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0189 - 無かったことにする

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自分の人生に多大な影響を与えてくれた本として外せない一冊がコレ。

カメラマンの「滝本淳助」さんの独特の感性(天然とも少し違う)すなわち「タキモトの世界」を、現在は孤独のグルメの原作者としてお馴染みになった「久住昌之」さんが上手に引き出して程よくツッコミを入れている内容。ハマる人とハマらない人にクッキリと分かれるとは思うが、帯にある「いとうせいこう」さんコメントにもあるように、ハマる人は全編通してとことん笑えるのだ。しかもジワジワと深く沁み入るようなタイプの笑いなので持続性と中毒性が高い。更に370ページを超える厚めな本なので読み応え抜群。たまらない。

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滝本さんの感性は独特だ。特別ぶっ飛んでいるわけではない。なんだか少しだけ変なのだ。

例えば「喫茶店には整理整頓の人がいる」と言い出す。1人で本を読んでいる時、ふと気付いたように、コーヒーやら水の入ったコップやら煙草をテーブルの上でキチッと並べなおす人がいる。そしてまた本を読み始め、少しすると、コップの位置と灰皿の位置を変えたりする。ケーキの底にある紙をフォークを使ってキレイに小さく畳む人も同様。そういう、神経質とも少し違うような人のことを指すらしい。そこにわざわざ着目して名称まで付けてしまうのがタキモトの世界。ちなみに、おしぼりを包んであるビニールがテーブルの上でフワフワ散らかるのが嫌な滝本さんの対処法は「おしぼりの間に挟んで、おしぼりごとたたんじゃう」だそうだ。やっぱり少しだけ変な気がする。

世の中にどのくらいいるのかは不明だが、滝本さんを知る人の中で最も有名なエピソードはきっとこれだろう。

『ごはんの上に納豆をかけて食べるのが好きな滝本さん。でも、納豆1パック分をかけるのは量が多すぎる。で、滝本さんの取る対応は、まず、納豆を半分だけ食べてしまい「無かったことにして」残りの半分の量をごはんにかけて美味しく食べる』

ちょうどいい量で食べたいという目的を果たすために取る手段が「無かったことにする」というチカラ業。さすがだ。

誰にも迷惑かけず、日常の些細なことに意味付けをして楽しむ。誰にも迷惑かけず、良い塩梅で自分に都合良く解釈して満足(納得)する。大袈裟に言うと、タキモトの世界には「生きやすさ」のヒントが詰まっている。実際、この本を読んで以降「無かったことにする」は僕自身あらゆる場面で活用させてもらっていて、おかげで必要の無いストレスを抱え込まなくて済んでいる。

とどのつまり「自分がどう解釈するか次第なんだな」ということを笑いながら痛感させてくれる、2〜3年置きに読み返したくなる素敵な一冊だ。

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