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プロトタイピングについて知りたい?じゃあまずは、吉野家に行こうか。「うまい、やすい、はやい」から学ぶプロトタイピング。

いきなりですが、プロトタイピングで大事なことの多くは、吉野家から学べます


そう、

「うまい、やすい、はやい」

です。

吉野家の牛丼並盛は352円(税抜)とワンコインでお釣りがくるほど安く、提供スピードは20秒53(新橋の15時)とカップラーメンを遥かに凌ぐほどに早くそして非常にうまい(主観)


この吉野家のコアにあるメッセージ「うまい、やすい、はやい」が、プロトタイピングの重要な部分と共通しているところが多く、その理由についてご紹介していきます。(ちなみに私はプロトタイピングの研究をしている三冨と申します!)


吉野家の店員が牛丼をつくるかのごとく、
プロトタイプを早くつくろう。


吉野家の店員さんの、牛丼をつくる動きは熟達しています。ご飯を盛り付け、肉を乗せ、タレを入れる。そこでは、とにかく早くつくることが重要視されています。そうでなければ20秒53という提供時間の実現は不可能です。


そしてこれは、プロトタイピングも同じです。

プロトタイピングでは、プロトタイプをとにかく早くつくることが重視されています。
例えば、研究者のJangらが2012年に発表した論文では、53チームのエンジニアリングデザインプロジェクトに取り組むチームの、プロトタイピングの傾向を調べています。
結果、より良い結果を残したチームがより早くプロトタイプを作成することが確認されています(Jang et,al. 2012)。
また、この研究では成功したチームは物理的なプロトタイプを用いていたことも示されており、物理的、というところがまた吉野家的です(関係ない)。

では、そもそもなぜ早くつくることが重視され、それにより良い結果がもたらされるのでしょうか。研究者Häggmanらが2013年に発表した論文では、67名の大学院を対象にエンジニアリングデザインプロジェクトを追跡し、最終的なパフォーマンスとプロトタイピング活動の関係性を調べた結果、前述したJangらの研究と同様、早い段階でのプロトタイプにかけた時間と最終的なパフォーママンスとの間で有意な相関が出ました(Häggman et,al. 2013)。この理由として、参加したメンバーへのインタビューで以下のコメントを得ています。

・チームの共通のビジョンを形成するのに役立つ
・プロトタイプを構築することでデザインコンセプトを作成するのに役立つ
・最初は有望に見えたが、よく見ると問題のあるアイデアを取り除くのに役立つ
・早い段階で探究的なプロトタイプを構築することは重要

以上はあくまで一例ですが、このような理由から、プロトタイプを早くつくることは重要です。


吉野家が牛丼を提供するかのごとく、
プロトタイプを安くつくろう。

吉野家では、牛丼並盛りが352円(税抜き)で食べられます。非常に安いです。

素晴らしいです。安いことで価値が高まります。


そしてこれは、プロトタイピングも同じです。

イギリスの研究機関に所属するHeatonが1992年にソフトウェア文脈で執筆した論文によると、破棄されることを前提とした、安くつくることができるプロトタイプをプロジェクトの早い段階で作成することで、主要なインターフェースの問題を80%解決し、結果としてコストをかけてしっかりつくったプロトタイプを作成するよりも効率化すると主張しています(Heaton 1992)(はやいとも絡みますね)。

また、デザイン会社IDEOのCEOティム・ブラウンも著書『デザイン思考が世界を変える: イノベーションを導く新しい考え方』の中で、こう書きます。

初期のプロトタイプは簡素で、ラフで、安上がりでなくてはならない

「安上がりでなくてはならない」と、断言しています。この部分だけ切り取ると、デザイン会社のCEOではなく、牛丼提供会社のCEOの発言のようです。

この理由として、プロトタイピングにかける投資が大きくなればなるほど、現時点でのアイデアやソリューションにのめり込むことになってしまい、修正が効きづらくなることを指摘しています。


いろんなメニューを頼もう。

吉野家の牛丼にはさまざまな種類が存在しています。ねぎだく牛丼だってあるし、ねぎ玉牛丼だってある。キムチ牛丼だってあるし、最近はライザップ牛サラダもある。

いろいろ美味しそうだから、もう1品に絞り込むのではなく、いろいろ食べるべきではないだろうか?


そしてこれは、プロトタイピングも同じです。

同時にさまざまなことをプロトタイピングする並列(パラレル)プロトタイピングの重要性が指摘されています。
サンディエゴ大学の准教授のDowは、2009年に発表したウェブデザインの文脈の論文で、参加者をプロトタイピングのアプローチが違う2つのチームに分けて、ウェブ広告デザインをつくってもらい、その結果をまとめました。
1つ目のチームが「1度に1つプロトタイプ を作成しフィードバックを受け、それを5回繰り返す」、2つ目のチームが「1度に3つのプロトタイプを並列して作成しフィードバックを受け、次に2つのプロトタイプを並列して作成しフィードバックを受ける」。その2つのチームが作成したウェブ広告デザインを評価し、分析しました。

