【第1話 過去編】ちょっくらアメリカ行ってくる 

時はおよそ6年前に遡る。

小学校の卒業式でクラスの一人一人が自分の夢を宣言するという式目があった。

もちろん式典でぶっつけ本番などではなく、事前に授業で担任の先生に「僕の夢は○○です」と書いて提出しなければならない。

僕は、「大金持ちになる」と書いた。

今考えてみれば不思議なことだが、多くのクラスメイトは「パティシエ」だとか「野球選手」だとか、具体的な職業で決まっている生徒が多く、「サラリーマン」なんて書く現実的なやつもいた。

僕は、みんなはっきり自分の夢があってすごいな、と思いつつも、夢を職業に縛れてしか考えられない阿保めと思っていた節があった。

その度に、自分で書いた「大金持ちになる」という筆跡を眺めてなんて壮大で素晴らしい夢なんだろうとニマニマしていた。

そして、そろそろ頃合いかなと考えて担任に(たぶんドヤ顔で)提出しに行くと、しかし担任からは予想外の反応が返ってきた。

「だめ。職業で書いて」

「え、でも夢なんてないです」

「じゃあ考えなさい」

僕は意気消沈して自分の席に戻った。

まじで本気でイライラしたし、何か見返してやらないと済まない気分になってきた。

そして、ふと冷静になって考える。

なんでお金持ちになりたいんだ?

理由は恐ろしく単純で、「なんかすごそう」だからだ。

取り合えず小学生の時、勉強がクラスで最も優秀で、そこそこのユーモアセンスもあって、クラスで一目置かれる存在だった僕は、普通の職業、ましてや「サラリーマン」なんて書くのはあり得なかったのだった。

考えろ。

世界で最も「なんかすごそう」な職業は何だ?

考えろ。

今まで蓄積していた豆粒ほどの知識をフル回転させて、小学六年生の僕はある単語を弾き出した。

社長。。。

これなら担任も度肝を抜くだろう。



「IT社長になります!」

卒業式のその日、クラスメイト、先生、親、そして来賓客を鼻先に見下ろして、僕は体育館に響くくらいに叫んだ。

「社長」という言葉に「IT」というさらに胡散臭い言葉を加えて、最強の夢が完成していた。

小学生にとって、「なんかすごそう」がここまで限界突破している言葉はないだろう。

「お~」

今までのクラスメイトとは比較にならないほどの大きな感嘆の声が会場から聞こえる。

手ごたえ十分。

心の中でガッツポーズして、丁寧にお辞儀してから満足げにクラスメイトの群の中に潜り帰っていった。

隣の席の女の子が

「すごいみんな、お~って言ってたよ」

と、そんなのはとっくに知っていたけれど、僕は可笑しいくらいに嬉しかった。

「あ、そうなの?」

僕はすました顔でそう呟いて、、、今思い出すと本当に嫌な奴である。



その後、僕は家に帰ってから、親の白い旧式macbookを密かに取り出して、「IT社長 意味」と調べたのだから本当にどうしようもない。

実際偉い人の代名詞として「社長」という単語は知っていたが、「IT」の意味は全くのちんぷんかんぷんで使っていたのだ。

しかし、ガタガタとそのページの読み込みが完了し、画面に映し出された情報を読んだ時、文字通り僕の人生は大きく変わってしまったと思う。

"孫正義"
"ビル・ゲイツ"
"スティーブ・ジョブズ"

時代を創った起業家たちの名前。

彼らの成し遂げたことのごく一端を知った時、「IT社長」の本当の意味を理解したばかりでなく、脳みそがくらくらして、自分が本当に「IT社長」という壮大な夢を描き始めてしまっていることを理解した。

「この人たちみたいになりたい」

生まれて初めて、心の底から憧れが沸き上がってきた。

図ってか、図らずか、僕の担任の些細な一言はブラジルで羽搏く一匹の蝶が起こした旋風のように、僕の中で嵐を轟かせた。

そのまま自分の興奮の赴くままに、彼らのことをもっとよく知りたいと思ってネットサーフィンに没頭しているうち、また僕はある一つの重大な共通点に気付いた。

彼らはみんなアメリカと繋がっている。

孫正義は高校生の時坂本龍馬に憧れ渡米しているし、ビルゲイツはアメリカで生まれ育っていたし、スティーブジョブズはシリアからアメリカに渡った移民の子供だ。

才能はアメリカに集まるのだ、と僕は子供ながらに浅い理解をした。

その時からだっただろうか、僕は強烈にアメリカに行きたいと思うようになった。

旅はもう、始まっていた。

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