アイルランドのリープフロッグは日本再生のモデルになり得ない

アイルランドの猿真似が日本再生の最後の手段になり得ないことを検証する。

2018年のアイルランドの一人当たりGDPは、ドイツに比べても1.6倍です。「ヨーロッパで経済パフォーマンスがもっとも良好なのはドイツ」と思っている人は、是非、認識を改めてください。
さらに驚くのは、アメリカに比べても1.2倍になっていることです。

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しかし、購買力平価換算の1人当たり家計最終消費支出はアメリカ、ドイツ、日本よりも少ない。

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次に、EU諸国についてEurostatの統計で比較すると、アイルランドの1人当たりGDPはドイツの1.65倍あるが、

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国民生活の豊かさを示す1人当たり家計最終消費支出はドイツとほぼ同じである。

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アイルランド経済の特徴は、GDPに占める家計最終消費支出の割合が極端に小さいことである。

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アイルランドが「アメリカより豊かな国」になったように見えるのは、アメリカなどの多国籍企業による巨額の対内直接投資に「実体経済にはほとんど貢献しないが統計上GDPを増やす」効果があるためで、国民の実際の生活水準が比例して上昇したわけではない。2007年→2018年のGDPの増加の9割は営業余剰・混合所得で、労働者の取り分は1割に過ぎない。

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In a blog post last year, economist Seamus Coffey, who chairs the state spending watchdog the Irish Fiscal Advisory Council, attributed much of the GDP growth spike to 25.1% in 2015 to one multinational corporation moving its intellectual property rights to Ireland from Jersey to comply with tax rules on profit shifting.
Consumer spending has been growing but analysis by Ireland’s Central Statistical Office suggests that much of this has gone on higher rents and mortgages, rising local property taxes and water charges.
もちろん、26%成長という数字を鵜呑みにはできない。これは、アップルのような企業がアイルランドの低い法人税率を最大限に生かすために行った事業再構築の結果だ。アップルなどの多国籍企業は知的所有権や特許など、実体経済にはほとんど貢献しないが統計上GDPを増やす資産を持つ。それをアイルランドに移すことで、その収益にかかる税金を低く抑えることができるのだ。

アイルランドのリープフロッグを可能にした基礎的条件であり、日本には真似できないのが、人口の少なさ(未だに1845-49年の大飢饉の前よりも少ない)と、長年イギリスに支配されたことやアメリカにアイルランド系移民が多いことで英米人とのコミュニケーションが容易なことである。

アイルランドの人口は490万人でシンガポール(570万人)や北海道(530万人)、福岡県(510万人)よりも少ないので、アメリカの多国籍企業を呼び込めば、国民1人当たりのGDPは一気に増大する。しかし、これは英語圏に属するアイルランドだから可能だったことであり、西洋とは別の文明圏で人口も1億人以上の日本にとっては現実的ではない。

日本が外国相手のサービスで稼ごうとしても、アイルランドのように多国籍企業の「会計処理や法律実務などの高度な業務」などが主体の「高度技術を駆使した製造・国際的サービス型経済へと転換」することは無理で、観光が関の山である。観光はテクノロジー不要の低スキル産業なので、業者は儲けても国全体の生産性は低下してしまう。

政治では小選挙区制導入、経済では金融ビッグバンが典型だが、米英にかぶれたエリートが日本を国情が全く異なる米英をモデルに改造しようとしてきたことが、日本の政治や経済が劣化の一途を辿っている根本にあると思われる。

彼らの真意が日本をアイルランドのような小国に没落させることだとすれば、失敗ではなく成功ではあるが。

補足

北海道を低税率などの企業優遇策が可能な経済特区にすれば、内地の企業がバックオフィス業務を移転させるなどにより、北海道の経済は拡大する。この拡大版がアイルランドのリープフロッグである。

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