【「地域をつなげる力研究会」 Vol.12レポート】 三足の草鞋を履く 「佐世保をつなげる30人」発起人と深める 異分野をつなげ、未来を創るトライセクター人財の育成秘話
「地域をつなげる力 研究会」とは?
一般社団法人つなげる30人が主催し、全国の「つなげる30人」や、これから「つなげる30人」を立ち上げたい方、研究対象等として関心がある方を主な対象として、全国の「つなげる30人」メンバーの中でも特に群を抜く「つなげる力」を持つ「トップツナガリスト」をお招きし、様々なノウハウ・リソースを共有し、相互に学び合い、助け合いながら切磋琢磨することを目的にしたオンライン定例研究会です(毎月第一水曜夕方に開催します)
この全国のつながりを通じ、このコミュニティが面になり、地域間が連携したコレクティブインパクトを創出するキッカケとなることを期待しています。
今回は、2024年10月2日(水)に開催された第12回目の内容をレポートします。
ゲスト
古川拓也氏
一般社団法人 共感結社モルタル 代表
上場企業サラリーマン
政策アドバイザー
はじめに
今回は、「佐世保をつなげる30人」事務局メンバー、古川拓也さんをお招きしました。
古川さんは東京都内の上場企業に勤めるサラリーマンでありながら、地域活性化法人の代表、さらには佐世保市の政策アドバイザーとしても活躍する、まさに"トップランナーのトライセクター人財"です。
「佐世保とつなげる30人」を始めたキッカケは、渋谷区と佐世保市が締結していた協定(災害時相互応援協定)からつながった人脈から「渋谷をつなげる30人」の活動に触れ、共感。結果的に地元の仲間たちと共に、2022年に「佐世保をつなげる30人」を立ち上げました。
その後、様々な手応えを感じると共に課題も感じ、結果的に高校生を中心とした若者たちに、地域を越えて社会と接点を持つ大切さを伝えることに集中し、情熱を注ぎ、2024年4月には佐世保市役所内に「若者活躍・未来づくり課」を創設。現在もその活動を進化させながら、未来を切り拓いています。
今回は、古川さんから「佐世保をつなげる30人」の活動や、今後の地域づくりビジョンについて特に「異分野をつなげ、未来を創るトライセクター人財の育成」という観点からお話を伺っていきます。
このイベントから学べる5つのポイント
1. 三足の草鞋を履く「生きるトライセクター」の可能性
古川さんは、民間企業の社員、一般社団法人の代表理事、そして佐世保市の政策アドバイザーとして、それぞれ異なる立場から地域に貢献しています。この「生きるトライセクター」という立場は、異なるセクター(民間、行政、市民)をつなぎ、持続可能な地域社会の創出に大きな役割を果たしています。異なるセクターの間をつなぎ、各々の強みを活かしながら地域課題を解決していく姿勢は、今後の地域発展に欠かせないリーダーシップの一つです。
2. 行政との効果的な連携
古川さんの活動では、行政とのスムーズな連携が重要な要素となっています。行政からの支援を直接求めるのではなく、行政に負担をかけないようにする立ち振舞が、持続可能なパートナーシップを構築するための鍵となりました。このように、行政に依存せず、地域や市民が主体となって動くことで、行政との協力関係が長期的に続くことを目指しています。
3. 若者の挑戦を支える仕組み
現在、古川さんの活動は、特に若者の挑戦を支援することに焦点が当てられています。教育現場との連携や、探究活動を通じた学びの機会を提供することで、若者たちが自ら地域課題に取り組む力を育んでいます。若者が地域に愛着を持ち、将来のトライセクターリーダーとして成長できる場を提供することが、地域の持続可能な発展につながると考えられています。
4. 「自主運営」の重要性
地方こそ、行政予算に依存せず、地域の自主性を大切にする「自主運営」が非常に重要です。短期的なイベントに終わらせるのではなく、継続的な活動を通じて地域に変化をもたらすことが求められています。この自主運営の考え方により、地域コミュニティが自律的に活動を続ける基盤が整い、より強固な地域づくりが可能となります。
5. 地域間コラボレーションの可能性
