MMTがJGPを必要とする論理

について考察する。

信用貨幣である現代の法貨の価値は、不動産や物ではなく、国の将来の収入(主に税収)によって担保されているが、収入を生み出す生産要素(土地、労働、資本とそれらを結び付けるentrepreneurship)を分解して、そのうちの一要素を担保にすることも可能だと考えられる。実際、過去にはハイパーインフレーションを招いたフランスのアシニャ紙幣や、逆にハイパーインフレを終わらせたドイツのレンテンマルクなど、土地や地代を担保にした貨幣が存在した。国ではなく企業では、機械設備等の資本も信用を供与される際の担保に用いられている。

労働で貨幣価値を担保するのであれば、貨幣1単位の追加的供給に労働量1単位の追加的供給を結び付ければ、(机上の論理展開では)インフレなき完全雇用の実現に近づける可能性がある。「貨幣発行→財政支出→最低賃金での雇用」をワンセットにして、非自発的失業者がゼロになるまで貨幣を供給すればよいわけである。

労働量と貨幣量を結び付けるアイデアは、マルクスの『ゴータ綱領批判』にも見られる。「資本主義社会から生まれたばかりの共産主義社会の第一段階において」、労働提供量の証書は事実上の貨幣として機能する。

たとえば資本主義的な生産様式は、物的な生産条件が資本所有と土地所有という形で非労働者に分け与えられ、一方大衆は労働力という人的な生産条件の所有者にすぎない、ということに基づいている。生産の諸要素がこのように分配されているなら、消費手段のこんにちのような分配方法が自ずと生じる。
たとえば、一日の社会的な労働時間は個人的な労働時間の総和からなっている。個々の生産者の個人的な労働時間は、一日の社会的な労働時間のうち彼によって提供された部分、すなわち彼が関与した部分である。彼は(社会的な基金のための彼の労働を差し引いたのちに)かくかくの量の労働を提供したという証書を社会から受け取り、この証書によって消費手段の社会的な貯えのなかから同等の労働が費やされたものを引き出す。自分がある形態で社会に提供したのと同じ量の労働を、彼は別の形態で取り戻すのである。
個々の生産者のあいだでの個人的な消費手段の分配に関しては、等価物である商品を交換する際と同じ原理が支配している。すなわち、ある形態の労働がそれと同じ量の別の形態での労働と交換されるのである。

反緊縮・積極財政の立場から現代貨幣理論に関心を持った人の多くが、筋金入りのMMTerの「MMTから就業保証プログラム(JGP)は絶対に外せない」との論理を理解できずに苦しむが、MMTはマルクス主義→新左翼の系譜の経済思想なので、賃金労働を奴隷制に陥らせないことが大前提としてある。

賃金労働のシステムとは一つの奴隷制のシステムであって、しかもそれは、労働者が高い支払いを受けようが安い支払いを受けようが、労働の社会的生産力が発展すればするほどますます過酷になってゆく奴隷制である、ということである。

JGPは政府が提供する最低賃金の仕事で「健康で文化的な最低限度の生活」が送れることを可能にする。

It’s what I now call the social inclusive minimum wage. A minimum wage that allows a person to participate fully in society with dignity. Go to sporting events, go to musical events, go out to dinner occasionally, have a holiday and it would push the minimum wage structure up.

資本家に主導権を握らせないために、貨幣価値の担保から土地と資本を排除して労働と直結させる「労働本位制」あるいは「最賃本位制」とでも言えるアーキテクチャになるのも必然である。通貨供給と労働供給をリンクすることで「通貨の堕落」を防ぐ制度的安全装置(inflation anchor)になっていることも、JGPが外せない理由である。

With a job guarantee you’ve got what I call an inflation anchor. Why? Because if there’s inflationary pressure within the economy the government can always redistribute workers with tighter fiscal into the job guarantee pool and because they’re buying a fixed price, the redistributing workers from an inflating sector to a fixed price sector eventually you solve the inflation pressure.
レーニンはこう語ったと伝えられている。資本主義を破壊する最善の方法は、通貨を堕落させることだと。政府はインフレを継続することで、密かに、気づかれることなく、国民の富のうち、かなりの部分を没収できる。
レーニンはまったく正しかった。社会の基盤をくつがえすには、通貨を堕落させることほど巧妙で確かな方法はない。インフレの過程では、経済法則の隠れた力をすべて、社会秩序を破壊する方向に動員でき、しかも、社会の秩序が破壊されていく理由を、百万人に一人も理解できないのである。