その結果、並列でプロトタイピングを行った2つ目のチームが、クリックスルー率、クライアントサイトでの滞在時間、クライアントと広告の専門家の評価など、すべてのパフォーマンス指標でもう一方のチームを上回りました。その結果を以下にまとめています。

・並列プロトタイピングは、より異なる設計を促進する。
・並列プロトタイピングは、より高品質の設計を生み出す。
・並列プロトタイピングにより、自己効力感を向上させる。

この理由として、同時に並列してプロトタイプ を作成することで、それぞれの概念が有機的に接続し、設計の視点が広がることや、フィードバックを受ける際に、仮に1つのプロトタイプが酷評されたとしても他の2点が存在することでの自己効力感の低減の防止などを挙げています。


何杯も何杯も、おかわりしよう。


そして、吉野家は2020年1月29 日から、定食やW定食を注文した方を対象に、ご飯のおかわりを無料にするという革命的なサービスをスタートしました(2020年5月26日現在)。このサービスはネット界隈をも「神」であると震撼させました。何杯も、何杯もおかわりすればするほど、お得になる。


そしてこれは、プロトタイピングも同じです。

研究者のNeeleyらは2013年に発表した論文で、多くのプロトタイプを設計の初期段階で構築することの価値を検証しました(Neeley et al. 2013)。
この論文では、大学生39人がA4サイズのダンボールを、コピー用紙や消しゴムなどさまざまな道具を用いてできるだけ背を高くする実験を行いました。
実験はグループを2つに分けて行い、1つ目のグループは30分間の間で1つのみつくり、2つ目のグループは30分間の間で5つのダンボールをつくるように指示されました。
その結果、30分間で5つつくるように指示された参加者の段ボールのパフォーマンスが、1つつくったグループと比較して向上しました。
この結果を、NeeleyはKolbの経験的学習モデルと紐付けて説明しています。プロトタイプの量が増えることで、アイデアの形成と再形成という学習サイクルが繰り返されるため、複数のプロトタイプに時間を割いた参加者は、学習サイクルが促進され、良いパフォーマンスに結びついたとしています。



そうすると、うまい結果になる。


注文をしてからの早い提供、さまざまなメニューの食事、おかわり、そして安い値段。お店を退店する頃には、深い満足感と「うまかった・・・」という感覚が生まれていることでしょう。(食べすぎてあれな気がしますが)


そしてこれは、プロトタイピングも同じです。

早く、安くつくり、並列しつつ、反復的にプロトタイピングを行うことで、より良く、"うまい" パフォーマンスにつながるでしょう。

プロトタイピングについて知りたければ、まずは吉野家に行きましょう。そして、「うまい、やすい、はやい」を体感しながらプロトタイピングについて考えましょう。


以上、吉野家に学ぶプロトタイピングでした。


※紹介した研究の内容などは、わかりやすさを優先しているため、意訳している箇所などあります。詳細についてはお問い合わせください。
※本記事で紹介したプロトタイピングは、ソフトウェアに関するものやデザイン思考に関するものなど分野が跨っています。詳細についてはお問い合わせください。


■執筆:プロトタイピング研究者 三冨 敬太

2018年よりデザインファームTsukuru to Ugoku Design株式会社を創業。デザイン思考を活用したデジタルソリューションのデザイン、シティプロモーション推進業務などを展開。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科卒業、研究員(プロトタイピング)。アプリケーション「オトトトン」でグッドデザイン賞・キッズデザイン賞受賞、など。日本創造学会所属 株式会社ステッチ執行役員 veernca合同会社 代表社員。サイゼリヤが好き。一番好きなメニューは柔らか青豆の温サラダと赤ワイン250mlデカンタとプロシュートと熟成ミラノサラミと白ワインの250mlデカンタ。

Tsukuru to Ugoku Design 株式会社

株式会社ステッチ


<References>
・Jang, J., Schunn, C. D., 2012, “Physical Design Tools Support and Hinder Innovative Engineering Design”, Journal of Mechanical Design, 134 (April)
・Häggman, Anders & Honda, Tomonori & Yang, Maria., 2013, "The Influence of Timing in Exploratory Prototyping and Other Activities in Design Projects", Proceedings of the ASME Design Engineering Technical Conference. 5. 10.1115/DETC2013-12700.
・Heaton,N., 1992 "What’s wrong with the user interface: How rapid prototyping can help." In IEE Colloquium on Software Prototyping and Evolutionary Digest London, IEE , Digest No. 202, Part 7, pp. 1-5, Kinoe
・Dow, S., Glassco, A., Kass, J., Schwarz, M., & Klemmer, S.R. ,2009, "The Effect of Parallel Prototyping on Design Performance", Learning, and Self-Efficacy.
・Neeley, W. & Lim, Kirsten & Zhu, April & Yang, Maria. 2013, "Building Fast to Think Faster: Exploiting Rapid Prototyping to Accelerate Ideation During Early Stage Design". Proceedings of the ASME Design Engineering Technical Conference. 5. 10.1115/DETC2013-12635.

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