一人一票のまぼろし
みなさんもこうしたニュースを目や耳にしたことがあると思います。国政選挙のたびに、全国の弁護士グループが各地で行う訴訟です。この「一人一票」運動を展開しているのは「特定非営利活動法人 一人一票実現国民会議」というのだそうです。
確かに、各地で弁護士たちが掲げているプラカード、「清き0.XX票はオカシイ!」とありますが、今回の参院選で一番票の価値の高い福井県選挙区に比べて、3割4割程度しか票の価値がないのだとしたら、これはオカシイ!ですよね。弁護士のみなさんには頑張ってもらいましょう!
ちなみに、私が「一人一票実現国民会議」のサイトで「あなたの一票の価値」を計算してもらったところ、衆議院選挙では0.8票、参議院選挙では0.43票でした。う~ん、同じ有権者なのにこれはひどいではありませんか!
ところでここで一つの疑問が生じます。衆議院小選挙区では、鳥取県1区での選挙権を1票とした場合、参議院選挙区では福井県での選挙権を1票とした場合、ととても小さな字で注記がしてあります。なぜ、鳥取県1区、福井県と私の票を比べなければならないのでしょうか?
その理由は簡単です。衆議院では鳥取県1区が、参議院では福井県が、1人の議員を選ぶのに割り当てられた有権者数が最も少ないからです。
むむ? なぜ最も有権者数の少ない選挙区と比較する必要があるのでしょうか? それに今まで、一票の格差といえば「X.XX倍」という言い方をしてきましたよね?
本当の意味で一人一票を実現するのであれば、平均的な有権者一人に与えられるべき選挙権を全員に付与するのが筋なのでは?
福井県を1票として、私は0.43票しか与えられていないから、1票分の権利をよこせ、というのとは微妙に違う気がします……。
ということで、(1)福井県の1票に自分の1票を合わせる、(2)平均的な1票を全員に付与する、の2通りで、この問題を考えてみましょう。
なお、今回、当日有権者数は総務省発表のものが見つけられなかったので、NHKの開票速報のページにある有権者数を使いました。また、神奈川県選挙区では、補欠となっている非改選の1議席が併せて選ばれたため、定数5となっていますが、本来の定数は4です。
(1)福井県の1票に自分の1票を合わせる
1票の基準となっているのが福井県なのですから、「清き0.XX票はオカシイ!」と言ったからには1票をよこせ、ということになります(そう私は解釈します)。
福井県は定数1に対して有権者数が635,127人。635,127人に対して参議院議員が1人選ばれる、これが“本来の1票”であるというわけです。
ということは、日本全国どこででも、635,127人に対して参議院議員が1人選ばれるようにすればよい、ということですね。
つまり、現在の有権者数を635,127で割って、端数を四捨五入すれば選ばれるべき議員の数が算出できることになります。
そうしますと……結論から言うと、改選議席数が、74議席から、165議席に! 2.23倍増になりました! 我が北海道は定数3から7に、埼玉県は定数4から10に、神奈川県は定数4から12に、東京都は定数6から18へと3倍増! 華やかな選挙戦が展開されそうですね!
今度は議員1人あたりの有権者数が最少なのが鳥取・島根の合区で509,886人、最多なのが大分県の950,511人で倍率は1.86倍になりました。議員数を倍以上に増やした割には、倍率は3.03倍の半分にもなってませんね。
(2)平均的な1票を全員に付与する
さてさて、私はこちらが本筋ではないかと思っているのですけれど、まず平均的な1票の価値というものを算出してみよう、というやり方です。一番価値の高いところを基準にするのはどうなのよ、ということですね。
全国の有権者の総数は105,018,764人です。つまり、一人一票が実現した場合の、票の価値の総和もまた105,018,764票になるはず! そこで、この票数を改選議席数74で割ってみますと、1,419,172票になりました。有権者1,419,172人に対して、議員を1人選出するようにすれば、皆が価値の等しい1票を持った選挙になる、というわけです。よかったですね。これが「平均的な1票の価値」ということです。
じゃあ、ちょっと試みに、福井県の1票と比較してみましょうか。635,127人÷1,419,172人=0.45となりました!
……って、え? 全国の有権者の票の価値を揃えると、一人0.45票にしかなりません。ちょっともう一度、ニュースの写真を見てもらいましょう。
「〈長崎〉清き0.57票はオカシイ!」というプラカードをお持ちですが、平均的な1票の価値は0.45票です。長崎のみなさんは、0.57票しか票を持っていないのではなく、0.57票も、全国平均よりも0.12票も多く票を持っていることになります。熊本と福岡はほぼ全国平均と同様ですから、そんなにオカシクナイ……。
はい、これで衆議院では鳥取県1区、参議院では福井県と比較することのカラクリが見えましたね。それはみなさんが小さな価値の票しか持っていないと思わせるために行われていたことだったのです。
それでは、「一人一票」が実現したとき、票の一部を返上する選挙区を列挙いたしましょう。
青森県 0.59票から0.45票へ0.14票を返上
岩手県 0.61票から0.45票へ0.16票を返上
秋田県 0.76票から0.45票へ0.31票を返上
山形県 0.70票から0.45票へ0.25票を返上
茨城県 0.53票から0.45票へ0.08票を返上
富山県 0.72票から0.45票へ0.27票を返上
石川県 0.68票から0.45票へ0.23票を返上
福井県 1.00票から0.45票へ0.55票を返上
山梨県 0.93票から0.45票へ0.48票を返上
滋賀県 0.55票から0.45票へ0.10票を返上
京都府 0.61票から0.45票へ0.16票を返上
奈良県 0.56票から0.45票へ0.11票を返上
和歌山県 0.80票から0.45票へ0.35票を返上
鳥取島根合区 0.62票から0.45票へ0.17票を返上
広島県 0.55票から0.45票へ0.10票を返上
山口県 0.56票から0.45票へ0.11票を返上
徳島高知合区 0.52票から0.45票へ0.07票を返上
香川県 0.79票から0.45票へ0.34票を返上
愛媛県 0.56票から0.45票へ0.11票を返上
佐賀県 0.94票から0.45票へ0.49票を返上
長崎県 0.57票から0.45票へ0.12票を返上
大分県 0.67票から0.45票へ0.22票を返上
宮崎県 0.71票から0.45票へ0.26票を返上
鹿児島県 0.47票から0.45票へ0.02票を返上
沖縄県 0.54票から0.45票へ0.09票を返上
このように、ここに列挙されている選挙区の人たちにとっては、今回の訴訟は、自分たちが持っている選挙権の一部を返上するという意味合いを持っています。
つまり損をする人がいるわけであり、国民の権利の平等のために痛みを分け合ってください、と訴えるのが本来なのです。
それをあたかも、ほとんどの人が権利を召し上げられている被害者のように言い募って訴訟を展開するのはフェアではないと私は思います。
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