母の教えについての一考察


信念を持ちなさい。
ひとすくいでいいから、信念を持ちなさい。

 仰ぎ見ると空があり、雲があり、涙がある。
 振り向くと、
 町並みがあり、顔があり、手がある。
 いくつかの幻があり、
 雄々しく、逞しく、
 優しく、愚かしく、
 誰かが笑っている。
 ぎこちないその一歩が、
 大地を踏み鳴らしても、
 二歩目が、
 体を後ろに引っ張ってしまう。
 巨大な木々が、
 支えている。

     *

 愛しさと恐れが同時にやってきて、
 俺は、
 ふと、
 母の顔を思い出した。
 不可思議な形象が鳴り響いていた。
 まごうことなき聖(せい)が、
 白い輝きに満ちて、
 笑いかけていた。
 俺は低く低く進んだ。
 分け入るように入った。
 一つの洞窟——
 ぽっかりと黒い口を空けていた。
 俺を手招きしていた。
 淫欲な感情にかれられながらも俺は、
 一人洞窟の頂点に昇った。
 見下ろすと、
 一つ眼が、
 優しく笑っていた。

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