貨幣価値を金銀や外貨や土地や(抽象的な)税収ではなく、健康で文化的な最低限度の生活を可能にする労働と結び付けて担保することにJGPの意義と役割がある。

JGPがMMTの基盤なら、JGPが実施されていない以上、これ(⇩)は事実に反するプロバガンダということになる。

経済分析の正確性は別としてミッチェルには真面目さが感じられるが、ケルトンは誘導的な「うそ、大げさ、まぎらわしい」発言が多く、学者に求められる誠実性を欠いている(日本ではK大学のF)。学者というより新左翼の活動家である。

補足

JGPにはinflation anchorと労働による社会参加があるが、Universal Basic Incomeにはどちらも無いこと、特に人間が資本に管理されるバラバラの個人(一消費者)にされてしまうことが、MMTerがUBIに反対する理由である。個人が手にする貨幣量は同じでも、社会との関わり方には本質的な違いがあり、MMTerはそこを重視している。

資本は、無家族を理想とします。真っ平らな平面に置かれたバラバラの個人のほうが管理がしやすいからです。

参考

「国家そのものを担保」「租税を主とする歳入というものを担保」にしたものが現代の法貨。

それから今までと違いまして、これは企業そのものを担保にするというふうな考え方に近いのであります。で、企業そのものを担保にすると言いますと、こいつは大陸法的と申しますか、ドイツ流と申しますか、概念から言いますというと、企業というものは担保にならぬ。ところが、イギリスのような実際的な見地から法律を解釈する国におきましては、これはむしろアーニングスを主とする企業収入というものを担保にするのだという見方からいたしまして、これは今までの不動産登記でなく、物を主体とするのじゃないというふうな考え方から、会社の登記簿に登記して、しかも画一に対抗要件とか成立要件とかいうような争いにつきましては、これを一本に成立要件にしてしまう。そしてとにかく会社の登記簿に持ってくる。ここは、従来の担保というものは、大体物です。ここに企業担保は物権とするとございますが、物権とは、こういうふうな法律は漁業法にもたしかあったと思いますが、漁業法もやはり不動産を準用していると思います。これだけはとにかく企業そのものを担保とするというふうな見方に、もちろんのれんとかいうふうな、企業財産に含まないようなもの、こういうものは除いていますが、できるだけ企業を担保にするというふうな観念から会社登記簿に登記をし、しかも成立要件にしたということは、最も妥当な措置だと思います。

この考え方を理解できない人々👇。

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MMTは「現代貨幣」は金兌換停止(ニクソン・ショック)によって価値を裏付けるものがなくなったが、「納税の手段」であるために人々に受け入れられていると論じているが、

「現代貨幣」の大部分は、金や外貨によって裏づけられておらず、さらに、その利用を命じる支払手段制定法がなくても人々に受け入れられる。そうだとすれば、貨幣はいったいなぜ受け入れられるのだろうか? 謎は深まるばかりだ。
少なくとも私自身は、貨幣を裏づける唯一のものが「間抜けをだまして渡せると思うから、私はドル紙幣を受け取っている」といった「間抜け比べ」もしくは「ババ抜き」貨幣理論であるなどとは、恥ずかしくて自分の教科書には書けないし、そんなもので疑り深い学生を説得することもはばかられる。
結局のところ、政府の通貨が需要され、それゆえ財・サービスの購入や民間の債務の返済にも使えるのは、納税義務を負う者なら誰もがその(租税)債務を消去するのに使えるからである。政府にとって、通貨を民間の支払いに使い、貯金箱に貯めるように強制することは簡単ではないが、自らが課す納税義務を果たすために通貨を使用することは強制できる。

そうではなく、国家の将来の収入が国債を通じて担保になっている。この仕組みはニクソン・ショック以前も同じで、金兌換停止とは、将来の収入と金準備の二段構えの「担保」から金が外れて一段になったことを意味する。

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