英語のことわざを1000則暗記するとネイティブを凌駕する英語力が身につくのか
英語のことわざを1000ほど覚えると、ネイティブを凌駕する英語力を身につけることができる、と再三申し上げて来た。
さて、それは本当か? とお考えになる方もいらっしゃるであろう。
実際に覚えた私に言わせると・・・誠 である、とお答えしたい。
ならば、皆さんは「あなたは英米人のように話すことができるのか。彼らがペラペラ早口で言うことをあなたは聞き取ることができるのか」と尋ねられると思う。
それに対してお答えすると・・・不可なり 私はそのようなことは出来ない。
このような質問は全国民が抱いているものと思うが、英語、ないし語学の勉強というものに対する考え方として、いささか誤解があると思う。
言葉とは何か、と言うことを改めて考えてみたい。
言語学者のソシュール(註1)よると、言語は、パロール(活用言語) ラング(知識言語)に分かれるという。これらを簡単に説明するとパロールとは、日常会話、ラングは、日常会話からさらに発展して、知識や学問を語る言葉、である。
外山滋比古氏(註2)はさらにラングを抽象化、体系化して芸術、思想、学問などを表すための言語を、メタ・ラング(上部言語)と名付けた。
(註1)ソシュール(1857-1913):スイスの言語学者 「近代言語学の父」と言われている
(註2)外山滋比古(1923 - 2020):日本の英文学者 言語学者 お茶の水大学名誉教授
上表は著書『日本語の論理』より一部改変したもの
この考え方に基づくと、「ネイティブ・スピーカーのように会話できるか」というのは、パロールの能力を尋ねているのである。当たり前であるが英語のネイティブ・スピーカーは、生まれてからずっと朝から晩まで英語で生活している。生活の中で使われるのは主にパロールである。そのような彼らのようにパロールで話したい、会話したい、と願ってもそれは無理である。彼らと同等の時間、同等の年月をかけないと、彼ら並みには絶対になれない。それでもこの分野で英語に長じようとされている方は多い。というか、それが今、日本国に流行しているようだ。th や r の発音を完璧にしたい、とか、It’s a というのは、「イッツ ア」ではなくて、「イッツァ」と繋げて発音すると良い、など。「聞こえないじゃない。初めっから言っていないんだ」とか言われて妙に得心してしまう。皆様もそのようなご経験はないだろうか。
なぜ我々は英語を勉強するのであろうか。英語でなければ接せられない知識に接しそれを身につけ社会に役立てたい、とか、世界を股にかけて仕事をしたい、とかそれが目的であろう。ならばパロールをいくら勉強しても何にもならない。ならばラング、さらにはメタ・ラングの能力を高める勉強に精力を集中すべきである。
例えば、私は整形外科医で骨粗鬆症を専門にしている。故に、整形外科や骨粗鬆症の分野の英語の論文にも目を通す。当たり前かもしれないが、このような論文は一般の英米人は読めないし、理解もできない。我々も、専門家でない限り日本語で書かれたこのような論文を理解することは出来ないだろう。つまり、これこそが、メタ・ラングなのである。整形外科や骨粗鬆症の英語論文が読めるなら、この分野でメタ・ラングに関して英米人を凌駕している、と言えまいか。
ならば、英語という言語そのもので、ラング、メタ・ラングの能力を高めると、ある意味、ネイティブを超えられる。Beyond Nativesである。
英語のことわざは、長い間多くの人によって練り上げられた言葉の「結晶」である。人生、政治、人間関係、恋愛、お金、仕事、などなど様々な諸相でどのようにすれば向上し、また、ダメになるのか、を言葉で表されたものである。とすれば、英語のことわざは、ラングであり、メタ・ラングであると思う。
故に、これをたくさん、1000ほど覚えると、この分野でネイティブを凌駕できると私は思うのである。1000もことわざを覚えているネイティブはさすがにいないようである。
私は私なりに勉強して、1000以上のことわざを覚えた。覚えることによって、骨身に染みて来て、自分の身の回りや世の中で起こる様々なことに、覚えたことわざを当てはめている。これは一つの楽しみでもあるし、また、世の中をより深く理解する術でもあるように実感している。このようなことに長じると私のような凡人でも「賢人」というものに成れるのではないか、と確信している。
それを皆様にもお伝えしたいと思い、この本を著した。
本書では、英語のことわざ10則をひとまとめにしてBEYONDと名付けた。Nativeを超えるのだ、という心意気を示したのである。
本書には100のBEYONDがあり1000則のことわざを集めた。どんどん英語のことわざを覚え、beyondを進めて行かれると良い。BEYONDが進むほど英語力は向上し、さらに、人生の賢人の域に近づいて行くだろう。BEYOND100に近づき皆様の英語力、あるいは、人生力が向上したという実感を得られたとしたら、著者としては望外の喜びである。
令和2年9月8日
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