ジンバブエの隠れ財政赤字とハイパーインフレーション

中央銀行が文字通り「お札を刷って」市中に大量に供給した結果、ハイパーインフレーションを招いて自国通貨ジンバブエドルの紙屑化→廃止に至ったのが2000年代のジンバブエである(現在は復活中)。

日本人にはなじみがないが重要なのが、中央銀行のRBZが信用創造したマネーで補助金等を政府に代わってファイナンスする準財政活動 (quasi-fiscal activity)で、IMF Country Report (2005)や

The high rates of money growth that have fuelled the triple-digit inflation are mainly due to the RBZ’s quasi-fiscal activities, reflected in mounting losses on its balance sheet.

IMF Working Paper "Central Bank Quasi-fiscal Losses and High Inflation in Zimbabwe: A Note" (2007)で指摘されていたように、

Realized quasi-fiscal losses are estimated to have amounted to about 75 percent of GDP in 2006. Because they were financed by creating money creation or issuing RBZ securities, they contributed to the four-digit inflation reached in 2006.

これが市中にマネーが溢れて物価が爆発的に上昇する主因となった。ジンバブエドル廃止前年の2008年は、プライマリーバランスは黒字だったが、QFAを含む財政収支は対GDP比約40%の大赤字だった。QFAは「統合政府」の支出なので、財政赤字を中央銀行がファイナンスしたマネタイゼーションがハイパーインフレの直接的原因だったと言える。マネタイゼーションをしていなければ、スタグフレーションで止まっていたはずである。

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財政の健全性を示す利払費の対歳入比は2003年の底から急上昇して2008年には100%を超えていた。経済活動が麻痺状態になって税収が実質ベースで急減したことが主因である。

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供給力不足
→税収不足
→中央銀行が市中に直接的に資金供給
→市中にマネーが溢れる
→物価が爆発的に上昇
→価格メカニズムが壊れて経済活動が麻痺状態に
→法定通貨からの逃避

というハイパーインフレの典型であった。法定通貨にしたからといって、通貨が受け取られるわけではない。

人々が主権国家の通貨を受け取る理由の1つは、その通貨で租税を支払わなければならないからである。支払いに必要がなければ、はなから誰も通貨を受け取らないだろう。租税その他の義務は、その支払いに使われる通貨に対する需要を生み出す。
貨幣の発行者は、支払いを受ける際にそれを受け取らなければならない。貨幣は、その発行者に直接または間接的に支払いをしようとする人々によって受け入れられる。

歴史的経緯についてはダラス連邦準備銀行のGlobalization Institute Annual Report (2011)の"Hyperinflation in Zimbabwe"が詳しい。政府の"print money"はRBZのQFAのことである。

Uncontrolled government spending accompanied the weak economy. In 1997, authorities approved unbudgeted expenditures, amounting to almost 3 percent of GDP, for bonuses to approximately 60,000 independence war veterans. Efforts to cover the payment with tax increases failed after trade-union-led protests, prompting the government to begin monetization (printing additional money to “pay” for the expenditure).
With a shrinking tax base and revenue that could not support expenditures and obligations, the government printed yet more money. Currency lost value at exponential rates amid an imbalance between economic output and the increasing money supply.

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補足①

MMTでは政府と一体化した中央銀行が信用創造したマネーを直接民間に支出することになっているが、QFAはその実例と言える。MMTでは需要超過になってインフレ率が上昇すれば通貨供給を絞る(あるいは税で回収する)が、ジンバブエは逆に通貨供給を増やしたのでインフレが暴走して制御不能になってしまった。火に消火剤の代わりにガソリンを撒いたようなものである。

このような事態を避けるために、先進国では政府は国債市場経由で民間銀行が信用創造したマネーを調達して財政支出に充てることにしている。財政引き締めの必要が生じれば、国債金利が上昇することで自動的に資金調達にブレーキがかかる仕組みである。

補足②

MMTの教祖のビル・ミッチェルがジンバブエのハイパーインフレを理解していないことがわかる記事。

このコメントを参照。

Gosman
Wednesday, September 22, 2010 at 13:37

Your analysis is simplistic and ignores a number of key parts of the collapse of the zimbabwean economy.

「ジンバブエのハイパーインフレは財政赤字とは無関係」といい加減なことを言う人物の日本経済分析や政策提言を信用できるだろうか。

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