象に影響を与えるポイントとなっています。突き出た頬骨は、男性的できつそうな印象に見えたり、頬がこけて見えるため実年齢よりも老けて見られがちです5)。そんな悩みを解消するのが、頬骨形成です。
・骨の出っ張った部分を小さくするので、前方の張り出しだけではなく、側方への張り出しも改善できます。
・口の中ともみあげの皮膚を切開し、顔全体のバランスを見ながら余分な頬骨を削ることで頬骨自体の存在を感じさせない仕上に導きます。
・主に口の中からアプローチするため、傷跡は目立ちません。手術の範囲によっては、耳の横の生え際を切開しますが、傷跡もほとんど判らなくなります。
◆おすすめの方◆
・顔の横幅が気になる
・頬の部分(頬骨)の横や前への張り出しが気になる
・小顔にしたい
・男性的な輪郭(頬の張った顔貌)を女性らしくしたい
・頬が出っ張っているため老けて見られる
◆手術◆
①皮膚の切開と骨へのアプローチ
・口腔内(2-3cm程度)ともみあげの部分を切開して、頬骨に到達します。
②骨切りラインのデザイン
・術前に行った術前シミュレーションを基にして、骨切りラインの設定を行います。
➂骨切り
・顔面骨骨切り用の専用の機械で、頬骨の骨切りを行います。
④骨の移動
・骨の移動を行い、プレートやワイヤーで固定を行います。
⑤縫合
・創部を縫合します。
◆頬骨形成術◆
・一口に頬骨形成術と呼ばれますが、その切り方や移動方法、固定方法には様々な種類があります。その方法には削骨1)8)、tripod 骨切り術9)10)、I型骨切り術11)12)、L型骨切り術4)13-17)などがあります。骨の形態や突出、非対称の状態などをみて治療方法を検討します。
・頬骨形成術は頬骨隆起(頬骨体部の最も突出した部分)や頬骨弓の張り出し(中顔面の横幅を規定しているが頬骨弓)の位置や角度を変える手術です。
・頬骨形成術は中顔面の横幅の改善、頬骨隆起の高まりの改善を目的として行われますが、この際には頬骨の自然なカーブの状態と頬骨弓の部分の高さは保存される必要があります5)。
・頬骨隆起部分の調節には、現在では頬骨L字型骨切り術(頬骨体部をL字に骨切りする方法)がもちいられることが多くなっています18)。L字を切る高さや角度によりさまざまな変法があります6)15)18)。変法とは基本となるL字型骨切り術を様々に調節した手術方法のバリエーションのことです。L字型骨切り術では骨移動に関して上顎洞の奥の部分の骨干渉部分の処置が必要となります、そのためより高度な技術が必要とされます18)19)。頬骨骨切りにおける重要なポイントは隆起点の移動にあります20)。L字型骨切り術ではL字の部分の骨切り量が頬骨隆起の内側への移動に、骨の後方への移動量が頬骨の前方及び後方への移動に関わるとされています20)。過度な移動や骨の切除が合併症の原因となるため、適切な移動量や方向を考慮しつつ手術を行う必要があります。
・頬骨隆起の最も高い場所は耳珠点(tragion)より45.6±4.9cm(mean±SD)とされていますが21)、顔面の形態や患者さんが気にされる部位に違いがあるので、どの方法が一番いい方法であると一概に言い切ることはできません。骨を治療するのではなく、顔の輪郭をより患者さんの希望に近づけるのが目標です。そのため、患者さんの表情や顔貌を診察した上で、3Dモデルを使用して仮想骨切り術を行うことにより、より改善感を得られる形での骨切り術を行います。
◆「骨切り手術」に共通するダウンタイム、術後経過、合併症◆
●骨切り手術に共通する術後経過とダウンタイムについては「骨切り総合」のページをご参照ください。
・リンク
●骨切り手術に共通する一般的な合併症については、「骨切り総合」のページをご参照ください。
・リンク
◆「頬骨骨切り」に特異的なダウンタイム、術後経過、合併症◆
●眼窩下神経麻痺(しびれ)22)
・頬部の骨切りの際に、眼窩下神経の麻痺が生じる可能性があります。肉眼で確認可能な神経であるため、切断したりすることはありませんが、骨切り線を確保する際に剥離操作を行ったり、筋鈎で引いたするすることがあります。
・頬部から上口唇、上の歯茎がしびれることがあります。
・回復まで術後1年程度かかることがあります。また、完全に元の知覚に戻らないこともあります。
●顔面神経側頭枝麻痺(眉毛挙上不全)22)23)
・耳前部を走行しているおでこに皺を寄せたり、眉を上げたりする神経です
・頬骨弓の処理の際に、損傷する可能性があります。
・十分に気を付けて行うため、切断のリスクは高くありませんが、骨切り線を確保する際に剥離操作を行い、筋鈎で引いたするすることがあります。
・眉の部分を持ち上げる操作がしばらく困難になります。
●顎関節の損傷5)
・頬骨弓の骨切り部分の近くには顎関節があり、顎関節の損傷のリスクがあります。
●開口障害22)
・口が大きく開けづらくなります。
・頬骨を内側に移動させると、頬骨と下顎骨との間が狭くなり、その間を走っている筋肉(口を開ける筋肉)が圧迫されることにより生じます。
・一般的には腫脹の軽減とともに改善しますが、口があけづらい時期に無理して口を開けるとプレートの損傷や変形のリスクが生じます。
●頬部のたるみと皮膚のあまり22)
・頬骨骨切りにより頬骨の隆起がなくなることにより、頬部の筋肉や皮膚が下の方向に移動してたるんだ輪郭になることがあります18)24-26)。
・頬部フェイスリフト、こめかみフェイスリフト、シルエットリフト、スプリングリフト等の手術や頬部の脂肪融解注射が効果的です。
●頬骨のずれ
・頬骨骨切り中の際に移動させる骨片には「咬筋」という筋肉が付着しています。咬筋は下顎骨と頬骨をつないでいる非常に大きく力が強い筋肉です。その力は約120N(12kg)とされています27)。咬筋の力が強い場合は、移動した頬骨が筋肉の作用で外側や下側に引っ張られてずれてくることがあります5)25)28)。前述の頬部のたるみともかかわってくるので、咬筋の付着部はしっかりと温存した上で骨片を固定する必要がります29)。
●眼球と眼窩の損傷
・頬骨は眼窩を構成する骨の一部です。頬骨骨切りの際には眼窩より適切な距離をもって治療を行う必要がります5)。
●法令線の強調
・まれですが、頬骨隆起の高まりの変化とともに相対的に法令線が目立つことがあります5)24)。
◆参考文献◆
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