渋谷と佐世保のコラボレーションのように、異なる地域同士が連携し合うことで、さらなる相乗効果が生まれています。地方での活動と都市部での活動をクロスさせることで、双方に新たな発見や学びが生まれ、地域に対する理解や愛着がより深まることが確認されました。こうした地域間コラボレーションは、今後も他の地域で広がっていく可能性があります。
これらのポイントを通じて、「佐世保をつなげる30人」の取り組みは、地方と都市部が連携し、持続可能な地域づくりのために協力し合うためのモデルケースとなりうることが示されており、単なる地域課題解決にとどまらず、次世代のリーダーを育成し、異なるセクターや地域をつなげるプラットフォームとしての大きな可能性を持っています。
古川さんの話しのダイジェスト
1)三足の草鞋を履く「生きるトライセクター」
古川さんは、民間企業の社員、一般社団法人共感結社モルタルの代表理事、そして佐世保市の政策アドバイザーという3つの役割を担っています。彼は、「生きるトライセクター」として、異なるセクター(民間、行政、市民)をつなげる活動を行い、それぞれの立場から地域や社会への貢献を目指しています。
日常的に関東で働きながら、佐世保市のまちづくりにも深く関わる二拠点での生活を送り現在では、特に「若者の活躍支援」に力を入れています。
2)活動の骨子
古川さんは、トライセクターリーダーとして、コミュニティづくり、教育、若者の挑戦の場作り、行政との連携、渋谷×佐世保のコラボ、ファンづくりなど、幅広い分野にわたって活動をしてきました。
コミュニティづくり
地域社会のさまざまな立場の人々が対話を通じて地域課題に取り組む場として2022年度に「佐世保をつなげる30」を主催し、その出会いや気付きの中から、地域の内外にいる市民、出身者、関係人口をつなぎ、地域の未来を共に作り上げるコミュニティを作っています。
若者の挑戦の場づくり
現地の学校の「総合的な探究の時間」を活用し、修学旅行の都内での探究化や研修の場を設けています。例えば、「渋谷をつなげる30人」のメンバーとコラボレーションし、佐世保の若者が渋谷とつながる機会をコーディネートするなど、若者が自ら地域課題に取り組む力を育み、地域の未来を切り拓くための学びの場を作っています。
他にも、高校生プロジェクト「Sasebo Change」や「シニア世代と若者の対話の場」を作り、若者たちが自身の意欲を活かして地域に貢献する機会を提供しています。
行政との関わり
佐世保市の政策アドバイザーとして、行政と市民をつなぐ役割を果たし、2024年4月、市役所内に「若者活躍・未来づくり課」の創設に大きく貢献しました。この新組織は、若者のアイデアや活動を支援し、行政が地域と連携しながら未来を築くための橋渡し役を担うことを大きな目的にしています。
ファンづくり
地域の活動を支えるための「ファンづくり」も、古川さんの重要なテーマです。「移住応援隊」として、都内での移住フェアなどで移住や二拠点生活を検討する人々をサポートし、佐世保に興味を持つ人々との接点を作っています。このように、地域外からの支援者やファンを増やす取り組みを続けています
3)「地方×自主運営」の「つなげる30人」の可能性
地方で「つなげる30人」が行われる際、「自主運営」という考え方は非常に重要な要素となります。つまり、行政予算に依存せず、また外部委託による一時的なイベントではなく、継続性を持たせるための自主運営を重視しています。このような運営体制を取ることで、地域の持続可能な発展に寄与することを目指しています。
また、「つなげる30人」の活動は、成果や具体的なアウトプットだけに焦点を当てるのではなく、その活動を通じてどんな変化を地域にもたらすか、という点に重きを置いています。
その他にも、「ただ集まり、対話する場を作ること」の大切さを強調しています。地方では、地域全体でしっかりと未来を皆で話す対話の機会が少ないため、そもそも個人の利益ではなく、「私たちの町」という視点で地域の現状を振り返り、地域全体の視点で物事を考える機会そのものに大きな価値があると考えています。
今後の課題としては、地方での持続可能なコミュニティ運営に必要な、行政のロジックを理解し、民間と行政をつなぐ役割を担える人材、つまり「トライセクター人材の育成」が急務となっており求められています。
また、単発の取り組みで終わらせるのではなく、仕組みとして継続可能なアウトプットを生み出すためのデザインも今後の重要な課題です。
