コラム"koi"

 喉の奥のほうがつっかえている。久しぶりの気持ち。なんの存在だろう?ご飯の、素材の、温かい味が、ふと鉛のようになる。なんの意識だろう?心臓が、"どくどく"と"きりきり"と。お前だけは勝手に元気だな。ばか。
 緊張って、洗脳がとろとろ溶けちゃってるんだ。今まで、何の確証もなく、確信していた。自分はこんなやつだと、自分はこんなことができると。けど、ふと、我に返っちゃうと、自分はいなかった。だれ?お前はだれ?お前は何ができるの?ちゃんんとふらふらせずに歩ける?未知は不安。体中が謎に包まれて、嫌になって、窓から飛び出して、そのままあっちのほうへ行きたいね。ね。
 つまりだな。真実って怖いんだな。真実が白日の下にさらされちゃう前に守らないと。これが「恥」であり、「恐怖」なんだな。私は何から何を、誰から誰を、守っているのだ?
 この世界で認められるためには、演出家にならなきゃいけない。弱い自分をあんたらから守って、強い自分を見繕い、嘘をつく。化粧して、服を買って、キャラを作って、笑顔になる。醜い、嘘つきの、演出家。
 いつか、こんな話を聞いたっけ。「どんな自分も、本当の自分」。表があって、裏があるって考え方をやめろって、国語の教科書に書いてた。多分この作者は、銀行強盗に襲われて、銃口突き付けられて、お金を手渡すような人を責めちゃうのだ。これも、お前だぞって。
 自分は、自分という容器の中に、いっぱいいる。頑張って意見を戦わせて、自分という器を取り合って、ひょいと選ばれた一つの意見が口から出る。そこに本当の自分はいない。でも、満足できる答えはきっとあるはずだと、奥底のほうで知ってる。だから、戦う。

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