参加者とのセッション(テーマごと)
次に研究会に参加したメンバーとのセッションが行われ主に以下のテーマにて話しが深められました。
1. 古川さんが「佐世保をつなげる30人」を始めた原体験
古川さんが「佐世保をつなげる30人」を始めたきっかけには、銀行員時代に海外駐在時に「次に自分のリソースをどこに投資するか」を考える機会があり、その結果、自身の故郷である佐世保にインパクトを与えることを決意します。
駐在という異文化環境から故郷の日本や佐世保を客観的に見つめ直すことで、地元への愛着と将来に対するビジョンが生まれたことが語ら、この選択が、将来的な「佐世保をつなげる30人」を立ち上げる動機につながりました。
2. 「佐世保をつなげる30人」から生まれたプロジェクトの支援体制
古川さんが考えたプロジェクト支援体制の要は、行政との連携の可能性を先読みし、関連する部署に事前に情報提供を行うことです。
これは、行政の支援を直接求めるためではなく、あくまでも「情報共有」に留め、プロジェクトが行政に負担やリスクを与えないことを事前に伝えることで、スムーズな連携を築くための準備です。
また、プロジェクトの成果やアウトプットについても、行政に依存せず、運営側が主体的に動き続ける姿勢が求められており、長期的なプロジェクトの持続を目指しています。
具体例として実際に出てきたアイデアである「佐世保おやきプロジェクト」が挙げられます。このアイデアは、佐世保の新たな名産品を作り出そうという取り組みで、試作やイベントを通じて市民と共有されました。これにより、市民会議での問題提起が広がり、佐世保グルメの整理といった市の施策にまでつながりました。
このように、最初は小さなアクションとして始まった取り組みが、結果として大きな成果や新しいアクションにつながっていくことが重要と考えており、ただ社会を変える大きなイノベーションを目指すのではなく、フラットで仲の良い関係性を維持しながら、セクター間の長期的な協力体制を築けた事の価値を強調しました。
3.「佐世保をつなげる30人」を実施したステップの振り返り
「佐世保をつなげる30人」企画初期段階では、メンバー募集と運営体制の構築において多くの試行錯誤について共有がなされました。
まず、佐世保という地域において多様な30人のメンバーをどうやって集めるかでした。まだ深くクロスセクター共創の文化が根付いていないため、企画に対して共感を広げることに苦労しましたが、結果的に、自営業者の方々に多く集まっていただきました。
また、運営側もプロジェクト全体の方向性を示す役割を担うことに慣れておらず、多くの課題は残りました。
また、プロジェクトが進行するにつれて、アウトプットは出てきましたが、その持続可能性が課題として浮上しました。
参加者からは「このプロジェクトはどこまで続くのか?」や「誰がこれを進めるのか?」といった具体的な質問が出てきました。最初の段階では、運営側としては「話し合い自体が大切である」としていましたが、次のステップに向けた具体的なアクションを求める声も増加しました。
今後は、初回での経験を基にして、より多様なメンバー構成を意図的に取り入れることで、プロジェクトの成功と持続可能性を高めていく方針が取られています。
最後に
今回の「佐世保をつなげる30人」の取り組みを通じて見えてきたのは、地域における持続可能なコミュニティづくりや官民連携の重要性です。特に、行政との連携においては、支援を求めるだけではなく、事前に関係部署に情報を提供し、負担をかけない姿勢を示すことで、スムーズな協力体制を築くことができました。このような慎重なステップが、地域内でのプロジェクトの持続性を高め、次なる発展へと繋がっていく可能性を示しています。
また、今回のプロジェクトをきっかけに、市役所内に若者を支援する課が設立され、新たな「つなげる30人」の形が生まれつつあります。次のステップとして、地方の若者たちが地域に対する愛着と共感を持ち続け、地域を支えるリーダーシップを育むことが目指されています。こうした取り組みが、地域全体の活力を生み出し、より良い未来を形作る一助となることでしょう。
今後もこの事例を積極的に共有し、全国の地域で同様のプロジェクトが広がることを願っています。